16ページ目 それぞれの想い(コノハ編)
久しぶりに、暇だ。
コノハはソファの腕掛けの部分に頭をあずけ、天井を仰ぐ。
畑の水やりはゴーレム達が、肉の調達はアリウスとシャディが行ってくれている。
洗濯は朝に済ませてしまったし、薪も充分足りている。掃除は昨日やってしまった。本を読む気分でもない。昼食はパンで軽く済ませてしまった。
「…………うむぅ」
いつものやる気はどこへ行ってしまったのだろうか。ゴロゴロとソファの上で転がりながら、呻くことを繰り返している。
「アリウスとシャディ、早く帰ってこないかな…………ふぅ」
このままではいけない。
何かしなければ。何か…………
「そうだ、ピザでも作ろう!」
そう思い立った瞬間、コノハは飛び起きて調理場へと向かう。
幸い、材料は一通り揃っている。
まずは木のボウルに、薄力粉、水、砂糖、塩、オリーブオイル、そして酵母菌を入れる。
それを粉っぽさがなくなるまで混ぜた後、ボウルから取り出し、よく捏ねる。
この時コノハは手に微量の魔力を込めて、ほんの少し温かくしている。
そして生地を寝かせている間にソースを作る。今回はトマトとオニオンをベースにしたものだ。アクセントに少しだけガーリックも加える。
生地を充分寝かせたので、麺棒で伸ばす。生地の縁を指で押していき、綺麗な耳を作る。
そして上に乗せる具だが……
「今日は、余った食材オールスターで行こうかな♪」
コノハが選んだのは、ソーセージ、チーズ、イッカクオニオン、ミニピーマン。
これらを適当なサイズにカット。ソースを塗ったピザ生地の上に散りばめていく。
そうして出来たピザ生地を、予熱していた窯の中へと入れる。
後は焼けるまで少し待つだけだ。
「プハァ、やりきった……」
身体に満足感が満ちる。
コノハは働くことが好きだった。幼い時から母親の手伝いをしていたことも影響しているのだろう。
自分が頑張れば、喜んでくれる。褒めてくれる。
昔はそうしてくれたのは母親だったが、今は違う。
「アリウス……喜んでくれるかな……?」
最近考えることといえば、いつも彼のことばかりだ。
アリウスが頑張っている。それが今のコノハの働く原動力になっているのだ。
最初は何とも思ってなかった。とても優しい人、くらいにしか感じていなかった。
いつからだろう。彼の何気ない表情や言葉に、心臓が苦しくなるようになったのは。
こんなことを考えている今でさえ、鼓動はどんどん加速していく。
「…………辛いなぁ」
だがこれは、幸せな辛さなのかもしれない。もどかしさにも似たこの苦しさの正体に、コノハは察しがついていた。
窯から香ばしい匂いが漂い始めた。ドラグニティの嗅覚が、頃合いだと告げる。
中から取り出すと、チーズがピザの上でグツグツ音を立て、辺りにいい匂いを振りまく。
外を見ると、陽が西の地平線に没しかけていた。
ガチャッ
「た、ただいま……」
「ピィキュウゥン…………」
扉が開く音。
コノハはピザを皿に乗せ、玄関へと走る。
この淡い想いは、まだアリウスにも、友にも伝えるものではない。
だがいつの日か、告げる日が来るだろう。
「おかえりなさい、二人共っ!」
私は、アリウスが好きです……と。
続く




