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58ページ目 災厄の機械人形

 

 街から少し離れた場所に眩い光が溢れた瞬間、ゴーレム達に異変が生じる。

 運んでいた貨物を投げ出し、引いていた車を止め、光の方向へ歩き出したのだ。


「な、何だ……一体何が……?」

 ビルツは起きている事情を理解できずに混乱しそうになる。だが隣にいるコノハは、更に辛そうな表情を浮かべていた。

「ダメです……!! それじゃあ誰も、幸せになれない……!!」

 コノハは走り出し、ゴーレム達の群れの中に飛び込んでいった。

「ちょっと、何処行く気だよ!?」

 ビルツが止めようとした時には、既にその姿はゴーレム達に隠れて見えなくなっていた。




 レムリアは気絶しているレンブラントをゴーレムの一体に預ける。

 そして改めてウィスの方に向き直る。目には明確な敵意の色が感じて取れた。

「レンブラントさんの、お知り合いの様ですが、せめて、痛みがないように、楽にして差し上げます」

「それは私の台詞。レンちゃんを返しなさい。血は繋がってなくても私の家族なの」

「違う!! レンブラントさんは、私の家族だ!!」

 レムリアの怒号と同時にゴーレム達が動き出す。巨大な鉄の拳を振り上げ、ウィスを叩き潰さんと迫る。

「……ジノハユガ レドル レーベス」

 レンブラントに対して用いた、魔法のコントロールを奪う魔法を詠唱する。おそらくレムリアが用いているのは使役魔法の類。ならば通用するはず。


 だがゴーレムの動きは止まらない。


「っ!?」

 間一髪直撃は回避。だが地面を打った衝撃波はウィスを吹き飛ばした。

 空中で一回転して体勢を立て直し着地する。

「何故……!?」

「私は、私達はドラグニティや、エルフに対抗するため、生まれました。私の魔法に、干渉出来る種族は、いません!」

 ウィスの周りはゴーレムで囲まれ、追い込むように拳を振り回してくる。剣でいなし、隙を狙って関節部を斬りつけるが、魔力が循環する関節に効果はない。

「ピィッ!!」

 シャディの声を頼りに不意打ちを回避。徐々に中心へ追いやられていくのは分かっているが、そうせざるを得ない。

「このままじゃ……!!」

「ピィピィッ!!」

 一際大きな声でシャディが吼えたてる。だが振り向いた時には、拳が振り下ろされていた。

 覚悟を決め、長剣で防御しようとしたその時、


 燃え盛る炎がゴーレムを飲み込み、鉄の体を火達磨にした。


 空を覆い尽くす赤い影から、降り立つ影が現れた。


「マグラス……アリウス君!?」

 アリウスはゴーレムの肩に着地すると、両肩に剣を突き刺す。魔力が循環する鋼鉄の体を剣は易々と貫通し、両腕がダラリと垂れ下がる。そのまま身体から降り、両膝を切断。ゴーレムは地面に膝をついた。

 残るゴーレムはマグラスの尻尾で払い飛ばされ、叩き潰され、炎で焼かれる。


「どうしてここに!?」

「マグラスに拾われたんすよ。それで光が見えた方向に向かったら……」


 アリウスはレムリアの方を向く。

 厳しい表情、腹部の光、明らかに異常な様子に全てを察した。

「アリウスさん、貴方は、私達の幸せを、奪ったりしませんよね?」

「あぁ。幸せにしてやるよ、みんな」

「良かった……アリウスさんは、分かってくれるとーー」


 次の瞬間、レムリアの腹部に剣が向けられていた。


「アリウス、さん……?」

「楽しかったよ。短い間だったけどな……」

 剣を引き、小さな体へ剣先を突き立てようとした時だった。



 ーー そうやってまた、殺すの? ーー



「…………」

 剣先が寸前で止まる。

 今のは、この剣の言葉ではない。


 失意の涙を流し、光を失った目でこちらを睨むレムリア。かつて愛した人のものに似ていた。


 そう、これは紛れも無い、自分からの、自分への言葉。



「信じて…………いたのに…………!!」

「俺だって信じたかった……止めたかった……みんな、幸せにしたかった……!!」

 未だ、手は動かない。どれだけ力を込めても、剣先がブレるだけで進もうとしない。小さな命を、終わらせることが出来ない。



「………………良いこと、思いつきました」

「何?」

「みんな、幸せじゃないから、だから私達から、奪おうとするんです。だったら、私達の幸せ、分けてあげます」

「何を言って……!?」

 レムリアの様子が豹変する。

 服の下から蔓のようなものが這い出る。それらは徐々に伸び広がり、動きを止めたゴーレムを包み始める。

 やがて、レンブラントを抱えたゴーレムをも取り込み始める。

「やめろレムリア!!」

 やっと迷いを振り切り、剣をレムリアの腹部目掛けて突き出す。

 だがアリウスの腕を蔓は絡め取り、引き寄せる。


「一緒に、幸せにナリマショウ、アリウスサン」

「また、間に合わなかーー」

「アリウスッ!!」


 突如横から突風が巻き起こり、絡みついた蔓を斬り払う。その隙にアリウスは飛び退き、レムリアから距離を取る。

「コノハ!? お前どうして……」

「そんな事より……お母さん、お父さん、レムリアちゃんを止める方法は!?」

 コノハは2人に呼びかける。

「…………ダメ、完全に歯車が暴走してる」

「もうこうなったら下手に止めるのも危険だ。歯車を破壊した瞬間にここが吹き飛ぶ可能性もある」


 蔓は絡め取ったゴーレム達をレムリアの元に集める。そして彼女の腕にレンブラントが抱かれた。


「レムリアちゃん!!」

「コノハサン、一緒、一緒、二、二、二」

「駄目だよレムリアちゃん! 皆の幸せが壊れちゃう!! お願いだからやめてっ!!」

「幸セ幸セシアワセ、せ、セ、シアワセ…………」


 もう誰の声も届かない。


 蔓はゴーレムの体を引き千切り、新たな姿へと作り変えていく。形作るは翼、尾、巨大な顎、鋭利な爪。

 中心で寄り添う2人はやがて、蔓に覆われて姿を隠した。



 立ち上がったその姿は、竜だった。



「ギギィ、ギ、ギ、ギァァァァァァァッ!!」

 機械竜は高らかに吠える。金属を擦り合わせたような不快な爆音に、思わずアリウス達は耳を塞いだ。




 その一瞬の隙を突き、機械竜は空高く飛び上がる。翼膜のない骨組みの翼を動かすことなく、まるで浮遊するかのように飛行する。


「まずい、街に向かう気か!? 皆、俺の背中に乗れ!!」

 言われるまま、マグラスの背中に飛び乗る。

 巨大な翼で羽ばたき、空へ逃げた機械竜を追う。

「彼奴、街そのものを呑み込むつもりだ! この街で止めなきゃ、ヴィルガードが狙われる!」

「ヴィルガードを?」

「今の奴は高濃度の魔力を求めている。ゴーレムの歯車を呑み込んだら、真っ先に魔力の塊である創生樹を狙うだろう」

「ヴィルガードには……!!」

 創生樹だけではない。魔法を使える種族も大勢いる。創生樹を喰らった後は、彼等をも喰らうだろう。


 そんな事を、レムリアとレンブラントにさせるわけにはいかない。


「マグラス、もっと急げるか!?」

「これでも急いでいる!!」

 アリウスの頬を凪ぐ風が、マグラスの言葉を立証していた。だが距離は一向に縮まらない。



 そして、最悪の事態は現実になってしまった。



 機械竜は腹部から大量の蔓を伸ばし、ケーブの街中にいるゴーレム達を次々絡め取り、呑み込んでいく。中にはゴーレムを助けようとしたドワーフ達まで巻き込んでいる。

「それ以上やらせるか!!」

 マグラスは息を吸い、火炎と共に吐き出す。しかし蔓は灼熱の火炎でも焼き払うことは出来なかった。

「クソっ!! あの蔓、植物じゃなーーヌオッ!?」

 機械竜の狙いはマグラス達にも向いた。竜とドラグニティ、魔力を大量に蓄えた2つの種族に惹かれたのか。

 蔓はマグラスの身体だけでなく、コノハとウィス、シャディにまで絡みつく。

「これ、は…………あ、あぁっ!?」

「コノハッ!!」

 強烈な力に引っ張られ、コノハは空中へ投げ出される。ウィスは手を伸ばそうとするが、伸ばした手も絡みつく。


 待ち構えているのは機械竜の腹に空いた穴。呑み込まれ、レムリアと1つになる。



 だが、人影が蔓を切り裂いていく姿が見えた。ウィス、マグラス、シャディに付いた蔓を払い、コノハに絡みつく蔓を捕まえた。

「アリウス!」

 コノハの呼びかけに一瞬笑顔で答えると、アリウスは蔓を斬る。落下する体はマグラスの手で受け止められた。


 それを見届けたアリウスは、改めて機械竜を観察する。

 魔力を持たない自分には目もくれず、またしてもコノハ達に蔓を伸ばそうとしている。完全に理性を失っているようだ。


「…………俺が、楽にしてやる」

 あの時トドメをさせなかった、自分の責任だ。尻拭いは自分がやる。

 必ず、レムリアを止める。


 蔓を伝ってよじ登ろうとした時だった。



 突如、白銀の光弾が機械竜の頭部を撃ち抜いたのだ。巨体が揺れ、地面に落下しかける。

「うわっ!? な、んだ……!?」

 振り落とされそうになるのを耐え抜き、光弾が飛来した方角を見た。



 見覚えがある影だ。美しい蒼い竜、その上で立つ、槍を携えた白銀の騎士。


「竜騎士……!?」



 続けて光弾を撃ち放つ。

 骨組みの翼がへし折れ、機械竜は徐々にその高度を下げていく。



 とうとう街の中心、工場の集まった場所に墜落した。民家を砕き、店を破壊し、地面に身体を擦り付けていくうちに、機械竜はその動きを止めた。



 続く

次回、ドラグニティズ・ファーム、


「堕ちる魂」


敵ヲ討テ…………夢ヲ守ル為二

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