1ページ目 その日、ドラゴンと出会った
ヘリオール地方〜カジレラ平原
累々と横たわる仲間の屍に紛れ、アリウス・ヴィスターは力なく倒れ伏していた。
レオズィール王国がドラゴン狩猟として大部隊を派遣したのは、つい三日前の出来事だった。
ドラゴンはこの世界において重要な資源だ。その甲殻は頑強な武具となり、その眼はこの世のどの財宝よりも貴重で、その肉は食べれば不治の病すら治ってしまうと言われていた。
それだけではない。骨、皮、牙、全てが人々の生活に役立つものへと生まれ変わる。
昔は神に一番近い生き物とされ、畏敬の念を抱かれていたドラゴンは、今や人類の糧とされつつあった。
だが、アリウスは違った。彼は言葉も話せぬ程子供の頃から、ドラゴンに憧れていた。
いつかその雄々しい背中に跨り、空を翔けることが夢だった。
出来ることならば、ドラゴンを狩るなど一番やりたくない仕事だ。だが、やらねばならない。
何のために、夢を諦め、国王直下の近衛隊になるまで努力を重ねたのか。
覚悟を決め、戦場に歩を進めたのだった。
それなのに
「クッソ、立てねえ…」
アリウスは何とか立ち上がろうと四肢に力を込めるが、痛みが走るばかり。
今もなお、前線で味方が戦い続けている。
しかし、聞こえるのは断末魔ばかり。
空を見上げた先にいるのは、空を覆うほどの大きさのドラゴン達。
しかし、アリウスが見ていたのはそれではない。
「なんなんだ…アレは…?」
そこには美しいコバルトブルーの翼を翻すドラゴンに乗り
その手にその色と同じ大槍を持ち、銀色の鎧を身に纏った騎士の姿。
「竜……騎士…?」
その時だった。身を切り裂く程の烈風と共に、巨大な影がアリウスの目の前に立ち塞がったのは。
それは一匹のドラゴン。身体は鮮やかな血潮の如き紅色、頭部から突き出た三本の角は純潔の様な白、その眼は烈火の様な赤色だ。
ただ、ドラゴンはアリウスを見つめるばかりで何もしてこない。まるで、品定めをするかのように匂いを嗅いだりするくらいだ。
「……早く殺したらどうだ?」
アリウスは掠れた声でドラゴンに話しかける。すると、ドラゴンはその大きく裂けた口を開き、人語を話し始める。
「貴様、死を恐れないのか?」
「憧れのドラゴンの栄養になれるなら大歓迎だよ…。それとも、人間の肉は嫌いかい?」
「そんなものより遥かに美味いものを俺は知っている」
「そっか…、そいつは生きてるうちに食いたかったな……」
悟ったように微笑むと同時に、アリウスはゆっくりとうな垂れ、意識を失った。
「コイツ……。人間のクセに面白い奴だ。いやらしい血生臭さもない。アイツへの手土産に丁度いい」
ドラゴンはその三本の指でアリウスを掴むと、その巨大な翼を大きく羽ばたかせる。
その勇ましき姿は、月が照らす地平線の彼方へと消えていった。
ここは神様も眠る世界
ユーラン・イルミラージュ
そこは様々な種族、様々な生き物が
互いに与え合い、貰い合う世界
竜の庭と呼ばれる場所に、たった一軒だけ家が建っていた。
そこに住む少女は、ソファでうたた寝をしていた。机の上には、作物の種袋や育て方のメモ帳などが散乱している。
「………ん」
外から響く重い羽音で目が覚める。目をゴシゴシと擦り、大きな欠伸を一つ。
「お客さんかな…?」
おぼつかない足取りで扉の前へ向かう。
深夜の来客は、傷ついた青年だった。
どうも皆さん、初めましての方は初めまして。
雑用軍 少尉というものです
今回、このドラグニティズ・ファームを読んでいただき、ありがとうございます。
このお話は、ゆる〜いファンタズィーを書いていく予定です。是非、温かい飲み物といっしょにどうぞ。
更新速度ですが、少し遅めの不定期更新(?)となります。ご容赦下さい。
ドラグニティズ・ファームはファンタジーなので、色んな人が読みやすい作品としていきたいと思っています。
それでは、長〜い後書きにお付き合いいただき、ありがとうございました。