野良勇者拾いました。
お久し振りです。
鬱展開ゼロなので、安心してツッコミながら御覧下さい。
私たち森の一族は、その名前の通り森に住み、狩猟や農耕など主に自給自足の生活をする。
女でも成人(十五歳)になれば、狩りや田畑で作物を育て、狩ってきた獣の皮などを加工して、町へ売りに行ったりして生計を立てる。
私ことシュナは現在十七歳。大人になって二年経つ。
両親は三年前の流行り病で亡くし、現在は一人暮らしをしている。森の一族は仲間意識が非常に強い為、成人してない内から一人ぼっちになった私を仲間が助けてくれて、何とかここまで暮らしてこれた。
両親の命を奪った流行り病は、魔王と呼ばれる魔族の親玉が復活した際に、大陸中に瘴気をばら蒔いた所為であった。
この瘴気というのが非常に厄介で、人間の健康を損なうものだった。私の両親は運悪く大量に瘴気を吸い込んでしまった為、徐々に生気を奪われ亡くなった。……私の両親だけではなく、そんな人達が大陸中に沢山いたのだ。
そこで、大陸で一番大きな国である聖ラクファール王国の魔導師が、異世界より救世の聖女さまと伝説の勇者さまを召喚することに成功した。どの国にも属さない自治区である森の一族の元にも伝わるくらいの一大事だった。
その聖女と勇者と、聖ラクファール王国と協定を結んでいる各国の騎士や魔導師と共に、魔王討伐へと向かったのは確か半年ほど前。
現在、私の家。
使い古された卓の上には、イノシシ肉のスープにパン。
向かい合って座るのは、伝説の勇者さま。
「ぷはぁ~久々にフルーツだけの生活から開放されたぁ~」
がつがつ、むしゃむしゃ。
大盛だったスープ皿の中とパンの入ってた籠は、瞬く間に空になった。
私、野良勇者を拾ったみたいです。
野良勇者ことツグモリシュンさまは、チキュウのニホンとか言う所からやって来たコウコウセイと言うものらしい。
出会いは、私が三日に一度の狩りをする為に森の奥深くに入った所、シュンさまが行き倒れていたのだ。
見付けた当初、着てるものがボロボロでとても勇者さまには見えなかった。……今でもちょっと疑ってたりする。
大陸には珍しい黒髪と、黄色の混じった肌色。凹凸の少ない顔立ちが、彼を異世界から来た人と証明していた。
「と言うか、何故勇者さまがあそこで行き倒れになってたのですか?」
今現在も、魔王とその手下の魔族との戦いが絶賛継続中のはずだ。
首を傾げたので、おさげにしていた私の藁色の髪が揺れる。大陸ではありふれた髪色だ。
コップに注いだ林檎水を煽ったシュンさまは、温厚そうな顔立ちを歪めて吐き捨てるように言った。
「綾木……一緒に召喚された聖女?って奴がタチ悪い奴でさ……一緒に旅してた奴らを誑かして、パーティーメンバー内で争奪戦勃発」
シュンさまと一緒に召喚された聖女さまは、アヤキミクルさまと言って、非常に可愛らしい少女だったそうだ。
私と同年代の夢見る乙女だった彼女は、見目麗しい騎士や魔導師に囲まれ、ぎゃくはーれむと言ったものに憧れたらしい。
誰にでも馴れ馴れしくする所為で、パーティー内の男性はシュンさま以外、ミクルさまに骨抜きとなった。
そうなればもう滅茶苦茶で、やれ隣に座るのは誰とか、戦闘の時に一番近くで守るのは誰とか……争いが絶えなかったらしい。
ミクルさまは、自分を取り合って揉める男性陣を見て、大層ご満悦だったらしい。……うむむ。魔性の女ですな。
「僕としては、さっさと魔王倒して早く元の世界に戻りたいのに、本っっっ当……全然進まないし、チームワーク最悪だし……」
思い出し怒り……というものだろうか、段々語気が荒くなって来たシュンさまのコップに、林檎水を注ぐ。それをまた一気に煽って飲み干すと、シュンさまは肺の中の空気を全て吐くような大きな溜め息を吐いた。
「綾木が何かワガママ言うと、それで予定が大幅に狂うんだよ。……魔王討伐に行ってるのに、寄った町のお祭りで歌姫になりたいって……馬鹿じゃねぇの?」
「……旅行気分ですね」
私と同年代らしいのだが、聖女さまは随分考えが幼い方なのだな。
私も林檎水をコクリと飲み、愚痴が止まらない勇者さまを眺めた。
「大陸中で瘴気によって大勢亡くなってんのに、緊張感無い奴らばかりでさ……遂に限界が来たんだ」
昏い色を宿したシュンさまの焦げ茶色の瞳は、視線を落として卓上にあるランプを見つめた。森は日が落ちるのが早くて、今はランプの明かりだけが室内を照らしていた。
私は何故か緊張してしまい、ごくりと唾を飲み込んだ。
「いい加減にしろって綾木にきつく言ったら、あの女嘘泣きして僕に乱暴されたって嘘吐きやがった。そうしたら、腑抜けた男共にリンチされた挙げ句に、装備一式奪い取られて森に捨てられた」
「えぇぇ~……」
だからあんなにボロボロだったのか。
世界の安寧の為に選抜された者たちにしては、随分お粗末な言動だ。シュンさまだけがまともだったのに、その人を追い出すなんて……。
「世界は滅んでしまうかもしれません……」
「この世界の人には悪いけど、もう知らん。あいつらだけでやってくれ。実力はあるから時間が掛かるかもしれないけど、魔王は倒せるだろうよ」
「えぇぇ~……」
行き倒れている所を助けた私に、シュンさまはすごく感謝してくれた。どうやら五日間も森を彷徨っていたらしく、その間は木に生っている果実を食べて餓えを凌いでいたらしい。
「よく狼や熊に出会さなかったですね。丸腰だったみたいですし、運が良かったですね」
「……え?この森、狼や熊出るの?」
シュンさまが顔を青くしていた。知らなかったらしい。
「熊肉、結構美味しいですよ」
「シュナさん、そんなおっとり可愛い系なのに、熊狩るの?」
森の一族は狩りで獲物を仕留めて、解体したら一人前。
そう言ったら、ますますシュンさまの顔色が悪くなった。
シュンさまは、ゲンダイッコと言うものらしく、獣肉の解体や虫に触るのが苦手らしい。特に虫は近くにいるのも嫌らしい。
……ゲンダイッコは森に暮らせないなと思った。
そんなゲンダイッコのシュンさまは、何故か私の家に留まり農作業や毛皮や骨の加工を手伝ってくれている。
どうやら勇者を辞めた所為で、聖ラクファール王国からの後見がなくなったみたいで、行くところがないらしい。
私の家は元は両親と暮らしていたので、部屋には困らなかったし、何より家に誰かがいて食事を共にするのは楽しかった。
獣肉の解体は無理でも、シュンさまは手先が器用みたいで革製品の加工がとても上手だった。
虫が嫌いなのに、何故か農作業の事が詳しくて、初めは一族の皆に警戒されていたが、今では『先生』と呼ばれるくらい慕われている。
そして、漸く魔王が倒されたとの一報が入った頃には、私とシュンさまの間には可愛い赤ちゃんが生まれていた。
……あれ?ま、いっか。
―――おわり―――
すごい……私にしてはほのぼのしてる。
ちょっと登場人物紹介
シュナ(17)
森に暮らす森の一族の少女。
両親を亡くし、一人暮らししている時に勇者を助ける。
おっとりおおらか過ぎる性格なので、勇者の思惑にまんまと嵌まるが、まぁ好きだしいいかと思っている。
割りと可愛いので、一族の同年代でかなりモテていたのだが、鈍すぎて気付かない。鈍すぎるのでいつの間にか勇者に美味しく頂かれてしまった子。
裏設定というか蛇足だけど、ちょいぽちゃな可愛い系の容姿。おっぱい大きい。藁色の髪に若草色の瞳。狩りが上手い。
シュン(18)
本名は継森俊。高校三年生。
同じクラスの綾木みくると共に召喚され、勇者となる。
本人は乗り気じゃなかったので、早く済ませて元の世界に戻りたかったのだが……以下略。
割りと押しが強く、森で助けてくれたシュナが好みどストライク(おっぱい大きくておっとり可愛い系)だったので、徐々に外堀を埋めてゴールインした。結構腹黒い上にムッツリ。
裏設定は、実は武道を嗜んでいてガッチリ鍛えられた体型をしているのだが、顔が平凡なので気付かれない。
頭が良くて手先が器用。虫が嫌い。
虫が嫌いなくせに、母方の祖父母が農業をしているので、知識だけはある。気付かれないがチート。
可愛いお嫁さんとお嫁さんそっくりの可愛い娘がいるから、元の世界に戻る気はない。