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20ページ目 出来る弟は苦労人?

「…………で、だ」

 アリウスが尋ねる。

「どうやってここまで来たんだよ」

「それはもちろん、兄さんが今撫でている子でだよ」

 ジークがニッコリと笑う。



「ブフゥ」

 アリウスが撫でている子、それは頭部から一角を生やした馬だった。

 漆黒の体に輝く銀のタテガミ。力強くも細く、美しい脚。

 その螺旋状の角は気高く天を貫いていた。


「ブラックユニコーン……。こいつ、賢いな。俺が触っても大人しいし」

「ニドっていうんだ。よろしくね」

「ブフルルっ!!」

 ニドは挨拶する様にアリウスへ擦寄る。


「何でここにいるって分かったんだ?」

「本当に大変だったよ。色んな場所で情報屋さんを回って……。最後はレンブラントさんに案内してもらったんだ」

「成る程な……」

 アリウスは横目で、草原に腰を下ろしているレンブラントを見る。疲れているのか、少しウトウトしている。


「お店を空けさせて来ちゃったからね。本当に申し訳ないよ」

「そう思うんなら、後で店の手伝いでもするんだな」

「そのつもり」


 兄弟が会話に花を咲かせていると、ドアが開く音がした。

「野菜ジュース出来ました。どうぞ」

「あ、ありがとうございます」

「お、サンキュー」

 ジークとアリウスはお盆に乗ったグラスを手に取る。

「はい、レンちゃん」

「すまないねぇ……」


 野菜ジュースの色は、まるで新緑の葉の様だった。ほんのりと爽やかな香りがする。

「コノハ、これは?」

「今日採れたばっかりのニードルキュウリを使ったの。トゲも細かく砕いて混ぜてるんだよ」

『ト、トゲも!?』

 レンブラントと、近くで聞いていたアリウスは危うくグラスを落としそうになる。

 特にアリウスは、ついさっきそれに手をやられたのだ。余計に驚く。


「ニードルキュウリのトゲの中には、栄養と水分が沢山含まれているんですよね」

 そんな二人をよそに、ジークはキュウリジュースの中をマジマジと見つめる。

「でも、ジュースは初めてです」

「意外と美味しいですよ? 夏バテ防止にもなりますし」

 コノハとジークの二人は躊躇いなくゴクゴク飲み始める。

 それを見たアリウスも、やや躊躇いがちに飲み始める。


「あ、普通に美味い」

 滑らかな舌触りと甘さが口の中に広がり、ヒンヤリと冷やす。少し残った青臭さも、キュウリの醍醐味を感じさせる。

「凄く飲みやすい! 兄さん、これ凄いよ! ニードルキュウリってこんな料理法があったんだね!」

「まぁ、コノハだからな」

「え? それどういう……」

 コノハはその意味をアリウスに問おうとしたが、あるものを見て止める。


 レンブラントはグラスを握ったまま、口をつけようとしていなかった。どうも様子がおかしい。

 目が右往左往しており、キュウリジュースを見ようともしない。

「あ、レンちゃんもしかして」

「いや、えっと……」


 アリウスの顔が、意地悪そうに歪んだ。

「レンブラント、お前キュウリ嫌いなのか?」

「はぁっ!? そ、そんなわけないだろ! キュ、キュウリくらい……」

 そう言いながら、レンブラントの顔はドンドン青ざめていく。ポーカーフェースを知らないのだろうか。

「大丈夫レンちゃん! キュウリ嫌いな人でも美味しく飲めるから!」

「わ、分かってる! ……っ!」

 意を決したように、レンブラントはグラスに口をつけた。



「美味しい……」

「でしょ!」

 するとレンブラントはさっきまでと打って変わり、勢いよく飲み始めた。コノハはそれを嬉しそうに見つめている。


「楽しい人達だね、兄さん」

「楽しい…………そうだな」

 アリウスとジークはその様子を見守っていた。

 が、それを乱す者が来襲する。


「ん? ってうわ、ニド!?」

 よそ見をしている間に、アリウスのグラスにニドが口を突っ込んでいた。見る見るうちに中の緑色が消えていく。

「待てってお前、まだ俺一口しか……!!」

「ニド、ストップ! ……ダメだ、珍しく我を忘れてる……」

「くそ、やらせるか!」

「ブフッルルルゥゥ!!」


「あの馬鹿……アッハハハハ!」

「フフフ、アリウスったら……フフフ」

 ユニコーンと取っ組み合っているアリウス。その姿を見たコノハとレンブラントの笑い声が青空に飛び立っていった。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「じゃあ、しばらくゆっくりしてて下さいね」

「すみません、夕飯まで……」

「いいえいいえ。兄弟で久しぶりにお話でもどうぞ」

 ニッコリと笑ったコノハは、そのまま台所へと向かっていった。レンブラントも後を追う。


「なんか、ごめんね兄さん」

「何で謝るんだよ。コノハは人が来たら張り切る性格だから、気にしなくていい」

「ふーん……」

 ジークは擦り寄ってきたシャディを撫でながら、妙に勘ぐる仕草をする。


 嫌な予感がアリウスの頭をよぎる。


「もしかして兄さん、コノハさんとーー」

「いや違うからな」

「え?」

「違うからな!」

 アリウスは語気を強める。また変な誤解が生まれたら厄介だ。

「でも言葉の端々に予兆が……」

「……シャディ、そいつの顔にきついの一発」

「なんで……グハッ!?」

 ビターン、という快音と共にシャディの尻尾ビンタが炸裂。ジークはソファに倒れ込んだ。

 シャディは興味を失ったようにジークを放置。ペタペタと台所へ消えていった。


「痛い……なんで……」

「ちっ、どいつもこいつも」

 溜息をつき、改めて座り直す。何故誤解される。予兆というのも訳が分からない。


 ジークは昔から頭は良いが、変な所も多い。



 昔から。

 アリウスがジークを残して旅に出たのは、もう12年も前になる。



「……今まで、何やってた?」

 アリウスはバツが悪そうに尋ねる。するとジークは微笑みながら話し始める。


「兄さんが旅に出てしばらくはいつも通りだったよ。確か10歳になった時だったかな、色々と縁があって、ヴィルガードにあるザベル学院に入学したんだ」

「はぁぁぁっ!?」

 ソファから転げ落ち、後頭部を強打する。


 ヴィルガードとは、レオズィールにも匹敵する大都市であり、同時に大図書館や名門の学校が名を連ねる場でもある。


「いだだだ……いつの間にそんな……」

「そして少し前に卒業。今は恩師の依頼で世界を回ってるんだけど……とある街で噂を聞いてさ」

「噂?」


 その話になった途端、ジークの表情が真剣な者に変わる。

「レオズィールの精鋭騎士の大隊が、全滅したって」

「……ドラゴンズ・シンのことか」


 黙って頷く。


「もしかしてと思って、あちこちで探し回ったんだけど……良かったよ、生きてて」


 台所から良い匂いが漂い始める。そろそろ料理が出来た頃だろうか。


「わざわざ探してくれてありがとうよ。健気な弟のために、なんか力になってやりたいな〜」

 アリウスはわざとらしく天井を仰ぐ。

「…………なんの、こと?」


「その恩師の依頼、俺も力になれるか?」


「そ、そんなの悪いよ! 第一、コノハさん達は……」

「私達が何か?」

 そのやり取りを聞いていたコノハが台所からひょっこり顔を出していた。

 その手には、色鮮やかなサラダが盛られた皿。

「いや、その……今はコノハさん達の方を優先した方が、と……」

「んん……いや、そんなことないですよ」

 サラダが二人の目の前に置かれる。みずみずしいキュウリと、粘り気が断面から見えるオクラ。

 どちらも、今日採れたものだ。


「私も手伝います。……内容にもよりますけど」

「ピガァ」

 コノハの後ろからシャディも続く。その背中に皿を器用に乗せ、テーブルまで運んできた。

 フワフワのオムレツだ。


「でも……」

「あ〜ほらほら、男はうじうじしない!」

 更に続いてレンブラントが現れる。その手には液体が入ったグラス。

「おい待て、何勝手に人の酒開けてんだコラ」

「あ? これアリウスのだったのかい? ま、良いじゃないか」

 笑いながら、彼女はそれをジークへ差し出す。

(これ)飲んで、リラックスしな」

「僕、お酒はちょっと……」

「あぁん?」

「ありがたく頂きます」

「お〜い、あまり俺の弟苛めんなよ」

 直後、みんなが一斉に笑い出す。

 まるで本当の家族のような暖かい空気が、この空間に満ち溢れていた。


「温かいなぁ……」

 ジークはポツリと漏らした。


 続く

ニド「ブフゥ(俺は外で待機か……)」


というわけで20ページ目でした。ジークの相棒、ブラックユニコーンのニド、イケメン馬でしょう?

……誰ですか、バン○ィとかキ○ン亜種とか黒○号とか言った人は!


それでは皆さん、ありがとうございました!



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