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24ページ目 似た者同士、好く者同士

 

「ほい、これあっちな」

「分か……って重い!?」

 アリウスがヒョイと渡した荷物を受け取ると、ジークは足元がふらつく。普段ニドを乗りこなしている人物とは思えない。

「何でこんなのも持てないんだ」

「に、兄さんの力が強いんだよ……っと」

 何とか言われた棚へ乗せ、一息。



 森を無事に抜けた後、ジークがレンブラントの店を手伝いたいと願い出たのだが、何故かアリウスとコノハまでレンブラントに引っ張り出されてきたのだ。

 その理由は、力仕事が多く、人手がいるから。だったら普段はどうしてるんだというアリウスの指摘は、敢え無く黙殺されてしまった。



「レンブラントさん、いつもこれを1人でやってるんだよね。なんか、凄いなぁ」

「これからお前がしばらく手伝うんだぞ。今のうちにこんぐらいは持てるようになれ」


 アリウスのは重量感のある木箱を両肩に担ぐと、倉庫の棚の奥へ投げ入れた。

「無茶言わないでよ。っていうか乱暴な入れ方しないほうがいいよ」


 と、案の定エルフの店主からアリウスの頭にモップが振り下ろされた。兄の顔が突然毛だらけになり、ジークは思わず吹き出しそうになるのを堪える。


「商品を雑に扱うな、バカ!」

「大丈夫だよ。あんなの誰が買うんだ? 中身見たら割れたガラスしかなかったぞ」

「溶かしてガラス細工に作り直すのさ。大事な商品の卵だよ」

 そう言って得意げに自分が作ったガラス細工を見せるレンブラント。その形はハシリウオだった。かなり精巧に出来ている分、気持ち悪さが引き立っている。

 アリウスは渡された時のコノハの反応を考え、苦い顔をする。

「お前な……」

「これ、コノハにあげようと思ってねぇ、喜ぶよきっと」

 意地の悪い笑顔を浮かべ、レンブラントは肩を震わせた。



「んしょ……っと」

 コノハは店の中を掃除しながら、棚の商品を確認していた。その近くではシャディが、ちょろちょろと付きまとっている。

 自分も手伝いたいと言わんばかりだ。

「ピグゥ……」

「シャディはお昼寝してていいですよ」

「ピガァァァウ!」

 嫌だという様子で脚をジタバタさせていたシャディだったが、やがて不貞腐れた様子でソファの上で丸くなってしまった。

 そんな様子を見て心がジンワリ温まったところで、片付けを再開する。


 木彫りの熊に何かの仮面。挙げ句の果てには鉄屑や錆びた剣まで置いてある。


 萬屋とはいえ、少しは商品の種類を統一した方が良いのではないか、とコノハは呆れた顔をしていた。

「……私ももう少し野菜の種類を増やそうかな?」


 と、カチャリと何かが足にぶつかる。

 それはアリウスの剣だった。片付けを手伝うために置いていたのだろう。

 何故だろうか。その鞘を見ているだけで、ドラグニティの感覚に何かが訴えかけてくるようだった。


「……ちょっとだけなら、いいですよね?」


 コノハは辺りを見回し、アリウスがいない事を確認すると、その柄へ手を伸ばす。そのままそれを、ゆっくり引き上げていく。



 白銀の刀身が見えた時だった。



 ーー触るな!!ーー


「ヒッ…………あ、あう……!!」

 頭を引き裂かんばかりの激痛。だが無数の声は止むことなくコノハを襲う。



 ーー触るな!! 触るな!!ーー


 ーー離してよ!!ーー


 ーー助けてアリウス!!ーー



「う、が……うぅ……!」

 涙が溢れ、汗が滝の様に噴き出す。知らず内に力を解放し、コノハの瞳孔は竜の様に縦に割れていた。



 斬りつけられ、殴打され、鞭打たれるような痛みに溺れていく。



 その時、誰かの手がそっとコノハの手を包んだ。

「やめろ、彼女は違う」

「ア、リ……」

 アリウスの言葉を聞いた瞬間、身体から痛みが引いて行った。あの無数の声が抜け落ちていく様に。


 その場に座り込んだコノハにシャディが駆け寄る。だがそれに対し礼を返すことも出来ないほど、コノハに余裕はなかった。


 それを見たアリウスは小さく息を吐き、そしてコノハの頭を優しく撫で始める。

「アリウス……私勝手に……ごめんなさい……」

「いや、今のは俺が悪かった。俺に……」

「え……?」

 アリウスは剣を背中に吊るすと、しゃがんでコノハの目を見た。



 その顔は今にも泣き出しそうな、情けないものだった。



「俺に……時間をくれ。この剣の事も、俺自身の事も話すから……信じて待っててくれ」

 コノハは普段見ないアリウスをしばらく見つめる。だがやがて、ニッコリ微笑んだ。

「分かりました。私もその時は、アリウスにーー」



「はーい、いちゃつくのはそこまで!!」

 この静かな雰囲気を突き破り、レンブラントの声が響き渡った。

 ……何故かアリウスにはモップが叩きつけられるおまけ付きだ。

「グフッ!? だから何でモップを!!」

「あ、これトイレ掃除したやつだねぇ」

「おまっ、いい加減にしろ!!」

 突如として激昂したアリウスとレンブラントとの取っ組み合いが始まってしまった。


「え、え〜っと……?」

「なんか、本当にごめんなさい、あんな兄で」

 戸惑うコノハにジークが深く頭をさげる。

「いえ……ジークさんはまたヴィルガードへ戻るんですか?」

「いや、しばらくここでレンさんのお手伝いをします。色々迷惑をかけましたし……何より兄さんみたいでほっとけないので」

「プ、フフフ、大変ですね」

 笑い合う2人。お互いに似た性格の人物が身近にいるおかげで、気持ちはよく分かっているのだ。


「これからも兄をよろしくお願いします」

「こちらこそ、レンちゃんをよろしくお願いします」




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「フゴォ、フンゴゴ、フゴゴォ!!」

『フゴゴォ!!』

 こうしてゴーレム達の朝礼は終了した。ビシリと決まった敬礼は、太陽を背にしたためか妙に仰々しかった。


 隊長ゴーレムが告げたことをまとめると、


 今日はアリウス達が留守のため、畑を任されていること。

 夕暮れ前には戻るが、決して気を抜かないこと。

 今度こそ、ハシリウオの被害をゼロに抑えること。


 である。


 早速ゴーレム達が散らばり、各々の仕事を始めようとした時だった。


「あら、こんなにたくさん……」


 見慣れない来客に、ゴーレム達の作業はピタリと止まる。


 深紅の髪に、翠色の瞳。竜の刺繍が胸に刻まれた赤いオーバースカートに、銀色の胸当てを着けている女性だ。


 その顔を見た時、ゴーレム達はとある人物を連想していた。

「こんにちは。あなた達、コノハのゴーレム?」

「フンゴゴ」

「あらあら、そうなの。働き者ね」

 そうして微笑む姿は、やはりあの人物にそっくりだった。

「でも、コノハはいない……出直そうかな」

 しばらく女性は辺りを見回すと、隊長ゴーレムにとあるものを手渡した。


 一通の手紙と、麻袋。


「フゴォ?」

「コノハに渡してちょうだいね。それじゃあ、バイバイ」


 女性が口笛を吹く。すると反響した口笛が消え入るより早く、黒いワイバーンが天空から降り立った。


「フゴォ!? フンゴゴ、フゴォ!!」

 隊長ゴーレムは必死に誰なのか問いかけるが、それに応える様子はなく。

 その背に跨ったかと思うと、再び空へ飛び去っていった。


 ほんの少しの風を残して。



 続く

ちなみにゴーレム達は今日、ハシリウオの被害を初めてゼロに出来たそうな。


というわけで24ページ目でした。次回からは本格的な秋のお話です。農業もちゃんとするぞ〜。

新たな種族も出ますので、お楽しみに。


それでは皆さん、ありがとうございました!

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