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67ページ目 狂剣

 

「今日も一面雪景色〜。真っ白お化粧綺麗だな〜」

「おっ空は燦々太陽さ〜ん。川で跳ねるはハシリウオ〜」

「さんはい」

『ランランランラン、ランランラーン!』

 

 愉快な歌を歌うドラゴン達とネフェル。少し離れた位置からついて行くアリウスにも聞こえるほど大きな声だったが、不思議と煩わしさは微塵も感じなかった。


「ほら、アリウスも!」

「は? いや、俺は……」

「いいから! せーのっ!」

 いきなり振られ、しどろもどろになるアリウス。拍子を刻まれ、思わず歌い出した。


「か、風が強いな、ランランラー?」

「下手くそ〜!」

「外れた歌〜!」

「お前らぁ!!」


 歌を酷評され、アリウスはドラゴン達をとっちめようと走り出す。雪まみれになりながら転がり回る様子を見たネフェルは笑い出していた。

「あまりはしゃぎすぎないでね。風邪引いちゃうよ?」

「子供じゃあるまいし、引かねえって……ハックシュ!!」

「アリウス、風邪引いちゃった? ……ハックチュ」

 アリウスと羽毛が生えた竜が揃ってくしゃみをする。仔竜達は雪まみれの体を震わせて雪を落とすと、寄り添って温めようとする。

「風邪引いちゃったなら、やっぱり帰っちゃダメだよー」

「風邪治るまで僕達の所いよーよ」

「お前らな……」

 あっという間にドラゴンまみれになってしまった。彼らの温かな体温は、アリウスの体と心に伝播していく。


 と、そこにもう一つの体温が加わった。


「ネ、ネフェル……!?」

「うわぁ、あったかい。ずっとこうしてたいね」

「い、いやいや、ずっとは無理だから……!」

「何で照れるのかな? ……でも、いなくなっちゃうの、寂しいから」

 切なく囁くネフェルの声に心臓が跳ね上がる。


 こちらを見上げてくる紅い瞳と目が合う。思わず視線を逸らす。


「あぁっと、ずっと一緒は無理だけど…………また今度、行くよ。次は任務じゃなくて、遊びに」

「本当に? 待ってるよ、この子達と一緒に」


 抱きしめる力が一瞬だけ強くなり、そして身体同士が離れる。

「ん〜、アリウスとネフェル、結婚しちゃえばずっと一緒なのに〜」

「おいおい……」

「いつかそうなるといいなぁ。ね、アリウス?」

 こちらに向けられた笑みに、アリウスはただ困ったように笑うので精一杯だった。





 朝から、村中が大騒ぎだった。

「魔剣が無いんだってよ!」

「どうするんだ、一体誰が……!?」

「とにかく探せ!」


 宿から出たカリスの耳に入った言葉。

 一体何が起こっているのか理解が追いついていない。その時、背後から聞き慣れた声がかかる。

「カリス、どうしたんだこの騒ぎは?」

「フリック……なんか、顔色悪いけどどうかした?」

 フリックの顔色は青白く、何処か目が虚ろだ。昨日より痩せているようにすら見える。


「何でもねえって。で、何の騒ぎ?」

「なんか、魔剣が盗まれたかもしれないって、村の人達が言ってた。近いうちに僕達も捜索に……」

「……そんな事かよ。変わんねえな、人間は」

「え?」

「あ、いやいや何でもねえよ。じゃ、呼び出されたら呼んでくれよ。じゃあな」

「あ、ちょ、待っ…………」

 止める間も無く、フリックは行ってしまった。


 様子がおかしい。さっきの言動、身体の様子。更には普段から熱血な彼が、かなり低い感情であったこと。


 そして、口には出さなかったが、彼が近くにいる時に感じた悪寒。



「…………」

 知らずうちに、カリスの足は彼を追いかけていた。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 ペンを走らせる。


 この時代の文字はユーランスペルよりも構造が面倒ではあるものの、法則を覚えてしまえば簡単だ。


 昔に比べ、騎士団も骨のない人間ばかりだ。晩餐にするには栄養不足な連中が多いものの、前菜くらいにはなる。無駄なく、美味しく頂くことにする。


 手紙が書き上がった。


 〈無事魔剣の回収に成功。これより帰還する。なお、騎士隊長、及び副隊長は回収後の事後処理の為、代わりに、アリウス・ヴィスターが書き記す〉


 この男の記憶を探った時、アリウス・ヴィスターという男が行方不明になっている事を知った。生きている人間より、生死が分からない人間を騙った方が都合が良い。


 何か異常事態を悟られ、増援を呼ばれても面倒だ。これで最低でも時間稼ぎくらいにはなる。



 連絡用の鳩の足に手紙をくくりつけ、飛ばす。思わず鳩を食いそうになるが、ここはグッと堪える。



「何をしている!」


 背後から凛とした声が聞こえる。

 振り返るとそこには、ダイヤの姿があった。


「何をって、別に……」

「……? フリックか。先程鳩を飛ばしていたようだが、何かあったのか?」

「いや……」


 面倒だった。


 当たり前のことだ。どこの世界に、獲物と話をする者がいるだろうか。あえて人間の言葉に直すなら、腹が減った状態で極上の霜降り肉と会話する事など、馬鹿らしいったらない。



「おい、フリック……そこに立てかけてある剣は何だ……!?」

 とうとうバレてしまった。

「何故お前が魔剣を持っているんだ!? 答えろフリッーー」



「ウるせエな」


 肉を貫く重い音、液体が床に滴る音。


「グッ……!? ゴ、フ……!!」

 ダイヤの心臓、そして腹部を貫く2本の触手。それらは立てかけられた剣から伸びていた。

「ン〜、こいツよりは歯応えガアルカぁ?」

「ガ、ゴ、ォ……」

 内部を吸い尽くされたダイヤの身体は瞬く間に干からび、骨と皮だけになって崩れ落ちる。

「やっぱり脆いナァ……人間ハ……」


「っ!!?」


 するとドアを蹴破り、青年が中に踊り込んできた。

「フリック……!? 何をしてるんだ、君は……!?」

「フリックゥ? あァ、この人間カァ? 何してるも何も、食事中ダヨォ」

 触手はフリックだったものの首筋に突き刺さる。すると目が裏返り、半開きになった口から得体の知れない液体が漏れ出ている。

「こいつモもう限界ダナ……お前、新しい宿主二ならなイカ?」


 カリスは腰から剣を抜き、油断なく構える。しかし動揺が手に現れている。剣先がぶれている。


「はっハ……お前面白イ……決めたァ。お前ヲ次の身体にスルゥ!!!」

 次の瞬間、刀身から大量の触手が襲い掛かってきた。

「くっ、うわっ!?」

 一瞬剣で受け止める事を考えたが、嫌な予感が頭をよぎり、横っ跳びに躱した。

 触手は木造の壁を貫き、そこから蒸気が立ち昇る。見ると凄まじい勢いで壁が腐食していた。

「あれか……あれで体内の肉や臓器を溶かして……」

「おォッと、余所見しテル暇はアルカ!?」

 間髪入れずに襲い掛かる触手。


 カリスは家から転がり出るように脱出。自らを狙う魔の手を剣でいなすが、斬りつける度に刀身が崩れていく。


 そしてとうとう、半ばから剣がへし折れた。


「大人しク身体寄越セやぁ!!」

「っ!!」


 眼前まで迫る触手。カリスの喉元まで迫った時、



「させん!!」



 振り下ろされた豪快な一閃が、触手を切り裂いた。

「痛ってェ……何ダぁ、お前……?」

「魔剣に憑かれたか、フリック。……仕方がない。凶熊の剣、お前を解放するために振るうとしよう!」

 グレーガンは剣についた体液を払い、鋭い眼光を向ける。


「案外面白いナァ! イイぞ人間! 飯は活きが良い程食い甲斐がアル!!」


 それを見たフリックーーディーヴァエノスは大剣を抜き、高らかに笑った。



 続く

次回、ドラグニティズ・ファーム、


「悲劇の序曲」


あの魔剣……なんとおぞましい姿よ……!

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