2ページ目 初めましてのランチタイム
ふと目がさめる。
なんて事はない、普通に朝、起床するのと変わらない目覚め方だ。
だが起き上がり、周りを見た時に気づいた。
ここは兵舎でも、ましてや天国でもない。
机一つとアリウスが寝ていたベッドしかない、かなり殺風景な部屋だ。
「……何がどうしてこうなったんだ?」
アリウスはまだ寝ぼけ気味な頭をブンブン振り、立ち上がろうとした時だった。
ゴゲェェェェ‼︎ ゴ、ゴォゲェェェ‼︎
「うおおお‼︎ うるせぇぇぇ‼︎」
耳をつんざく様な鶏に近い何かの声が響き渡り、アリウスはずっこける。
耳を押さえた状態で悶絶していると、どたどたと誰かが部屋に駆け寄る音が聞こえてくる。
ガチャリと、扉が開かれた先にいたのは。
「だ、大丈夫ですか…?」
紅葉の様な深い赤色の長い髪をまとめ上げ、頭に頭巾を被った少女だった。右は翠、左は金のオッドアイ、その顔は少し幼さを感じるものだった。
その両手には、今なお絶叫を発し続ける大きな鶏を抱いていた。
「あ…うん……ていうか」
アリウスは絶え絶えな声を、やっとのこと発した。
「あんた…どちら様?」
「いやあ良かったです。やっぱりあのお薬効くんですね、後で沢山作っておこ♪」
「あぁ、うん」
アリウスはあの後、この家の食事場の様な場所に連れられた。
壁などを見るに木製の家だろうか。しかし、所々に巨大な骨を用いた柱が顔を見せており、小綺麗ながらも古風な味を出している。
アリウスがいた兵舎とは、いい意味で大違いだ。
「と、そうでした。自己紹介ですね。えっと…」
「あぁ、俺から名乗るよ」
この世界で自身のことを名乗る際は、名前、種族、職業を言うのが礼儀である。
「俺はアリウス・ヴィスター。種族はヒューマンで、職業はレオズィールの騎士をしている」
「はい。私はコノハ・レミティ。種族はドラグニティ、職業は…農場主、ですかね」
「ドラグニティ⁉︎」
「ふぇっ⁉︎」
飛び上がるように立ち上がったアリウスにコノハも同じように飛び上がる。
ドラグニティは、太古に竜の血を飲んだことにより、竜の力の一部を受け継いだ種族である。エルフと並んで寿命が長く、様々な生物と会話が出来る「ユーランスペル」を産まれながらに話せる唯一の種族でもある。
竜と最も近い種族ということもあり、アリウスはドラゴンと同じくらいに会いたかったのだ。
「てことはユーランスペルも話せるのか? で、でもヒューマンとあまり変わらないんな!う…噂だと、うなじに”逆鱗”があるって…」
「だ、ダメです‼︎」
アリウスの変容ぶりにドン引きしつつも、コノハはうなじを両手で隠す。
「げ、逆鱗はダメです‼︎ こ、これだからヒューマンといいドワーフといい、他種族は嫌なんです…」
「いや、ゴホン! す、すまなかったな。命の恩人なのにこんな失礼なこと。騎士として、深く反省をーーー」
ぐぎゅうううぅぅぅぅ
『あ…』
紳士的に謝ろうとしたアリウスの言葉を遮ったのは、自身の腹の虫だった。
果てしなくかっこ悪い。
「…………恥ずかしい」
アリウスは右手で顔を押さえてうつむく。
それを見ていたコノハは最初呆気に取られていたが、遂に「フフッ」と吹き出した。
「今、ご飯用意しますからね」
「…本当すまない」
「下準備は出来てますから、大丈夫です。さてと……」
コノハは視線を、床をトントン歩き回る鶏に向ける。
この鶏、「ノイズィチキン」と言われるもので、なにぶんうるさく泣き喚くのが難点だ。しかし、その肉はサッパリ柔らかく、また鳴き声の源である声帯はコリコリとした食感が美味な珍味となる。
コノハは張り付いた様な笑顔のまま、ノイズィチキンを抱き上げ、調理場の天井から下がっている紐へと向かう。
「ち、ちょっと?まさか……⁉︎」
アリウスは全てを察してしまった。
ノイズィチキンは逆さ吊りにされて尚、事態が分からずアホ面をしている。
だがコノハが取り出した小さなナイフを見た瞬間、ノイズィチキンも悟ったようだ。
またも汚い叫びを撒き散らすが、コノハは笑顔のまま……
恐ろしい一部始終を見てしまい、アリウスは絶句していた。
チキンを綺麗に屠殺すると、流れ作業のように血を抜き、羽毛を取り、内臓を取り除き…
あっと言う間に、市場でよく見る部位ごとに解体してしまった。
「ふぅ、うるさいのが嫌ですけど、ノイズィチキンは解体しやすくて大好きです」
コノハは天使のような優しい微笑みをアリウスに向けた。
顔や手に返り血がついたまま。
「……ソ、ソウダナ…」
片言で返すのが精一杯だった。
ーーー 十分後 ーーー
「出来ましたぁ!どうぞ召し上がってください♪」
コノハはルンルンと楽しそうに皿を持って来る。
ノイズィチキンと野菜をたっぷり挟んだハンバーガー。トマトとキュウリとレタスのチキンサラダ。
どれも彩りがカラフルで、フレッシュな香りが食欲を増進させる。
「凄いな……」
「さあさあ、食べましょう」
「じゃあ、早速」
『いただきます』
二人はハンバーガーにがぶりと食らいつく。シャキッというみすみずしい音を上げると共に、特製のタレと融合したチキンの旨みが口の中に染み渡る。
「……美味い‼︎」
「んん〜〜、美味しい‼︎」
二人の声はユニゾンし、天井へ吸い込まれた。
「こんなに美味いんだな!……うわっ、チキンサラダも凄い!手が止まらなくなる‼︎」
「良かった。気に入って貰えたんですね」
猛烈な勢いで料理を平らげていくアリウスを、コノハは嬉しそうに見つめていた。
生命が喜ぶ時間だった。
「ありがとうコノハ。こんなに美味しいものを」
「いえいえ、私もあんなに美味しそうに食べてもらって嬉しかったです」
二人は食後のコーヒーを飲みながら、ゆっくり話し込んでいた。
こうしていても、外からは風の音しか響いてこない。コノハから聞いたこの場所、「竜の庭」は本当に静かな場所なんだなと、アリウスは一人思っていた。
「怪我も治してくれて、本当に世話になってばかりだ。今度はこっちが力になりたいんだけど……どうしたものかな」
「………少し、お話してもいいですか?」
「………?」
突然、しんみりとした声を零したコノハ。
先ほどまで明るく振舞っていたので、アリウスは静かに聞く。
「私、ここに来たのはほんの一月前だったんです。それまでは故郷で家の農場をお手伝いしていました。でも、思ったんです。いつか自分で農場を開いてみたいって。そしてそこを、たくさんの種族が共存できる場所にしたいって。……例えドラゴンが他の種族を受け入れる気が無くても」
アリウスは思った。彼女の夢はとても素晴らしくて、
そしてとてつもなく難しい夢であると。
「だから、お願いがあるんです」
コノハはその決意を込めた瞳をアリウスに向け、こう言った。
「お願いします!どうか私と一緒に、農場を作ってください‼︎」
続く
ハンバーガー食べたくなってきた(・ω・)
というわけでドラグニティズ・ファーム2話です。
今作、農業を中心に書いていくのですが
今回ただのグルメ回だったんじゃ……
というわけで、次回からは気合い入れて農業していきたいと思います。さあ、調べ物しに行かなきゃ ε=ε=┌(; ̄◇ ̄)┘
それと報告を。今回屠殺シーンがありましたが、今後必要な時はまたそんなシーンがあるかもしれません。一応残酷描写ありと入れているのはそのためです。なるだけソフトに書きますのでどうぞご容赦ください。
それでは、これからもよろしくお願いします。