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新日本警察エリミナーレ  作者: 四季
歓迎会編
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9話 「初日を終えて」

 一度はすべて消えた明かりだったが、すぐ元に戻ったため、歓迎会の準備は何事もなかったかのように再開された。料理を運んだり、テーブルを移動させたり、色々と慌ただしい。真っ白な女性のことは一切話に上がらなかった。みんな「電気が急に消えてびっくりしたね」と笑って言うくらいのものである。


 ただ、武田だけは、どこか浮かない顔をしていた。私が知る限りでは、彼はそれほど表情豊かなタイプではない。とはいえ、心がこの世界にいないような様子には、さすがに違和感を感じた。


 先ほど拾った写真に写っている女性と暗闇に現れた真っ白な女性の姿の一致。それは少々気になるところではある。何か関係があるような気がする。

 しかし私は、彼に何かを尋ねることはできなかった。もちろんレイや他のエリミナーレのメンバーに質問することもできなかった。私にそれほどの勇気はなかったのである。



「沙羅ちゃん、改めてようこそ! エリミナーレへ!」


 レイの発言で歓迎会は始まった。


 歓迎会と言っても参加者は私を含めて五人だけ。わりと小規模である。しかし、こういうイベントに参加するのは久々なのでワクワクする。五人という人数も、多すぎず少なすぎずでちょうどいい。


「これからの活躍が楽しみね」


 エリナは女性らしい柔らかな笑みを浮かべながら言ってくれる。歓迎してくれているのかもしれないが、どことなく嫌みが混じったような言い方で、心なしか怖かった。

 実に複雑な心境だが、余計なことは気にせずに歓迎会を楽しもうと決意する。


 親しくなれたレイがいるし、山盛りの焼きそばもある。それに加えて、春雨やらビーフンやらが混ざった謎の料理やサラダ、お菓子なんかも並んでいる。いろんな物を食べ放題だ。悪い気はしない。


「……沙羅は何か、食べないの? 食べ物、嫌い……?」


 既に皿に大量の焼きそばを取っているモルテリアが、出遅れていた私に、首を伸ばして尋ねてくる。ミステリアスで変わり者の彼女が心配そうな顔をするというのは少々意外だった。台所での武田とのやり取りを見ている感じだと、凄くマイペースな人に見えたから。


 私はひとまず考え事を止め、山盛りの焼きそばを自分の皿へと移す。

 良い香りが漂ってきて幸せな気分になってきた。一気に空腹感に襲われる。そういえば今日は、朝ごはん以降今に至るまで、何も食べていなかった気がする。色々なことがあったせいですっかり忘れてしまっていた空腹感を、ようやく思い出したという感じだ。


「美味しい!」


 焼きそばを口に含み、私は思わず感嘆の声をあげてしまった。驚きの美味しさだったからである。

 私は幼い頃から焼きそばが大好きで、様々な店や屋台で焼きそばを食べてきた。家族で焼きそば専門店へ足を運んだことだってある。そのほとんどが美味しかったが、母が作る焼きそばに勝る物はなかった。「これだ!」と思えるような、しっくりくる味の焼きそばはあまりない。


 それだけに、この味は衝撃的だった。


「この焼きそばは一体……」

「沙羅ちゃん、気に入ったみたいで良かった。それ、モルが作った焼きそばだよ」


 美味しすぎる、という大きな衝撃を受け混乱している私に、親切なレイがそう教えてくれた。


 モル——モルテリアがこれを作ったのだとしたら、焼きそば作りの名人と呼んで差し障りないだろう。


「これをモルさんが?」


 信じられない思いでモルテリアに目をやる。

 だが、本人は話がよく分かっていないのか、キョトンとした顔をしていた。

 こんなに美味しい焼きそば作っておきながら涼しい顔をしているとは、なかなか大物だ。私は彼女を自然と尊敬した。


 そこへ突然、自慢げな顔のエリナが口を挟んでくる。


「モルは料理上手なのよ。彼女は今やエリミナーレのシェフと言っても過言ではないわ」


 エリナは隣にいる武田に、自分が持っているワイングラスへ飲み物を注ぐよう命じる。武田はエリナの指示に従っていた。


 まるで見せつけられているかのような嫌な気分になったのだが——よく見ると武田が注いでいるのはぶどうジュースだった。それもコンビニやスーパーで普通に売っているような物である。

 それに気がついた時、私は驚くとともに、エリナに対して親近感を抱いた。大人びた彼女のことだからお酒を飲むのかと思っていたが、まさかのぶどうジュース。良いギャップだ。


「エリナさんはお料理なさらないのですか?」


 せっかくの機会だ、と思い、勇気を出して質問してみた。

 すると、エリナが答えるより先に、武田が口を開く。


「それは聞くまでもない質問だと思うが。なぜかというと、エリナさんの料理は恐るべき下手さだからだ」


 淡々とした調子だがなかなか酷いことを言う武田に、エリナは顔を真っ赤にする。それはもう、酔っぱらったのかと思うくらいに。


「武田、貴方ね……。人前で言っていいことと悪いことがあるのよ……?」


 しかし武田はエリナが怒っていることに気づいていないようで、何の躊躇いもなく話し続ける。


「少なくとも私には食べられない。昔、エリナさんの料理を一度食べたが、あれはどんな毒薬よりも効いた」


 レイは頭を抱えていた。空気を読める女性である彼女に、この状況は辛そうである。

 顔を真っ赤にしていたエリナは、バンとテーブルを叩き、鋭く叫ぶ。


「いい加減にしなさいよ! 恥をかかせる気!?」

「エリナさん、それは一体どういうことですか? 恥をかかせるなど、そんなつもりはありません。私はただ、沙羅の質問に答えただけのことです」

「それがおかしいのよ! 私への質問になぜ貴方が答えるの!?」

「答えを知っていたので答えただけですが、それはおかしなことですか」


 武田があまりに動じないものだから、怒っていたエリナも段々呆れ顔に変わっていった。そして彼女はついに言葉を失う。「何を言っても無駄だ」と諦めてしまったのだろう。

 そんなことをしているうちに、歓迎会は終わりを迎えるのだった。



 楽しい時間は早く過ぎる。

 よくそう言うが、それは本当だった。


 私は大勢で騒ぐのがあまり好きでない。なかなか話題が合わなかったり、やたらワイワイ騒ぐ人といると疲れたりするからだ。


 だが、エリミナーレの歓迎会は楽しかった。みんな自然体で、しかも温かかったからだと思う。


 そして今夜は事務所に泊まっていくことにした。というのも、エリミナーレのメンバーはいつも一緒に暮らしているらしく、二人ずつ部屋が与えられているのだ。

 だが私はそんなことを聞かされておらず、おかげで宿泊用の荷物は持ってきていない。先に言っておいてほしいものだ。仕方がないので、私はレイとモルテリアの部屋に泊めてもらうことになった。


 これからの職務について、正体不明の白い女性による宣戦布告。まだ色々と謎や不安は残っている。しかし、そう慌てることもないだろう。徐々に馴染んでいけばいいのだから。


 こうして、初日は終わった。

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