表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新日本警察エリミナーレ  作者: 四季
約束までの日々編
110/161

109話 「真剣」

 武田の顔は真剣そのものだった。静かな中にも強い意思の感じられる顔つきをしている。エリナを見つめる眼差しは真っ直ぐで、微塵の迷いもない。

 一応お願いという形をとってはいるが、心は固く決まっているようだ。


「何よ、いきなりプロポーズ?」


 エリナは冗談めかす。

 しかし動揺を隠せてはいない。もっとも、いきなりこんなことを言われたのだから、動揺するのも無理はないが。

 それに私はエリナのことを言える立場にはない。私だってかなり動揺しているからである。


「いえ、違います。沙羅を護る許可をいただきたいのです」


 武田は淡々と述べる。非常に落ち着いていた。

 彼は決して揺るがない。エリナはそう察したようだ。軽く深呼吸してから、ゆっくりと告げる。


「……分かったわ。貴方には沙羅の護衛を任せる。その代わり、こちらからも条件を提示させてもらうわね」

「何でしょう」

「条件一、沙羅に一つも傷をつけさせないこと。条件二、貴方も生きて帰ること。飲んでくれるかしら」


 武田は瞼を閉じ、数秒黙る。そして、やがて言う。


「分かりました。それで問題ありません」


 エリナは足を組み直し、「決まりね」と独り言のように呟く。


「それじゃあ、ナギ」

「はいっ!」

「貴方が私についてちょうだいね」


 するとナギの表情がぱあっと晴れた。

 まるで雨上がりに雲の隙間から光が差し込んできたかのようである。


「そりゃもう、喜んで! 本気でいくっす!」

「今回は特に、うっかりミスは許されないわよ」

「イエス! ノーミスでいくっす!」


 浮かれた様子のナギは、軽いノリで言いながらビシッと敬礼する。やる気満々のようだが、妙に高いテンションが心配である。

 だが彼もエリミナーレの一員。そう容易くやられることはないだろう。


「悪いな、ナギ」


 武田は珍しく素直だ。

 ナギはすぐに調子に乗る。


「心から感謝してほしいっすね! 危険な任務を引き受けてあげるんすから! ……エリナさん可愛いんで嬉しいんすけどね」


 最後若干本音がポロリしていた気もするが、それは聞かなかったことにしよう。敢えて突っ込むほどのことではない。


「私のわがままに付き合ってくれること、心より感謝する。この恩はいつか必ず返す」

「ちょ、なんすか!? なんか重いっすよ!」

「重くはない。当然のことだ」

「めんどくさ……」


 妙に深刻な顔で話す武田に、ナギは呆れた表情を浮かべる。心から面倒臭いと思っているような表情だった。


「ではレイ以外全員参加ね」


 エリナの言葉に、全員がしっかりと頷く。決して迷いのない瞳で。

 全員がそれぞれ覚悟を決めたところで、ナギが話し出す。


「そうそう、エリナさん! 報告があるっすよ!」

「どうぞ」

「吹蓮のことなんすけど」

「何かしら」

「自爆したらしいっす!」


 それを聞き、エリナは眉をひそめた。怪しむような目でナギを見ている。


「レイちゃんが言ってたんで、間違いないっすよ!」


 ナギだって最初は信じていなかったのに、と内心思った。


「吹蓮が自爆ですって? ……なんだか怪しいわね。このタイミングで吹蓮が自爆することを、あの宰次が許すかしら」

「他の手がある、ということかもしれませんね」


 私は勇気を出して会話に参加してみる。

 誰かと誰かが真面目な話をしているところに入っていくのは苦手だ。だが、だからといっていつまでも黙っていては、空気同然である。

 エリミナーレの一人なら、空気同然では駄目だ。そう言い聞かせ、自身を鼓舞する。


「お! 沙羅ちゃんが自ら入ってくるとか、レアチーズケーキっすね! なんか思いついたんすか?」

「もっと役に立つ者が現れたから吹蓮を切り捨てた、とか考えました」


 普通はそんな酷なことはなかなかできないだろうが、宰次ならやってのけそうだ。

 なんせ彼は、親しかった瑞穂すら殺めた男である。依頼という繋がりだけしかない吹蓮など、躊躇いなく切り捨てられるに決まっている。


「あー、なるほど。吹蓮はもういらなくなったってことっすね」

「確かにそれはある」


 何事もなかったかのように突然参加してくる武田。

 彼は納得したように頷きつつ、握手を求めてくる。


「さすがだ、沙羅。お前は本当に良いことを言うな。やはりお前は、エリミナーレに相応しい素敵な女性だ」


 なんのこっちゃら、である。

 私は素敵な女性ではない。


「ひゅーっ! 武田さんってば、沙羅ちゃんにメロメーロっすね!」

「黙りなさい、ナギ」

「いてぃっ!!」


 余計なことを言い出したナギは、席から立ち上がってきたエリナに背中をしばかれ、痛みに身を縮める。


「……とにかく。あと数日、おのおの調子を整えておくように。最良のコンディションで行くのが礼儀だものね」


 エリナは落ち着いた声色で述べた。

 マスクをしていても、女王の風格は消えはしない。顔全体が見えなくとも、彼女の大人びた雰囲気は変わらない。


「……うん、頑張る。調子、整えるものない……けど……」

「拳銃の調整は必須っすね! 早速弄ってくるっすわ!」


 モルテリアとナギは返事するや否や離れていく。解散の号令は放たれていないにもかかわらず。


 ……かなり自由奔放だ。


 一方、場に残った武田は、エリナの茶色い瞳をじっと見つめ、「ありがとうございます」と礼を述べていた。

 相変わらず真剣な顔で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ