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3ページ目 さあ、耕しましょう

「農……場…」

 深々と頭を下げるドラグニティの少女を見つめたまま動きを止めるアリウス。


 コノハにとって、この頼みはほとんどダメ元だった。

 先ほど、アリウスは「レオズィール王国の騎士」と言っていた。騎士ともなると、他の職とは比べ物にならない収入、そして暮らしを手に入れている。

 それら全てを投げ捨て、今日会ったばかりのドラグニティと共に自給自足の生活をするなど、到底できない。できる訳がない。


 すると、アリウスはゆっくり口を開いた。



「あぁ、いいよ」

「ですよね、やっぱりダメ……へっ?」


 コノハが呆気にとられているのを見て、アリウスも呆気にとられる。

「えっ?だから、農場作り協力するよ」

「………だ、だって騎士なんですよね?そ、そんな簡単に…」

「うぅん、だって今頃王国(あっち)じゃ戦没認定くらってるだろうし。それに……」

 アリウスは空いている手で自身の頭を軽く掻く。


「……やっぱり騎士って俺に向いてないんだなって思い始めてたんだ。そして、最近確信した。俺みたいな夢見がちな奴が騎士になる資格なんて無いってな」

 そこに憂いの響きがあったのは、アリウス自身も気づかなかった。


「だからさ、今更生還しましたって戻るより、こっちで暮らしたほうが性に合ってるかなって思……。コノハ?」

 アリウスが色々と語っていたことは、コノハの耳を素通りしていた。


 ボ〜ッと虚空を見つめていた顔が、突如太陽の如く眩しい笑顔へと変わった。頰に一雫、涙を零して。


「ありがとう…ございます……。本当に、ありがとうございます‼︎」







「んで、本題なんだけど…」


 あの後、アリウスとコノハは今後の計画を予定するためにリビングへ集まっていた。

 小さなテーブルの上に散らばっているのは、様々な種やメモ帳である。

「これからは何をしていけばいいんだ?」

「ふむふむ、まずはですねぇ…」

 鼻の下に指を添え、コノハはメモ帳を開く。何だか、芝居がかっていて面白い。



「まず何をするにも、畑を整備しないといけませんね。理想としては……」

 コノハはメモ帳をアリウスに見せる。

 家の前の敷地の、約半分。正直、どのくらいかかるのか見当がつかないくらい広い。

「……広くないですかね、コノハさん?」

「あぁ、今すぐというわけじゃないですよ。最初のノルマは……このくらいです」

 と、その細い指でメモ帳で記された範囲の隅をクルクルなぞる。

 最終目標範囲の、約8分の1程。まだ広いものの、当面の目標としては丁度良いだろう。



「おし、じゃあ次はーーー」

「種と肥料、その他諸々は私が準備するので大丈夫です。アリウスさんは……」

 すると、コノハは薄っすら微笑む。

 アリウスは冷や汗をかきそうになった。その笑みは、ノイズィチキンを葬った時のそれと似ていたからである。

「力仕事、お願いしますよ♪」




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 コノハについて行くと、家の裏にある物置に着いた。まだ使われていないのか、小綺麗な木製の物置だ。

 コノハが戸を開けると、そこにはピカピカと輝く農具達が眠っていた。

「おぉ………」

「えっと、あぁ、これですね」

 コノハは小さな身体を物置に潜り込ませると、一本の(くわ)を引っ張り出してきた。


 持ってみるとそれなりに重いが、今までアリウスが振るってきた剣に比べれば軽いものだ。

 ブンブンと素振りをしているアリウスを、コノハは嬉しそうに見つめていた。

「それじゃあ畑に行きましょう。耕し方はそこで教えます」


 畑に着いたのだが、こうして見るとやはり広く感じた。


 どこまでも続いていそうな草原の向こうにはコバルトブルーの海が更に続いている。

 右の遥か遠くには渓谷があり、左の遠くには天まで伸びる木々が身を寄せ合う森が広がっていた。


「じゃあ、早速耕して行きますか」

「ちょっと待った!」

 勇んで歩き出すアリウスの前に、コノハが立ち塞がった。


「まずは雑草抜きと小石取りからですよ」

「……え、これ全部?」

「出来ますよね?」

「いや、1人だと……」

「もちろん、私も手伝いますよ。それとも……出来ませんか?」

 目の端にわざとらしく涙を溜められては、アリウスもやるしかあるまい。

 息を大きく吐き出し、袖を捲くり、改めて畑に踏み込んだ。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



  2時間後……

 何とか草むしり、そして小石などの取り除き作業を終えることが出来た。

 始めた時は真上にあった太陽は、西の方角へと進み始めていた。

 さすがに手で草を引き抜くとなると苦労したが、アリウスはその度に触れる土に興味を持った。

「ここの土、柔らかいな」

「柔らかいとはいえ、小石とかがありますからね。さぁ、お楽しみの耕しタイム〜☆」

 自分がやるわけでは無いのにやたらとハイテンションなコノハを不思議に思いつつ、アリウスは鍬を持ち、大きく振り上げた。





「ストーーーーップ‼︎」





「うおっ⁉︎」

 突然の檄に驚き、振り上げた姿勢のまま硬直する。

「いちいちそんな振り上げてたらバテちゃいます!腰ぐらいの高さから、刃の重みを使って耕すんです。あと、耕す時は30㎝くらい、土をよくかき混ぜて下さい」

「それ、先に言っとけば……」



「ン〜?ナニカモンクアリマスカ?」

 表情に陰りが現れ、いつもと別物の笑顔が降臨する。

 中々に酷い仕打ちだ。

「は、はい……」

「フフッ、頼りになります。畝は私が後ろから作っていきますからジャンジャン耕して下さい」

 いつもの笑顔へと変わったコノハに戦慄しながらも、アリウスは言われた様に鍬を振る。


 さて、どのくらいかかるのだろうか?

 3時間?それとも4時間?



「まぁ、考えても仕方ないな」

 そうしてアリウスは考えるのをやめ、鍬を振ることに専心した。


「……がんばってくださいね、アリウスさん」

 コノハの囁きは、風の音が攫っていった。



続く

アリウス、カワイソス(′ ・ω・)


というわけで第3話です。

ちなみに今回コノハが言っていた畑の耕し方は、一応調べたものです。デタラメ載っけたりなんてしたら農家の方々にボコボコにされそうなので……。


余談ですが、筆者は牧場系ゲームはルーンファクトリー4しかやったことありません。

クローリカ可愛いです。


それでは皆さま、ありがとうございました!

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