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新日本警察エリミナーレ  作者: 四季
最終決戦編
113/161

112話 「絶好調」

 正面玄関から突入する。

 最初にエリナとナギ、その少し後方にモルテリア。私と武田は、三人の背を追うように駆け出す。


 一階の通路では、黒服の男たちが待ち受けていた。

 男たちの体形に統一感はなく、がっしりした者もいれば、しゅっと背の高い者もいる。髪色や髪型も様々だ。全員に共通しているのは、黒服であることと、何かしら武器を装備していることだけである。


「捕らえろ!」


 リーダー格の男が叫んだ。同時にそれぞれ戦いの構えをとる黒服の男たち。だが、エリミナーレは、そんな構えに臆するほど弱虫の集まりではない。


「……やるしかないみたいね」


 エリナは呟き、黒光りした鞭をいつでも使えるように持ち直す。ナギは拳銃を取り出しつつ、エリナに話しかける。


「このむさ苦しい奴ら、一掃するっすか?」

「えぇ。ただ、なるべく死なせないこと」

「もちっす! 心配せずとも、ちゃーんと弾入れ替えてるっすよ!」


 ナギは、片手で握った拳銃を、かっこつけるようにクルッと回す。

 その時、リーダー格の男が「かかれ!」と叫んだ。それを合図に一斉に動き出す。銃器を持つ者は引き金に指を当て、刃物を持つ者は走って接近してくる。


「撃たせやしないわよ」


 銃器を持つ黒服の男たちが引き金を引くより先に、エリナは黒い鞭を振るう。鞭は蛇のようにうねり、男たちの手から銃器を払い落としていく。長い鞭を自由自在にコントロールするエリナを眺めていると、いつの間にか、感動に近いような何かを感じていた。


 華麗に舞うエリナに見惚れていると、背後から一人の男が迫ってきていた。


「まずは一人っ!」


 手には刃渡り三十センチほどの刃物。刺されてはまずい、と本能的に察知する。しかし既に距離を詰められていて、逃れられそうにない。

 私は思わず身を縮める。

 もう駄目かもしれない——そう思いかけた。だが、男の気配に気づいた武田が、すぐに身を返す。男は武田に気づかれ睨まれたことで怯む。


「沙羅に刃を向けるな」


 怯んだ一瞬の隙を逃さず、武田は、男のナイフを持った腕を掴む。そして、空いているもう片方の手で男の手首を捻り、ナイフをもぎ取った。

 十秒もかかっていない。

 恐らく何度も経験があるのだろう、非常に慣れた手つきである。


「くっ、くそっ!」


 ナイフを奪われても男はまだ諦めていない。既にそれを理解している武田は、男の腹に蹴りを入れる。武田にしては軽めの蹴りだが、一般人の動きを封じるには十分な威力のようだった。

 男を蹴り飛ばしてから、彼は小さく「よし」と呟く。そして、私の方へ視線を向けてくる。


「大丈夫そうだ、沙羅。鎮痛剤は十分に効いている。今日は傷を気にせず戦えそうだ」

「本当ですか?」

「あぁ。今日は調子が良い」


 それからも、武田は、接近してくる黒服の男を続々と退けていく。

 その中で彼は一つも傷を負わなかった。今日の武田は、今まで私が見た中で一番の強さを誇っていた。動きに切れがあり、乱雑さもない。見事な戦い方だ。


 おかげで黒服の男たちはすぐに片付いた。


「進むわよ!」


 エリナの声が聞こえたので、武田と共に走り出す。今はまだ予想できぬ未来へと。



 しばらく進み、二階へ上がる。全員揃っているので心細くはない。それだけが救いだ。


 二階の通路を歩いている時、モルテリアが唐突に声をかけてきた。その手には一枚のりんごチップス。


「……沙羅、平気……? これ、食べて……」

「あ。ありがとうございます。でも今は結構です」


 りんごチップスを食べている余裕はさすがにない。いつ何があるのか分からないのだから。


「りんご嫌い……? ……赤くて、丸くて一生懸命……生きてる、りんごなのに……」

「嫌いじゃないですけど、さすがに今は……」


 断りたいが断りづらい。困っていると、武田が話に参加してきてくれる。


「こら。モルは沙羅に絡むな。沙羅が気を遣って疲れるだろう。たとえ良心であっても、押し付けは良くない」

「でもりんご可哀想……。食べられるの、せっかく……待ってたのに……」

「沙羅で消費しようとするな。残った物は残しておいて構わないから」

「でも、余ったら……りんごが可哀想……」

「とにかく。話は後だ」


 面倒臭くなったのか、武田は無理矢理話を終わらせた。彼が面倒臭がる立場というのはなんだか新鮮である。


「モルちゃん。りんごチップスは後で俺が貰うっすよ」

「本当……?」

「嘘つくわけないっしょ! 本当っすよ」

「嬉しい……!」


 心から喜んでいるらしく、モルテリアは頬を赤く染めていた。



 ——その時だった。


 通路の向こう側から、こちらへ歩いてくる人影を発見する。成人女性にしても小さな人影だ。

 先頭を行っていたエリナは立ち止まり、警戒したような顔つきになる。


「……来たね、エリミナーレ」

「えへへっ。待ってたよぉ」


 人影はよく見ると二つだった。背は低く、短い髪。子どものような顔つき。


「紫苑? それに、茜!?」


 懐かしい顔の登場に驚きを隠せないエリナ。平静を装うことも苦手ではない彼女だが、こればかりは平静ではいられなかった。

 私の前にいる武田も、みるみるうちに目つきを鋭くする。


「そうだよぉ。覚えてもらえてて嬉しいなぁ、久しぶりぃ」


 燃えるような赤い瞳の茜は、前と変わらない口調で挨拶してくる。


「貴女たちは新日本警察が保護していたはずじゃ……」

「おじさんが解放してくれたんだよぉ。優しい人だよねぇ、畠山宰次さんって!」


 茜の言葉に、エリナは愕然として固まっていた。言葉が出てこないみたいだ。口紅の塗られた唇が微かに震えている。


「エリミナーレは、祖母の仇。……覚悟!」


 声は冷淡で、顔は無表情。ただ、紫色の瞳には闘志が燃えているようである。ずっとにこにこしている茜とは対照的に、紫苑は真剣な空気を漂わせていた。

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