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新日本警察エリミナーレ  作者: 四季
三条編
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11話 「古ぼけたアパートにて」

 私はただ電車に乗っていただけなのに、どうしてこんなことになってしまったのか。眼鏡の男性の目的は一体何なのか。結局何も分からないまま、男性に連れられて歩いた。その間ずっと刃物を向けられたままだったので、逃げ出すことも抵抗することもできなかった。


 あの場で抵抗するべきだった? あるいは、「助けて」と叫び、周囲に助けを求めるべきだったのだろうか。……いや、そんなことをしても無駄だっただろう。


 眼鏡の男性は小型とはいえ刃物を所持している。自分が怪我させられる可能性を考えず、見ず知らずの人間を助ける者なんて、そう普通にいるわけがない。結局のところほとんどの人間が「自分が一番大切」なのだから、もしあの時周囲に助けを求めていたとしても、哀れみの視線を向けられるのが関の山だったに違いない。



 芦途駅から数分歩くと、古そうなアパートに到着した。

 かつて白かったのであろう壁は半分近く塗装が剥がれ、白と灰の斑のようになっている。結構長いヒビも何カ所か確認できる。大地震が起これば一瞬にして倒壊しそうな建物だ。


 アパートの一室へ入ると、呆れるほど暑苦しい男たちがずらりと並んでいた。一人一人数えたわけではないが、パッと見た感じで軽く十人以上はいる。しかも、全員ががっちりした体型で、格闘技かなにかをしていそうな外見である。


 そんな暑苦しい男たちは、眼鏡をかけた男性に対し、「お帰りなさいませ」と言いつつ深くお辞儀をする。外見から荒くれ者たちなのだと思い込んでいたが、予想外の礼儀正しさで驚いた。平凡なサラリーマンのように見える眼鏡の男性は、案外高い地位なのかもしれない。


 私はそれからリビングへと案内される。


「まずは座って下さい。傷つけるようなことはしませんから」


 リビングには一人の少年がいた。生え際だけは黒くなっているプリンのような金髪で、男にしては長めの髪を一本の緩い三つ編みにしている。非常に個性的なヘアスタイルだが違和感はなく、よく似合っている。


 私よりも若いであろう彼は速やかにお茶を出してくれた。年のわりに気が利く少年だなと感心したが、私はそのお茶を飲まなかった。どんな薬物が入れられているか分からず不安だからだ。

 この状況で出されたお茶を飲むほど呑気な人間ではない。もっとも、そんな呑気な人間だった方が幸せに生きられたかもしれないが。


「あ、これは預かっておきますよ」


 持っていたカバンは強制的に回収され少年の手に渡った。

 それによりレイに連絡するという道は閉ざされた。助けを求める手段はもう何もない。すぐに殺されそうにないのがただ一つの救いか。


「さて……」


 眼鏡の男性は、少年が抱える私のカバンから、携帯電話を取り出す。


「電話帳を少しばかり覗かせていただきますよ」


 言いながら男性は携帯電話をカチカチと操作し始める。

 何をするつもりなのか分からず困惑していると、彼は嬉しそうな顔をして突然手を止めた。


「一色レイ。彼女はエリミナーレの一員ですね」


 その言葉に私は驚きを隠せなかった。

 眼鏡の彼はエリミナーレのことを知っている。ということは、私を捕らえたのは……とその時、この前真っ白な女性の幽霊のようなものが言っていた言葉を思い出す。


『我々はあなた方の抹殺を命じられました』


 その発言と何か関係があるのかもしれない、ということが唐突に思い浮かんだ。

 誰がなぜエリミナーレの抹殺を命じたのか。そもそも抹殺を命じられたのは誰なのか。分からないことだらけだ。


 だが、目の前にいる眼鏡をかけた男性の企みは、薄々分かっている。

 私を捕らえ、それを伝えることでレイらをここにおびき出す。そして始末しようという計画なのだろう。それなら、先ほど暑苦しい男がたくさんいたのも納得できる。彼らは戦闘要員ということだろう。


 ……狡い男。


『はい。あ、沙羅ちゃん?』


 眼鏡の男性がレイに電話をかける。レイの声が聞こえてきた。


「残念! 外れですよ」


 彼は勝ち誇ったような顔でそう返す。言い方が憎らしい。


『……誰?』

「沙羅とやらは僕が預かりました。彼女を助けたくば、三十分以内に芦途駅近くのアパートへ来て下さい」


 最後に「エリミナーレ全員でね」と付け加えた男性の顔は、愉快そうに歪んでいた。

 それから彼はこちらへ向き直る。


「これで準備は完了、と」


 眼鏡の男性は、私の携帯電話をわざとらしくパタンと閉じ、横の少年が持つカバンの中へしまう。そして口元に満足そうな笑みを湛えつつこちらを見る。


「貴女は仲間がやられるところをそこで見ていて下さい。……面白くなってきましたね」

「面白くないです!」


 私は半ば無意識に言い返していた。

 そうよ、私だってエリミナーレのメンバーだもの。こんなところで大人しく言いなりになっているだけなんて、そんなのはかっこ悪すぎる。真正面から戦う力はなくとも、できることはあるかもしれない。


「こんなことをして、一体何のつもり?」


 例えば、少しでも情報を聞き出すとか。


「何のつもり? ……はっ、笑えますね。まだ分からないのですか?」


 眼鏡をかけた男性は、一度バカにしたように笑い、それから勝ち誇った表情で続ける。


「決まっているでしょう。エリミナーレを叩き潰すためですよ!」

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