表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/184

32ページ目 どうして、素直になれないのだろう?

 

 ラットライエルの裏道にある萬屋。

 以前カリスが訪れたことを聞いていたイデアは、到着と同時にそこへ向かった。


 街中を歩いていた中では、海竜の噂は耳に入って来なかった。しかし油断は出来ない。海竜は滅多に人前に姿を現さないからこそ、今回の出現が何らかの関わりを持っていることも考えられる。


 イデアは裏道に入り、入り組んだ道を地図通りに進んでいく。すると、とある一軒家に看板が掛けられていた。そこには萬屋カルフュードの文字。

「ここでいい……のかな?」

 何やら怪しげな雰囲気に、イデアは思わず息を呑む。周りの店が寂れている中、ここだけ小綺麗なことも気になる。

 いつでも剣が抜けるよう手を柄に添え、ゆっくりとドアを開いた。


「いらっしゃ〜い」


 気の抜けた声が店に響く。

 内装は意外と綺麗だ。萬屋よろしく様々なものが置かれているものの、決してデタラメな配置ではない。

 イデアはホッと一息吐くと、店主の方を見る。

 店主ーーレンブラントはイデアの顔を見るなり、面倒臭さそうな表情を浮かべる。しかしイデアは構うことなく尋ねた。

「失礼します、私はレオズィール王国騎士団、第一部隊所属、イデア・アトラスベルネと申します。本日は情報提供のご協力を……」

「うちは情報屋じゃない! 帰った帰った!」

「え、えぇっ!?」

 余りに早く拒否され、イデアは狼狽えてしまう。レンブラントはというと煙草に火を点け、話す気は無いと言いたげに煙草を吹かし始めた。

「せめて内容だけでも……」

「騎士団と関わるのは極力避けてんのさ」

「そんな……」

「どうかしましたか?」

 二人のやり取りを聞きつけ、ジークが降りてくる。イデアはすぐに身を反転させると、同じ様に自己紹介を始めた。

「レオズィール王国騎士団、第一部隊所属、イデア・アトラスベルネです!」

「あぁどうも、ジーク・ヴィスターです」

「ヴィスター? いや、それよりも!」

 イデアは一旦深呼吸し、慌てていた心を鎮める。そして改めて続けた。


「この付近でとある商工船が行方不明になっています。同時期に海竜が出現したとの情報も受け、こうして調査をしているのですが……何か知っていることがあれば、教えて頂きますか?」

「海竜ですか……」

「ちょ、ちょっとあんた、何話聞こうとしてんのさ!」

 考え込むのを見たレンブラントは焦った様子でジークを止めようとする。

「レンさん、騎士の人が苦手なのは分かってるけど程々にしなよ。この前もパトロールの騎士の人を門前払いしてたし」

「騎士は関わると面倒事に発展するんだよ! 特にこういう店やってると色んな奴が来るからね」

「……騎士の中には無礼な人間が多いのは私も認めます」

 そう言ったイデアの目は、真っ直ぐな想いを秘めていた。レンブラントが思わずたじろいでしまうほど。

「ですが、弱き人のために戦うのが騎士です。皆がその誇りを持っていることも、分かって頂けませんか?」

「……だってさ、レンさん。これだけ真っ直ぐな眼をした人の事も、信用出来ない?」

 真剣な瞳と、嗜める様な視線に晒されたレンブラントの顔は徐々に紅潮していく。

「な、なんだいなんだい! これじゃあ私が悪者みたいじゃないか!」

「え? あっ、す、すみません! 不快な思いをされたならお詫びします!」

「謝らないでくれ! ま、まぁ? 話を聞くくらいなら協力出来るかねぇ」

「ありがとうございます!」

「あぁもう、そんなかしこまらないでくれよ! むず痒い気分になる!」

 慌てふためく二人の様子を見たジークは、癒される様な気分に浸っていた。



「まあ、一通り話は聞いて見たけれど……」

 レンブラントは溜息と共にミントシガーの煙を吐く。隣ではジークが図鑑にて海竜の情報を探っている。

「私もたまに港へ行くけど……そんな船は見なかったよ」

「そうですか……じゃあやはり」

「事故だろうねぇ」

 港に停泊していないならば、何かしらのトラブルで不時着、あるいは沈没してしまった可能性が高い。

 するとジークが顔を上げ、口を開く。

「ですが、イデアさんが言っていた海竜の件は引っかかりますね」

「どういう事ですか?」


「海竜は本来、この地域に生息していないんです」


 ジークの言葉に、イデアとレンブラントは首を傾げる。

「海竜って、海にならどこにでもいるんじゃないのかい?」

「海竜……ザガ・バザエダスは基本温暖で、尚且つ餌が豊富な大海にしか生息していません。彼等は体が巨大ですから、水深が浅い上に冬は寒冷になる地域にはいないんですよ」

「ザガ……バザ……?」

「……ジークさん、その、ザガ・バザエダスとは、海竜の名前でしょうか?」

「そうですけど、それが?」

「いえ……ただ、よろしければ海竜と呼称して頂ければ助かります」


 レンブラントは、イデアにナイスだと言わんばかりに親指を立ててみせる。

 ジークはよく分かっていない様子だったが、深くは考えずに話を再開する。

「ですから今回の一件と海竜の目撃情報は接点を見出すにはまだ難しいです。事故の要因は他にもたくさん考えられますし、海竜も霧か何かを見間違えた可能性もあります。もう少し周りを調査した方が良いかも知れな……」

 と、ジークは初めて二人の方を見る。二人はポカンとした表情のまま固まっていた。

「……あっ! すみません、勝手なことばかり言って……!」

「い、いえ、別にそれは良いのですが……」

「あんた、自分が好きなことになるとこんなに変わるんだねぇ……」

 ジークは苦笑いを浮かべ、恥ずかしさから俯く。こういう所は兄に似ているのかもしれないと自嘲した。



「……分かりました。もう少しこの近辺を調べて見たいと思います。ご協力ありがとうございます」

「はい。こんなことしか出来なくてすみません」

「いえいえ、大変助かりました! ジークさん、レンブラントさん、末長く御幸せにーー」


『……は?』


 イデアの言葉に、ジークとレンブラントは凍りつく。するとイデアは不思議そうに目を瞬きする。

「え? だって二人とも恋人……もしくは夫婦ではないのですか? 一緒にいますし、仲だって良いですし……」

「あの、イデアさん。僕はレンさんとそんな関係ではーー」


「ななななな、何言ってんだいこのバカァァァッッ!!」


 レンブラントの絶叫と共に、何故かジークにビンタが炸裂。ジークは声も出さずに店の棚へ激突した。


「えぇ!? いや、そこまでしなくても、というか逆に怪しーー」

「うるさいうるさい!! 帰れぇぇぇっ!!」




 イデアは薄暗くなり始めた街の中、宿を探して歩き回る。

 冷え切った風が頬を痛めつけ、感覚も薄れていく。

「ラットライエル……入り組んだ地形で分かりづらいなぁ……ヘックション!」

 これまでも任務で様々な極地に行ったことはあるが、やはり人間の五感は簡単に慣れるものではない。早く見つけなければ風邪を引いてしまう。


「……あった!」

 やがて灯りがついた宿を見つける。寒さで上手く動かない身体に鞭打ち、そこまで小走りで駆け寄る。


 しかし、看板には無情にも「満員」の文字が。


「そんな……ヘックション」

 また一から探すことになった。

 最早気力も限界に近くなって来ていた。ここまでの長旅と慣れない街の地形に体力を奪われてしまっていた。

「まだ空いてる場所あるかな……もうダメ元でレンブラントさんに泊めてもらうように頼む……でも迷惑だし、どうしよう」


「どうしたお前、こんなところで」


 と、聞き慣れた声が聞こえた。

 振り向くと、そこにはコートを着た浅緑の髪をした青年がいた。右腕を包帯で吊っているものの、その顔には見覚えがあった。

「あ、アリウス先輩!? どうしてここに?」

「それを俺が今聞いてたんだがな……ま、俺の方も色々あってな。お前は任務か?」

「はい、それが……ヘックション」

「待て、ここで話してたら風邪引く。あっちに酒場があるからそこで話そう」


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「船が行方不明に海竜出現、か……」

「はい、先輩は何かご存知ないでしょうか?」

 アリウスは頭の中で状況を整理する。

「船の方は心当たりがあるな」

「ほ、本当ですか!?」

 イデアは思わず立ち上がる。周りで騒いでいる客のおかげでその行為自体は目立たなかったものの、余りに通りが良い声にアリウスは肝を潰した。

「あ、あぁ。多分あの船なんだろうが……お前、一人か?」

「はい。カリス隊長から一人で調査するように頼まれました」

「あいつ、女の子一人で行かせたのか……不用心だな」

「そんなことありません。カリス隊長は私を信頼してーー」

「あぁうん、分かってるけどな」

 イデアが熱く語りそうになるのを軽く諌めると、アリウスはコーヒーを一口飲む。

「先輩、お酒飲まないんですか?」

「俺が勤務中の奴を目の前に、酒を煽るような奴に見えるか?」

「……新米の頃は思ってました」

「偏見は良くない」

 アリウスとイデアは揃って笑う。


 騎士団との縁が切れても、人との繋がりは簡単に切れない。その事を改めてアリウスは感じていた。


「さて、俺はそろそろ帰るかな。任務、頑張れよ」

「先輩……お言葉なんですが……」

 席を立とうとしたアリウスをイデアは引き止める。そして窓の方を指差した。


 外は既に真っ暗で、ポツポツと街のランプが点灯し始めていた。


 当たり前だが、竜の庭に馬車は出ていない。帰るためのランプも持っていない。


「……宿探し、俺も参加していいか?」




 ミートパイが焼き上がる香りが、本を読んでいたフォンの鼻に届く。集中していたフォンの脳内は、次第に食事の方向へ転換していく。

「……ワフゥ」

「……ピキュゥ」

 隣にいたシャディと共に、空腹の感覚に悶々とする。まだか、まだかと待ち続けていると、やがて台所から二人を呼ぶ声が聞こえてきた。


「ご飯出来ましたよ〜」


 その瞬間、二人は脱兎の如く走り出した。空腹が足を自然に動かしていた。


「はい、お待たせしました」

「ワンッ!」


 テーブルの上にある料理を見て、フォンは思わず声を上げた。


 ミートパイ、ノイズィチキンとニードルキュウリのサラダ、魚と野菜のスープ。

 船で食べていたどの料理よりも凝っていて、まるで店の料理のようだ。


「食べ盛りには少ないかもですけど、沢山食べて下さいね」

「ワンワン!」

 千切れんばかりに尾を振るフォンを見たコノハは微笑む。

 フォンは席に着くと、そのままミートパイを手に取り、かぶりつこうとした。


「いただきます」


「……?」

 コノハが祈るように手を合わせたのを見たフォンは手を止める。

「こうして、私達が貰う生命に感謝するんですよ」

 不思議そうに見つめているのに気づき、コノハは手を合わせてみせる。

 フォンは見よう見まねで手を合わせると、コノハの言葉を復唱する。

「イタ……イタ……き、す?」

「いただきます」

「イタ、キス?」

 一生懸命片言で復唱する様子を見て、コノハは思わず笑ってしまう。

「良いんですよ。ゆっくり、ゆっくり覚えていきましょう」

「ワフ!」


 改めて、フォンはミートパイを頬張る。

 夢中で食事をするフォンの様子を見たコノハは、先とは打って変わって哀しげな表情を浮かべた。



 どうしてこんなに良い子なのに、アリウスの事を嫌うのだろう。



 ポッカリと一つ空いてしまった席を見ながら、コノハは分かり合う難しさを痛感していた。


 冷たくなった風が、窓をカタカタと鳴らした。



続く

右腕怪我した状態で、ラットライエルまで家出したアリウスの体力に拍手。


というわけで32ページ目でした。久々だな、姉御とジーク。彼らの今後にもご期待くださいな。


それでは皆さん、ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ