43ページ目 禁じられた再会
グラウブに突き飛ばされたコノハは、すぐさまアリウスの元へと駆け寄った。アリウスは彼女を自身の背に退がらせ、新たに骨ピックを2本取り出す。
「何をしに来た……グラウブ」
「そんな怖い顔をしないでくれ。折角の再会じゃあないか。まさか君が生きていてくれたなんて……私は嬉しいよ」
グラウブがそう言った瞬間、もう1本の骨ピックが頬を掠めて飛び去って行った。わざと外すことは予測していたのか、避ける素振りすら見せなかった。
「酷いなぁ」
「何をしに来たって聞いてるんだよ!! 質問に答えろグラウブ!!」
「何を怒っているんだい? 私は遭難船の調査に来ただけだよ。君こそ、レオズィールにも帰らずこんな所で何をしている?」
「……!」
不気味な笑みをアリウスに向けながら、徐々に追い詰めていく。陰湿なその雰囲気が、アリウスの肌にヒタリと冷たく張り付く。
「1年近く、君は任務を放棄していた……という事でいいのかな?」
「それはーー」
「それは違います!!」
アリウスの背から飛び出したコノハが2人の間に割って入る。グラウブはわざとらしく両手を挙げ、驚くような動きを見せた。
「アリウスを引き止めたのは私です! 責任なら私にあります!!」
「コノハーー」
「罰を受けるならアリウスじゃなくて私の筈です! ですからーー」
「まあまあまあまあ、落ち着きなさいお嬢さん」
グラウブはまくし立てるコノハを諌めると、まるで子供に言い聞かせるように屈み、話し始めた。
「確かに引き止めたのは君かもしれない。だが彼は任務を受けていた以上、君の申し出を断り、国へ戻る責任があった筈だ。君が償う謂れはないんだよ」
「ですけどーー」
「……はっきり言おうか」
グラウブの顔からはすっかり笑みが消え失せ、冷酷な声でこう告げた。
「これは、人間であるアリウスが負う責任だ。人間以下の種族である君が果たせる責任じゃないんだよ」
「に、人間……以下……?」
「人間以下だろう? ドラグニティがヒューマンより能力が優れているなら、何故数は減っていく? 生物の世界において、繁栄しているかどうかが最も重要で、最も分かりやすい指標だ。そして今、もっとも繁栄しているのはどの種族か……頭の良いドラグニティなら分かる筈だよ? ……そこのビースディアもそうだ」
「……!?」
指を指されたフォンは肩を震わせ、耳と尻尾が恐怖で垂れ下がる。
「力を持っていながら、それを扱うだけの知恵を持ち合わせていない。だから他の種族に利用される」
「ち、違……ふ、フォンは、し、しゃべれ、る」
「話せるから賢いと考えるその浅はかさが何よりの証明なんだよ。……アリウス、何故なんだい?」
再び笑みを浮かべたグラウブは、顔をアリウスの眼前まで近づける。
「君は優秀な人間だ。何の後ろ盾もなく、その歳で近衛兵に昇りつめるほど。そんな君がこんなところで、こんな者達と遊んでいるのは何故なんだい?」
「お前のその全てを見下した態度。レオズィールにはお前みたいな考え方をする人間がそこかしこにいる。正直ウンザリなんだ」
「つまり君は、自分と考え方が違う人間を守るのが嫌になった……と?」
「優先するものが変わっただけだ。守るべきもののな」
「守るべきもの……は、ハッハッハ!!」
突然高らかに笑い出すグラウブに、コノハとフォンの身体に震えが走る。
一通り笑い終えると、気味の悪い笑みをアリウスに向けた。
「守るもの……守るものかぁ……。いや、君は本当に優秀で面白いよ。 忘れたのかいアリウス? あの日の出来事を」
「っ!!」
肌を切るような怒気、否、殺気が空間に流れ込んだ。ドラグニティであるコノハだけではない。フォンにも、シャディにも、この場にいる生き物全てが感じ取れる程のものだ。
「2年ほど前だったかなぁ? 君が調査しに行った村。君は異常無しの報告を出したにも関わらず、その村は壊滅したそうじゃないか」
「それ以上言うなグラウブ!! あれはーー」
「何故だ!? 君はそうやって自分の罪を認めないつもりか!? 彼女達にも教えてやればいい。ドラゴンズ・シンに自ら志願した理由を! というよりも……その様子だとあの日の出来事すら話していないようだけどねぇ」
直後、アリウスの手が静かにピックを構え始める。狙いはグラウブの喉元。
のうのうと語る毒蛇を討とうとしたその時だった。
温もりが、アリウスの冷え切った手を制止した。我に返ったアリウスの目に入ったのは、自分を優しい眼差しで見つめるコノハだった。
「グラウブさん、今日はお引き取り願います」
「……ほう?」
「船の件でしたら、既に他の騎士団の方がいらっしゃっています。もうすぐ修理が終わることを聞いて、今日帰国しました。……貴方がここにいる理由はもうありませんよね?」
「なるほど。ですが私にも課せられた任務がある。その船が遭難した原因の解明が必要でね。周辺を探索して構わないかな?」
「お引き取り願います。私から言えるのはそれだけです」
「……随分嫌われてしまったね。失礼な事を言ってしまったなら詫びよう」
心にもない事をしゃあしゃあと言い放つグラウブ。
アリウスの手が震えているのが、コノハに伝わっていた。
「失礼だが、コノハさんは彼とどんなご関係で?」
「アリウスは私の大切な……お友達です。だから私は、例え何があろうとアリウスの味方です」
「ふふ、実に美しい」
嘲笑しながら、グラウブは去って行った。後を追うようにヴァイクウルフも走り去っていく。
嵐が過ぎ去ったような静かさが辺りを包む。
「……コノハ、お前……」
「私は慣れてるから良いです。でも、でもフォンやアリウスをあんな風に言うのは…………許せない…………!!」
「……コ、ノハ」
「キュ……」
地面に座り込むコノハに、フォンとシャディが体を寄せる。そんな2人を、コノハは無言で抱き寄せた。
「……グラウブ」
あの時、コノハが止めていなければ本気で殺すところだった。
思い返せば、初めてあの男と会った時から因縁は始まっていたのかもしれない。アリウスを苦しめ続けるあの事件が起きるまで気づかなかっただけで。
そしてまた、何の因果か再会した。
まるでアリウスの大切なものを奪うために、再び現れたかのように。
続く
次回、ドラグニティズ・ファーム
「まだ、一緒に」
別れは辛いが……生きていればまた会えるんだよ。いつか、な。




