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170ページ目 異形の進軍

 

 戦の火蓋は、弩から放たれた矢が風を裂く音と、大砲から放たれた砲弾が炸裂する音によって、切られる。


 攻撃の、ひいてはこの戦いの主力となる部隊。これを失う事は敗北を意味する。

 異形の竜と言えど生物の範疇を出ない存在。金属の矢と火薬の炸裂をまともに喰らえば頑強な肉体も切り裂かれ、焼き尽くされ、崩れていく。

 だが一つ、この世界の生物と異なるのは、


「怯むどころか……」

「完全に死ぬまで暴れ回ってやがる……!」


 腕が千切れ、脚が焼き尽くされても、残る顎と尾を振り回し、生命尽きるまでユーラン・イルミラージュの大地を傷つける。

 異形の竜達がグラウブから下された指令はたった一つだけ。


 ユーラン・イルミラージュに根付く、あらゆる生命を喰らうこと。ただそれだけだ。


「ならば完全に殺し切れば良いだけだ!」

「殺し切るまでに何本矢を使ったと思ってる!? そんなんじゃ……!」

 動揺が広がろうとする中、一人の声がそれに歯止めを掛ける。

「動きを止めて下さい!!」

「う、動きを……!?」

「脚や翼を狙って! 進行さえ止められれば被害は抑えられます!」

「……了解! 他の騎士達にも伝令を!」

「大砲ならともかく矢で狙うのは……獣用の捕縛鎖も持ってきてくれ!!」

 声を上げた人物、イデアの指示によって騎士達は再び士気を取り戻す。

 自分は戦うことが出来ない。だが副隊長として、皆を率いる隊長の背を誰よりも近くで見てきた。

(きっとあなたの代わりは務まらない、それでも!)

 今はいないカリスの背に追いつくように、イデアは奔走する。


 本来、戦場の主を担う歩兵達はそんな彼等を守るべく、防壁の向こう側で身の丈を越える程の大盾を構えて道を塞いでいる。生半可な武器では殺し切る前に殺されてしまう。守りに徹し、後方の部隊の攻撃が来るまで耐える。練度が足りない騎士達もこの部隊へ配置されている。



 そして残る騎士達は。



「動けなくなった奴は放っておけ! 間違っても弩と大砲に巻き込まれるなよ!!」

 馬が駆ける音に、鎧が擦れ合う音が重なる。自分達のすぐそばを駆け抜けた生物達の波動。それを感じた異形の竜達の視線が向く。

 天地から命を狙われる重圧に晒されながらも、陽動を担う騎士達は焦る様子を微塵も見せない。怪物のすぐそばを駆け抜け、金属の矢と砲弾の嵐の中を突き進む。


 彼等もまた、後方部隊の攻撃の時間を稼ぐ役割を担う部隊である。異なるのは戦馬を駆り、異形の竜の行動を直接誘導するという点のみ。

 残った騎士の中でも精鋭が選抜され、そのほとんどがまともな武器を所持していない。敵を誘導し、一定の地点へ集めることに特化した戦術の為に。

 しかしその中で極僅かながら、獲物を携えて立ち向かう影がある。


「はぁっ!!」


 愛馬の加速に戦斧を重量、更に自身の腕力全てを乗せた一撃が、異形の竜の頭部を打ち据えた。鼻先から半ばが両断され、口を半開きにした間抜けな顔のまま倒れ伏す。

(こんな調子じゃ全部倒すなんて無理だな……)

 愛馬であるディラホースと共に戦場を駆け抜けるノーティエ。彼女と彼女が率いる元三番隊の騎士は騎馬戦に精通している。陽動をこなしながら、隙があれば連携して異形の竜を撃ち倒す事は彼女達にしか出来ない。


 ノーティエが別の個体へ向かおうとした時、彼方で轟音と光が走るのを見る。

(アリウス達の仲間か……悔しいが向こうの戦力が頼りだな)

 自らの役目は、前線で戦っているヘリオス ── レオズィールの未来を守る事。

 ヘリオスの側から離れすぎないようにしつつ、ノーティエは愛馬と再び走り出した。




 全ての力を使って戦うのは、いつぶりだろうか。


 槍を振るい放たれる烈風の刃は異形の竜を両断し、空いた手から落ちる炎の雫は群れを焼き尽くしていく。

 たった一人で騎士団を超える速度で竜を殲滅していく。だが造られた生命とは言え本能はある。竜騎士がいる地点を危険だと認識すれば騎士団側へ流れていくだろう。

 進行方向を変えようとする群体を、竜騎士が乗るリンドブルムが吐く白色の光が蒸発させる。行動自体は至極単純。戦況が大きく動く事はない。


 問題はその総数。こうして殲滅している間にも、それと同じ数の増援が後方より湧いている。少しでも減らさなければ作戦は最後まで遂行できず、いずれ押し負ける。


(要はアリウス・ヴィスターと……)


 竜騎士は背後のある場所へ目を向ける。そこにはもう一つの切り札がある。


(ドラグニティの青年……ハーヴィン・レミティか)




続く

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