34ページ目 触れ合いは大切です
フォンが思った以上にやる気を出したおかげか、ミルクポテトの収穫はそれ程かからずに終えることができた。
そして次なる野菜は、ドラゴンパンプキン。
以前コノハに聞いたときははぐらかされてしまったが、今回やっとその正体が分かる。
アリウスはドラゴンパンプキンの畑に入ると、地面を観察する。
「……っ! もしかして、これか!?」
思わず目を見開いた。
大きさこそ普通のカボチャと変わらない。しかしその実の真ん中に巨大な穴が開いていた。さながらドラゴンが大口を開けているようだ。
「アリウスが見つけたのは頭ですね」
「頭? じゃあ身体があるのか?」
「ワッフゥ!」
コノハの言葉に気を取られていると、すぐ近くでフォンがドラゴンパンプキンを掲げていた。その大きさはアリウスが見つけたものより巨大で、フォンの顔よりも一回り大きい。
「それが身体です。上のへたの部分が翼みたいでしょ?」
「ワッフ!」
フォンはドラゴンパンプキンをアリウスに見せつけると胸を張った。
「何だよ。別にでかけりゃいいってもんじゃねえだろ」
「ワッフゥ?」
負け惜しみか、と言わんばかりにフォンは意地悪い表情をする。アリウスが言い返そうとした時、コノハが言い辛そうに話した。
「でも身体の部分は大味だからあまり美味しくないんです……頭は栄養たっぷりで美味しいんですけど……」
「ワン!?」
「味は俺の勝ちだな」
「……クゥン」
不貞腐れたように唸ったフォンに、二人は笑った。
こうして順調に、冬の収穫は進んでいった。
「……ダメだこりゃ」
ヴィンレイは思わず修理器具を壁に放り投げそうになったが、何とか堪えた。こんなことをして船に穴が開いたら馬鹿馬鹿しい。
元来大雑把で器用な作業が苦手なビースディアに船の修理はかなりの苦行。材で穴を塞ぐくらいなら出来るが、複雑な機構を持つ魔導コアの修理は時間のかかる作業だった。
船員と交代で作業を続けているが、先が一向に見えてこない。
「あぁ参った参った! 叩けば直らんかな!?」
「船長、なんか騎士が来てるんですけど……」
「うるせえな騎士が来たくらいで……って何?」
外を見ると、砂浜に人影があった。腰に下げた剣、紋章の入った服。確かに騎士の出で立ちだ。
ヴィンレイが船から降りると、その騎士は小走りでこちらに近づいて来た。顔立ちの整った少女だ。
「あんた、騎士か?」
「はい、レオズィール王国騎士団第一部隊所属、イデア・アトラスベルネと申します」
「はいはい。俺はヴィンレイだ。……で、その、何だか騎士団が、何の用だ?」
「貴方達の商船が行方不明になったという事で捜索していました。……船の様子を見るに、やはり海竜に襲われたようですね」
「海竜? 海竜が出たのか?」
「え……え?」
イデアの困惑した表情を見たヴィンレイは片眉を上げた。
「何だ? あっちじゃ、俺らは海竜に襲われたことになってんのか?」
「まぁ……数十年ぶりに目撃されたらしいので、それに襲われたのではないかと……でもそうでないなら一体何があったんですか?」
ヴィンレイは顎を撫でながら、「俺もあんまり覚えてないんだけどよ」と続けた。
「あの時、空は雲一つない快晴だった。……確かにそのはずだった」
「はずだった……?」
「一瞬の出来事だった。空が突然真っ黒な雲に包まれたかと思ったら、海は荒れるわ、其処彼処で竜巻が起こるわで……挙げ句の果てには突然魔導コアがイかれて、気がついたらここを漂流してたのさ」
イデアはまるで御伽噺を聴いている気分だった。そんな事が起こるなどまるで信じられなかった。
「あと、フォン……うちのメンバーが言ってたんだけどよ……」
レーヴィンは思い出したように付け加えた。
「グルグルを着た鳥と、ジャブジャブを着た魚が闘ってた……だっけかな? 俺にもよくわからなかったが」
「ヘップシッ!」
「あっ! お前何で今……っ!?」
フォンがクシャミを出した瞬間、草を食んでいたハイラビットが顔を上げ、一目散に逃げてしまった。
「ワム……」
「あっちゃぁ、逃げられた」
かれこれ30分ほどかけて見つけた獲物に逃げられ、2人は肩を落とした。シャディはというと、待ち伏せに飽きて居眠りしてしまっている。
「また待つか」
「……」
フォンはまたしても不貞腐れたように頬を膨らませる。どうやら自分のクシャミで逃げられたことが悔しかったようだ。
「フォン、狩猟なんて大半が待つことだぜ? そんなに気にするなよ」
「……」
「けどただこうしてても効率悪いかな……なら」
アリウスは地面から草を一つ毟り取る。そしてそれを口に当てると、静かに息を吹いた。
ピィィィ、と、鳥の囀りの様な音色が響き渡る。
フォンは静かにしろと言いながら何をしているんだ、と言わんばかりに睨む。
しかしそう思ったのも束の間、森に吸い込まれていく草笛の音色に、フォンの狐耳もピクピクと反応する。
フォンの心の奥に眠る獣の本能に呼びかけ、ウトウトと意識が揺らぎ始める。
その時、雪が降りた地面を踏みしめる音が草笛の音に被った。
そこにいたのは、枝分かれした角が氷柱のように下に伸びた鹿だった。体は真っ白で、雪に同化するかの様に佇んでいる。
「ワフ」
「アイシクルディアか……」
アリウスは草笛を口から離すと、腰からある物を取り出した。
ユーランツリーから削って作成したブーメラン。
それを独特の構えで振りかぶる。一瞬の静寂の後、ブーメランを投擲。
「シャディ、行け!!」
「ピッ、ガウッ!!」
飛翔するブーメランを追い、シャディも疾走。
アイシクルディアが攻撃に気づいて顔を上げた瞬間、ブーメランが頭に直撃。鈍い音が響いたかと思うと、今度はシャディの爪の一撃が首筋を切り裂いた。
最後の抵抗とばかりに角を振り回そうとするが、シャディのトドメの一撃を受け、地面に伏せた。
「お疲れ、シャディ」
「ワン!」
「ピガフゥ」
フォンは返り血で汚れたシャディをギュッと抱きしめて労う。
あの時のことで仲に影響が出たかと思っていたが、心配はいらなかった様だ。
「さて、こいつを解体したら帰るか。終わるまで2人で遊んでろ」
アリウスに言われるまでもなく、フォンとシャディは森の中で転げ回っていた。
あまり汚れないように言おうとしたが、こんなに生き生きしているフォンを見ると、アリウスはつい許してしまった。
「雪も積もってるし、大丈夫だろ」
「それで……これは何ですか?」
コノハの視線の先には、顔まで泥塗れになったフォンとシャディの姿があった。
アリウスはというと、しまったと言わんばかりに顔を手で覆っていた。
「もう! せっかく今からご飯作ろうと思ってたのに!」
「すまない。俺が目を離した隙に泥溜まりに落っこちて……」
「じゃあ予定変更です。フォン、一緒にお風呂入りましょう」
「ワフゥン……」
フォンは髪に絡まった泥に不快感を露わにしながら、コノハの後をついて行く。シャディも後に続こうとしたが、
「お前は外で洗うぞ」
「グゥゥ……」
アリウスに首根っこを掴まれ、外へと運ばれていった。
「クゥゥン」
桶で体全体を流されたフォンは気持ち良さそうに体を震わせる。濡れた髪に石鹸をつけ、手を櫛のように使って一気に泡立てる。
「女の子はいつも綺麗にしてなきゃいけないんですよ。これから気をつけてくださいね」
「ハ……ハ、イ」
覚えたての言葉で返答するフォンの声は呆けた雰囲気だった。
初めて一緒に入った時、フォンは長旅の影響か髪の毛はパサつき、肌もカサカサだった。
最近は髪も身体も艶が出るようになり、可愛らしいビースディアの女の子だ。
「……」
そして10歳とは思えない身体つき。身長も、筋肉も、胸も負けている。
フォンの身体をマジマジと見た後、自身の身体を見てみる。柔らかい身体つき、そのくせ胸は小さいと来た。
情けなさがどんどん押し寄せ、涙が出そうになる。
「ワ、ワフ!?」
「な、何でもないです……流しますから耳を閉じててください」
言われた通りに耳をパタリと閉じ、石鹸を洗い流した。ふんわりとコノハと似た匂いが広がる。
フォンはご機嫌な様子で背を伸ばし、濡れて細くなった尻尾をブンブン振り回す。
「ワンワン! ワフワフ!!」
「……え、私も洗うって……いいですよ、私は1人で、って、ヒィッ!?」
有無を言わさずコノハは椅子に座らせられたかと思うと、フォンは石鹸を泡立て始めた。が、しかし、泡立て過ぎたせいかその量はどんどん増えていく。
「フ、フォン、そのくらいでストップしてくださーー」
「ワフゥゥ!」
大量の泡がコノハに覆い被さった。小さな身体は瞬く間に石鹸の山に包まれてしまう。
「ちょ、ちょっと、これじゃ多過ぎ……ヒッ!?」
次はサワサワと、身体を洗われるくすぐったい感覚。
見様見真似でやっているのだろうが、前も後ろも遠慮無しだ。
「ワン?」
「どうってくすぐった……ヒェッ! あ、あ、助けてアリウスゥゥ……!!」
思わず助けを求めてしまうコノハだった。
お湯でシャディに付いた泥を洗い流していると、風呂場の方からコノハの悲鳴が聞こえて来た。
何が起きたのだろうかと視線を向けるが、直後にフォンの楽しそうな声が追いつき、遊んでいるだけだと気づいた。
というより、何かあったのか確認しに行っても、自分が酷い目に合う気がしてならなかった。
「ピギュウ」
「おっと、悪い悪い。……よし、いいぞ」
濡れたシャディの体を拭くと、寒そうに震えながら家の中へ駆け込んで行った。
「さて戻るか。……あっ、そういや剣を部屋に置きっ放しだった。イタズラされねえようにしとかないと」
必要ないと思い、農作業をする前に部屋に置き去りにした剣の様子を見に、アリウスも急ぎ家の中へ入った。
続く
ワンワン、ワンワフ
というわけで34ページ目でした。え、なんて言ったかって? 各々訳して下さいませ。
それでは皆さん、ありがとうございました!




