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新日本警察エリミナーレ  作者: 四季
最終決戦編
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122話 「時間稼ぎ」

 エリナの援護に入ったナギは、最初、邪魔しにかかってきた宰次の手下たちを一掃。一分もかからず気絶させた。


 それから、向かってくる紫苑の相手をする。

 宰次との戦いには手を出さない。それは、宰次との決着をつけるのはエリナの方がいい、と判断したからなのだろう。

 確かに、宰次に因縁があるのはナギではなくエリナだ。それを考えると、ナギの判断は間違いではない。極めてまっとうなものである。


「祖母を殺したエリミナーレめ。絶対に許さない……!」

「ちょ、いやいやいや! 追いかけ回してきてたのはそっちっしょ!?」

「黙れっ!」


 ナギは、紫苑のナイフ攻撃を拳銃で防ぐ。そして発砲し、距離を確保。紫苑の次の攻撃に備える。

 果敢に攻撃を仕掛けてくる紫苑に対し、ナギは時間稼ぎのような戦い方をしていた。彼はここで紫苑を倒すことを望んではいないのだろう。

 だが紫苑はお構い無しに攻めてくる。


「よくそんなことが言えるね! ぼくらの家族を殺しておいて!」

「は? 吹蓮は自爆したんっしょ! 殺してなんかないっすよ!」

「嘘つきめ!」

「一方的にそれは、さすがに酷ないっすか!?」


 紫苑の素早い蹴りを回避しつつナギは言う。


「これ多分、誤解っすよ。話せば分か……うわ!」


 死角からの蹴りに反応が遅れ、ナギはなんとか避けたものの、バランスを崩して転倒しかけた。

 誤解を解消することで、平和的に戦いを終わらせようとするナギだったが、何事もそう上手くはいかないものだ。エリミナーレのせいで祖母を失ったと思い込んでいる紫苑が、ナギの言葉に応じるはずがない。


「消えてもらおうか」


 小さな体躯を活かしたジャンプから飛びかかるような攻撃を仕掛ける紫苑。

 対するナギは、バランスを崩しかけながらもしっかり反応し、拳銃を紫苑へと向ける。しかし、彼女が繰り出した鋭い蹴りによって、ナギは拳銃を払い落とされる。


 続くもう一撃。

 ナギは両腕を交差させ、なんとか防いでいた。


「……防ぐとは」

「助かったー。武田さんから習っててセーフ」


 どうやら今の防御は武田から習ったものだったらしい。素人の私からすれば単に腕で防いだだけに見えるが、もしかしたら違うのかもしれない。


 ナギはすぐに床に落ちた拳銃を拾おうとした。しかし、紫苑が落ちていた拳銃を遠くへ蹴飛ばしてしまう。

 これによってナギは拳銃なしでの戦闘を強いられることとなった。


「仇は絶対に討つ」


 紫苑の瞳には、揺るぎない決意の色が浮かんでいた。言葉だけではないと証明するような、勇ましく真っ直ぐな目つきをしている。


 彼女が仕掛けてくることを察し、ナギは防御の構えで待つ。

 少しして、彼女は一切迷うことなく、ナギへ突っ込んでいった。防御の構えを取られていることなどは微塵も気にしていない。


「話し合ってはくれないんすね」


 ナギは残念そうに呟いた。


 そこへ再び来る紫苑の蹴り。ナギは冷静さを保ちつつ腕で受け流す。何度も、確実に。


 だが、途中でほんの一瞬背後のエリナを気にしたがために、右脇腹に蹴りを入れられてしまった。

 彼は地面に崩れ落ちる。


「終わらせてあげるよ」


 身動きのとれないナギに止めを刺すべく、紫苑はナイフを握る。ゆっくりとナギへ近づき、その背中にナイフを突き立てようとした——瞬間。


 大蛇のような黒い鞭が、凄まじい勢いで紫苑を薙ぎ払った。


 一瞬にして数メートル飛ばされた紫苑は動けなくなる。


「ナギ! しっかりしなさいよ!」


 エリナの見事なフォローだった。彼女は宰次とやり合いながらも、背後のナギの様子を確認していたらしい。

 さすがはリーダー。


「た、助かったっす……」

「本っ当に役立たないわね、貴方は!」

「すいません!」

「こんなことなら武田にしとくべきだったわ!」


 ずけずけと言うエリナ。

 それに対しナギは言い返す。


「ちょっ、それは酷いっすよ! 武田さんなんかより俺の方が根性あるに決まってるじゃないすか!」

「あらそう。ならその根性を見せてみなさいよ」

「分かった、見せてやるっすよ! 見せりゃいいんでしょ? 見せりゃ!!」


 ナギは立ち上がる。

 こうして本心を言い合えるのは二人ならでは。それ自体は良いことなのだろうが、さすがにこの場で言い合いが始まるとは予想外だった。

 どうでもいいような内容でナギと言い争うエリナを見て、宰次は笑う。


「随分仲良しですな。ふふ」


 馬鹿にしたような笑い方だ。


 しかしエリナはそんなことには乱されない。「笑っていられるのも今だけよ」と小さく返し、馬鹿にしたような笑いを返す。

 その様子は、何か、時間稼ぎをしようとしているようにも見えた。


「おぉ、さすがに自信家ですな。だが、そんなだからモテない」

「そうかもしれないわね。生憎私は、偽りの自分を作ってまで愛を得ようとは思わない質なの」

「ユニークですな。ただ、京極の娘が子を生さず死んでゆくなど、許されるものか……」

「京極の娘だから、と考えたことはないわね。私はエリナであって、京極の娘という名ではないわ」


 よく分からない会話が続く。


 エリナは何を待っているのだろう。何のためにこんなに時間を稼いでいるのか。

 答えはまだ分からないままだ。



「……沙羅。これは……?」


 横たわっている武田が、唐突に声を発した。


 胸は微かにだが上下している。意識も、先ほどまでよりか、はっきりしているように感じられる。

 この状態であれば、取り敢えず命を落としそうにはない。


「エリナさんとナギさんが戦ってくれています」

「……そうか」


 はぁ、と溜め息を漏らす武田。


 それと同時に、私も心の中で、安堵の溜め息をついた。いきなり「結婚しましょう」などと言ってしまったことに、武田が触れてこなかったからである。


「戦えず……悪いな。体が上手く動かん……」


 当然だ。直前まで死にかかっていた人間がすぐに戦えるわけがない。こうして意識が戻っただけでも奇跡なのである。


「いえ。じっとしていて下さい。生きてさえいてくれれば、それで」

「……引き止めて、くれたこと……感謝する」

「いえ、私がしたくてしたことですから」


 武田に感謝を述べられると、なぜか少し気恥ずかしくなった。

 私は武田の大きな手を握り、エリナらの方へ視線を向ける。


 エリナはまだ宰次と話をしていた。時間稼ぎにしても長い。だが、他の理由があるとは考え難い状況だ。


 早くこの戦いが終わりますように。私はただ、そう願った。

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