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51ページ目 たまには昔話を

 

 レンブラントは昔から、他人が嫌いだった。


 そしてそれ以上に、自分が大嫌いだった。



 とある森の奥にあるエルフの大集落。集落を治める4つの長の家系の1つであるカルフュード家の末妹にレンブラントは生を受けた。

 父、母、長である祖父、祖母、そして兄。大家族の中で産まれた彼女。


 だが、誰からも愛されたことがなかった。


 銀の髪。美しい金髪を持つエルフの中で、それは呪いをもって産まれた忌子の証だった。

 集落の大人からは蔑視され、子供達からは罵声と石が飛ぶ。最後の味方である家族ですら、レンブラントの事を邪険に扱っていた。


 ある時、祖父に言われた。

「成人したら、集落から出ろ。それ以外にお前が生きる道は無い」

 プライドが高く他種属に馴染めないエルフが、1人で生きていけるのか。



 ある時、兄に言われた。

「お前のせいで俺達まで変な目で見られてんだ。さっさと出ていけよ」

 嘘を吐くな。集落の子供と一緒に私を虐めてた癖に。嫌ならあんたが出ていけばいい。



 ある時、母に言われた。



「どうして、そんな姿で産まれたのよ……」



 いつしかレンブラントの心は枯れていた。泣いたって誰も聞いてくれない。誰も理解しない。誰も慰めてくれない。


 どうして同じ種族なのに。家族なのに。


 誰も自分の事を、好きと言ってくれないのだろうか。




 そんなある日の事だった。


 レンブラントが誰もいない木陰で眠っていると、1人の少女がこちらに近寄ってきた。


 見たことのない服装。更にエルフにはいない深紅の髪、翠と金のオッドアイ。


 ジーッと見つめて来る少女を無視していると、やがて少女の方から話し始めた。

「こんにちは」

「…………」

「あれ? こんにちは」

「…………うるさい。あっち行け」

「何で?」

「何でって…………私、嫌われ者だし」

「でも私は貴女と初対面だよ?」

 どこまでも純真な瞳でこちらを真っ直ぐ見つめる少女。それがレンブラントにとって気に入らなかった。


 どうせ此奴も、本当の事を知ったら拒絶するに決まってる。何も知らない癖に。


「いいか!? 私はーー」

「あれぇ? 呪われ女の所に知らねえ奴いるぞ〜?」

 と、少女の背後からゾロゾロと集団が現れる。先頭に立っている少年はビッケン・オッカ。この集落で子供達を纏めている。祖父がこの集落で一番偉い長で、魔法も得意。ズル賢い奴だった。


「何だお前? この村の奴じゃねえな?」

「あ、こんにちは。私、コノハっていいます。よろしくお願いします」

「名前なんか聞いてねえよ」

「あぁ、ビッケン見ろよ! こいつ首の後ろに鱗生えてるぜぇ!!」

 取り巻きの少年が指差す先には、美しく輝く一枚の鱗。レンブラントはそれを見てやっと少女の種族が分かった。

「あんたーー」


「此奴ドラグニティかよ!!」

 ビッケンが叫ぶと、周りの少年たちも同じ様にわざとらしく囃し立てる。

「ドラグニティって、あのドラゴンの血飲んだ奴だろ!? うげぇ!」

「首の鱗気持ち悪!!」

「おら石投げろ! ドラゴン退治だ!!」


 そしていつもレンブラントにやっている投石をコノハに対して始める。飛び交う石、砂利、砂。

 レンブラントは呆れながらそれを見ていた。

(これで懲りただろ。泣きながら家帰って、二度とこんな所にーー)


 しかしレンブラントが見たのは信じられない光景だった。


 微笑んでいたのだ。石が額に当たり血が出ていても、綺麗な服が砂まみれになっても。優しい笑顔のままだった。


「な、何だ此奴、気持ち悪い!!」

「何で笑ってんだよ、血、出てんだぞ……」

「ん? 何でって、当たり前だよ」

 コノハは額の血を手で拭う。手にベッタリついた赤い跡を少年たちに向けた。



「みんな一緒。みんな生きてるんだもん。怪我したら血は出るし、痛かったらみんな泣くよ。でも私は、みんなと違うんだもん。泣いたら変でしょ?」


「…………お、おい、ビッケン」

「……気味が悪い。帰ろうぜ…………」

 少年たちは青白い表情を浮かべて去って行った。


 直後、コノハは地面にへたり込む。


「バカ!! 何やってんのあんた!!」

 レンブラントは気がついたら走り出していた。流血している箇所を布で拭き取り、木陰へ引っ張っていく。

「あ、ありがと…………」

「どうしてあんな事、あんた痛くないの? 傷付かないの?」


 その時見たコノハの哀しい笑顔を、レンブラントは忘れられない。



「大丈夫だよ。慣れてるもん。これくらいへっちゃら。えへへ」





「待ってろ。今うちまで、連れてくから」

 レンブラントはコノハを背負い、我が家に歩を進める。正直帰りたくないが、怪我人がいる以上、背に腹は変えられない。医者に見せようにも、レンブラントには小遣いすら無い。


 しかし不安もあった。ただでさえエルフのほとんどはプライドが高く、他種族に対してかなり厳しい。


 ドラグニティの見知らぬ少女を助けてくれるのか。しかもエルフの中で嫌われている、自分の頼みで。


「だ、誰か!! こいつ怪我してるんだ! 誰か……」

 家の中に、また見知らぬ人影があった。

 一人はコノハと同じ髪色をした、翠色の瞳の女性。そして銀色の髪をした、金色の瞳の男性。レンブラントの祖父と話をしているようだった。

「何だ騒がしい!! 客人が来ているんだぞ!!」

「いや……嬢ちゃんが背負ってるのは……コノハ!?」

 と、男性が真っ先に駆け寄ってくる。父親なのだろうか。声色が鬼気迫るものとなっている。

「まさかレンブラント、お前が……」

「違う!!」

 祖父の疑念の声に、レンブラントはすぐに否定した。

「私は、こいつに……こいつに、助けられて……」

 今にも泣きだしそうになるレンブラント。こんなに心が不安定になったのは久々だ。目の端から思わず涙が零れ落ちそうになる。


「落ち着いて。何があったの、コノハ?」

 すると、男性の後ろから一人の女性が歩み寄ってくる。母親だろうか。コノハにとてもよく似ている。

 女性に尋ねられたコノハは、少し照れ臭そうに話し始めた。

「な、何でもないよ。ちょっと転んじゃっただけだから」

「……」

 女性は勘ぐるように2人を見比べていたが、やがてコノハそっくりの笑顔を向けて言った。

「そっか。じゃあ3人でお薬屋さん行こう」

「はい」

「……うん」

「マグラス、後はお願いね」

「ま、待てウィス、俺もーー」

「あなたは里の代表代理でしょう? じゃ、オ、ネ、ガ、イ、ネ?」

 先程の笑顔から一転、恐ろしい邪気を感じる笑みを向けられたマグラスは引き攣った笑みで小さく頷く。

「さ、行こう。えっと……」

「……レン、ブラント」

「そ、レンブラントちゃん。ありがと、コノハのお友達になってくれて」

「……っ!!」


 友達、そして自分に向けた温かい笑顔。


 自分が欲しかったものをくれた家族だった。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「……それが、2人の、馴れ初めですか」

「そう。どうだい、中々泣ける話だったろう?」

「その後、どうしてもうちに来たいって泣きついて、しばらく居候してたんですよね」

「ちゃ、ちゃんとうちの手伝いはきちんとしてただろう!? ……ウィスさんとマグラスさんにもいつか恩返ししたいねぇ」

 遠い目をしながら呟くレンブラント。



 昔話が始まったのは、コノハのお説教が終わった後、レムリアが尋ねた事がきっかけだった。

「コノハさんとアリウスさん、そしてレンブラントさんとジークさんの出会いは、分かりました。ならば、レンブラントさんとコノハさんは、どのようにして、出会ったのですか?」



「にしても、意外だったね。そういうのに興味なさそうだったのに」

「いえ、別に、そんな……」

「気になったんですよね。ゴーレムでも家族について興味が出たらしくって」

「あっはは、ゴーレムにもやっぱり色んな奴がいるんだねぇ……は?」

 そこまで話してレンブラントは気が付いた。

 まだ話していないはずの秘密がばれていることに。


「な、なんでレムリアの事、ゴーレムだって……!?」

「私が、お話し致しました。最も、コノハさんは既に、感づいていらっしゃいましたが」

「なぇ……!? 私、そんなに不自然だったかい……?」

「正直、レムリアちゃんの魔力を感じる前から不自然ではありました。記憶喪失の下りとか、いかにも急ごしらえで考えましたって感じで」

「グ……」

 長年連れ添った友人に言われてしまってはどうしようもない。レンブラントは素直に白状することにした。


「なんか、ラットライエルの裏通りで倒れているのを見つけて、置いていくのも何だと思ってさ……でもこんなに人間に近いゴーレムなんて信じてくれないと思ったし……」

 と、レンブラントは部屋を闊歩するゴーレムに目を向ける。それを見たゴーレム達は「心外だ!!」言わんばかりにフゴフゴ怒り出す。

「正確には、ヴァニティドールです」

「で、そのヴァニティドールってのはゴーレムと何が違うんだい?」

「……」

「そこは記憶がないのかい……」

 黙り込むレムリア。

 困ったように腕組するレンブラントに、コノハはある提案をした。

「なら、調べに行けばいいんですよ」

「何処に?」

「あるじゃないですか、レオズィールに並ぶ巨大都市ですよ……」

 胸を反らし、得意げなコノハ。余計なことを言おうとするレムリアの口をレンブラントが塞ぐと同時にその都市の名を出した。


「魔術学大都市、ヴィルガード!!」





「兄さーん、だいじょーぶー?」

 ジークは昔話に花を咲かせる2人に気を使い、リビングを後にしていた。そこでふと、鶏小屋に投獄されたアリウスが気になって様子を見に来たのだった。

 鶏小屋の前ではゴーレムが一体見張りをしていたが、何とか身振り手振りで用件を伝えると、快く鍵を開けてくれた。

「兄さ、あああああぁぁぁぁぁん!?」


 アリウスは鶏小屋の真ん中で依然目を回していた。付け加えると、中のノイズィチキン達に甚振られていた。

「しっかりして兄さぁぁぁん!!」

 ジークは細腕でアリウスの体を抱え、必死に外へと運び出した。



 この時ジークは気が付かなかった。



 アリウスの右手の甲に刻まれた生傷の存在に。


 そしてそれがユーランスペルを象っていたことに。


 その内容は、



 ーー 夢破れし騎士、友と愛す者の死に嘆き、覇道に堕つる ーー



 続く

次回、ドラグニティズ・ファーム、


「ヴィルガード」


楽しみですね〜。私実は行きたかったんですよ〜。フフフ!

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