表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/184

54ページ目 正しい選択

 

「は…………? へ、兵、器…………」

 レンブラントの表情こそ笑っている。しかし目を見開き、額から汗が伝っている。

 知らず内に、膝上のレムリアを抱き寄せる。

「な、何言ってるんだいコノハ……だって、そんな、何を証拠に……」

 証拠など目の前にある。コノハが脇に抱えた本。レムリアが倒れる要因となったそれ以外に何があるだろうか。

「この本の中にあったんです。ヴァニティドールが何故生まれたか、何の為に造られたか。それは……」

 本のページを開き、レンブラントに手渡そうとしたその時だった。


 彼女の手は、その本を弾き飛ばした。更に本からは小さな火が灯り始める。

 見るとレンブラントの手には、僅かに炎の魔力残滓が残っていた。


「っ!! レンちゃん何で!?」

 コノハは慌てて本を拾い上げ、種火を叩いて消した。本の角が焦げ付いたが、無事なようだ。

 しかしレンブラント本人も驚いた表情をしていた。無意識だったのだろうか。自分の手を見つめながら震えている。

「いや、これは……私、何で……?」

「ん…………どうか、しましたか?」

 と、レムリアが目を覚ました。不思議そうにレンブラントを見上げ、その次に自分の身体を見た。

「あれ、私、何故……?」

 レムリアの視線がコノハの方へ向こうとした。だがレンブラントはレムリアを自分の胸に抱き、顔を埋めさせた。


「コノハ、さっきの話だけど…………嫌だ」

「ど、どうして……?」

「だって…………」


 レンブラントは一層強くレムリアを抱く。

「まだこの子は……何もしていない。悪い事も、酷い事だってしていない。それなのに…………そんな事、私がさせない。私がレムリアを守る」

 レンブラントの目を見た時、コノハは何も言えなくなってしまった。


 初めて出会った時の目。誰も近づけない、でも、誰かに助けを求めている。なのに、それを必死に隠そうとしている。


「レンちゃん……」

 それ以上言葉を紡ぐ事が出来ず、コノハはレンブラントの側を静かに離れていった。

「……ごめん、コノハ」

「ムム……レンブラントさん、そろそろ…………」

「あ、あぁ、悪いね」

 抱きしめていたことをすっかり忘れてしまっていた。レンブラントは手を離すが、レムリアはそのまましがみ付いていた。

「…………?」

「すみません。やっぱり、このままで、いいですか?」

「……うん、いいよ」

 まるで娘が出来たようだ。

 レムリアは確かに、造られた存在だ。それも、もしかしたら戦いの道具として。でもこの温かさは、生きている証拠だ。造られた生命でも、生きている。


「大丈夫だよレムリア。私が守ってみせる」


 あの時手を差し伸べてくれた、大切な友人の様に。



「…………」

 陰からその様子を見ていたジークは、黙ったままその場を後にした。

 どうすれば、2人が幸せになれる選択が出来るのか。その鍵を握っているのは、

「ヴェグバイン博士……」

 彼、もしくは彼の親族なら、レムリアの事を知っているかもしれない。

 まずは彼についての情報が必要だ。


 ジークは後ろ髪を引かれる想いで、図書館を一人後にした。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 手を握ったり、開いたりしてみる。異常無し。


 指の本数を確認する。異常無し。


 右手の甲を見る。そこにはクッキリと文字の様な傷が刻まれている。明らかに異常あり。


「……はぁ」

 アリウスは薄々感じていた。そろそろ誤魔化すのは無理かもしれない。

 コノハは優しい。自分の下手な嘘、誤魔化しに騙された振りをして、今まで踏み込む様なことはしなかった。だからこそ、そんな姿を見る度に、いつかは告げなくてはならないという重圧が重くアリウスにのしかかっていた。


 過去の出来事。それを告げたとしても、おそらくコノハは受け止めてくれるだろう。笑顔で、「話してくれて、ありがとうございます」と。


 何故だろうか。



 拒絶されたらどうしようと、考えるのは。



 それなら仕方ないと、過去の自分なら割り切れた。当然だろうと、当たり前だろうと。

 だが今は、考えただけで言い得ぬ恐怖心に囚われる。


 あの笑顔が恐怖、そして蔑むものに変わり、優しい温もりを宿した手が、瞳が、離れていく。


「…………っ!? また…………!!」

 右手に激痛が走る。

 道行く人を気にする余裕などなく、ベンチに倒れ込みそうになる。


 流れるのは怒り。

 溢れ出すのは悲しみ。

 満たすのは復讐心。


「何で、今になって……!?」


 ーー オレハ、ユルサナイ ーー


「あいつらじゃない……!? お前まさか……!!」


 痛みは更に増し、全身へと範囲を広げる。身体を無理矢理捥ぐような痛みが内側から抉る。叫びそうになるのを何とか抑える。口から呻き声が漏れる。


 心の中で、情けない声で叫ぶ。喚く。哭く。



 助けて…………助けて…………助けて…………。


 俺は、俺は、おレは、オレハ…………



「アリウス!!」

 その時、柔らかい光がアリウスを包んだ。

 身体の中に入り込んだそれは、ゆっくり痛みを溶かしていく。内側から抉る痛みはやがて、心地良さへと変わった。


 そしてその主は、アリウスがよく知る人。


「コノーー」

「まだです。まだ、静かに……」

 視界が明るくなる。

 その光景に、アリウスは思わず赤面した。


 気付かぬうちに倒れ込んでいたらしいが、その身体の上からコノハが覆い被さるように抱きついていた。顔は吐息が掛かるほど近い。

 そして、その時にやっと気が付いた。


 コノハの瞳が、竜の物となっている。


「お前、また……!?」

「アリウスは黙ってて下さい。もうアリウスの言うことなんて聞きませんよだ」

「そういう問題じゃない! 生命魔法はーー」

「もう、もう騙されてあげません!」

 コノハは大きく叫ぶ。アリウスへ一層強く体重をかける。その気になれば振り払える。

 だが、そんな事をアリウスは出来る筈がない。こんなに華奢な身体を強引に跳ね除けられる筈がない。


「私が気づいてないとでも思ってるんですか!? こんなに辛いのに、痛いのに……何で我慢しちゃうんですか!?」

 何も言い返せない。

 アリウスはただ、コノハの訴えを受け止める。

「そんなに私は頼りないですか……? 私はアリウスの事…………」

「…………」

 悲しげに目を潤ませるコノハ。

 アリウスは不思議と心を締めつけられる感覚に襲われる。こんな感覚を感じたのは、初めてだろうか。

 ネフェルに抱いていたのとは違う、複雑な、絡まり合うような。


「…………コノハ、まず、さ」

「? …………っ!!?」


 アリウスがコノハの背を叩く。それでやっとコノハは気がついた。


 いつの間にか人だかりに囲まれていた。ザワザワと騒めく観衆の目はもちろん、アリウス達に向けられていた。


「は、あ、あわ、あわわ……!!」

「場所を変えよう、な?」

「はい……」




「…………それで、何だけど」

 アリウスとコノハは互いに互いを直視出来ないままでいた。

 人目につかない場所、具体的には図書館に入る道の外れに来たところまでは良かったのだが、


「…………」

「…………」


 2人は沈黙したまま。2人はお互いについて考えていた。


 アリウスは気になっていた。コノハの言葉の続きを。


 コノハは気になっていた。何故自分は、あのタイミングで自分の想いを告げようとしたのだろう。


「あの」

「あの」


 言葉が重なり、またお互いに黙り込む。


「…………プッ、ハハハ!」

 そのうち、アリウスは小さく吹き出した。

「な、何ですか!? 何で笑うんですか!?」

「いや、なんか、ゴメンな」

「はぇ?」

 間の抜けた声を出したコノハの頭に手を乗せ、優しく撫で回す。コノハの白い頬に朱色が混ざる。

「そうだよな。誤魔化せない。誤魔化しちゃ、駄目だよな」

「ア、アリウス?」

 遠い空を見ながら、アリウスははにかむ。


「レムリアの一件が終わったら、今度こそ話す。ネフェルの事も、俺の過去も」

「本当、ですか?」

「本当だ。今度こそ」

「…………最後のチャンスですよ」

 コノハはいつものように頬を膨らませた後、いつものようにアリウスに微笑む。

 その笑顔を失くしたくない。それがアリウスに決心させた。


「私も、その時は……」

「ん?」

「い、いえ! 何でもないです!」


 気づけば日は、西に傾きつつあった。



続く

次回、ドラグニティズ・ファーム、


「生命を造る仕事」


人の手で生命を造る、か……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ