表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/184

15ページ目 たくさん仲間が増えました

 日が昇り始めて間も無い朝。

 コノハはアリウスの部屋の隣、物置の前にいた。

 まだアリウスもシャディも夢の中。しかしコノハにはこんな時間に訪れる理由があった。

 とあるものが、この未開の物置にある筈なのだ。

「さて、宝探しですよ!」

 調子が上がった声と共に、沈黙を守り続けている扉を開いた。

 目の前に積み重なった、大量の歯車が出迎えた。

「え?」

 そしてそれは挨拶するかのように、ゆっくりと倒れこんできた。

「わああああああっっ!?」


 ガラガラガラガラ! 大量の歯車と埃が雪崩れ込む。



「な、何だ!? 一体どうした!?」

「ビピイイ!!」

 隣の寝室からアリウスが、下の階からシャディが駆けつける。

 もうもうと舞い上がる埃が晴れると、そこには小さな歯車に埋もれて目を回すコノハの姿があった。

「た、助けてくらはい、二人共……」

「何やってんだお前」

「ピィ」

 呆れたような、一人と一匹の声が空気に溶けた。



「あ、ありがとうございます……」

「まったく、言ってくれれば良かったのにな」

 サンドウィッチにパクつきながら、コノハはしょんぼりする。

 ちなみに今日のサンドウィッチの具は、フラワーレタスとノイズィチキンの照り焼きだ。つい先ほど調理場からノイズィチキンの悲鳴が聞こえていたので、取れたて新鮮なのだろう。

「んで、何しようとしてたんだ?」

「はっ! そうですよアリウス!」

 コノハは目を輝かせると、身を乗り出しながら話し始めた。

「アリウス、ゴーレム作りますよ、ゴーレム!!」

「……ごーれむ?」

 ゴーレム、という言葉自体はアリウスも知っている。しかし作る、となると詳しい内容は分からない。というか、そんな簡単に作れるものなのだろうか?

「作り方は知ってるのか?」

「つい先日、本棚の奥に眠っていた本に載ってたんですよ。絶対役に立つ筈です」

「成る程な」

 確かに人手(?)が増えるのは嬉しいことだ。反対する理由はない。


「でも、突然どうして?」

「えっと、そ、それはぁ、まあ……」

 何故かそこで詰まり始める。目をキョロキョロさせ、本人は気づいていないが顔も少し赤い。

「そ、そろそろ作業が増えてくるでしょう。私だけだと、人手が足りないじゃないですか。だ、だから……」

「だから?」

「だ、だからですよ!! さあ、善は急げです! 行きますよ!」

「あ、あぁ!? まるで意味が分からん!」

 まるで逃げ出すように、胸に大量の歯車を抱えて走って行ってしまった。この前にも似たようなことがあったのだが、アリウスは未だに分からなかった。



 そしてもう一つ、気にかかることがあった。

 アリウスは床で旨そうにチキンを食うシャディを見て、一言呟いた。



「お前、いつの間にこんなでかくなった?」

「ピフ?」

 アリウスの腰上ほどの大きさになったシャディは、むくりと体を起き上げた。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 家の裏にある小高い丘から畑を見渡してみる。


 種を植えてからちょうどひと月。クモオクラもニードルキュウリも、グングンとその背を伸ばしていた。この調子でいけば実を付ける日もそう遠くはないだろう。


 丘の上を見ると、コノハは手のひらほどの大きさの歯車を地面に規則正しく並べていた。

 そして事前にアリウスが頼まれて持ってきた薪用の木材を周りに配置する。

 アリウスはというと、シャディと共に大量の石を積んだ荷車を丘の上まで引いていた。

 確かに石といえば、ゴーレムの素材っぽいが……。



「シャディお疲れ様! 力持ちになりましたね〜」

「ピピフゥ!」

「アリウスもお疲れ様です」

「あぁ。でも、これからどうやって……?」

「それはこれから実践しますよ。とりあえず、石を歯車の周りに置いてください」


 言われた通り、アリウスは石を適当にばら撒いた。

「ありがとうございます。それじゃあ……」

 すると、コノハは両手をゆっくり合わせ始めた。



 その瞬間、アリウスはコノハの手首をガシッと掴んだ。

「ひゃっ!?」

 突然掴まれたこともあり、コノハは上擦った声を上げる。

 アリウスの表情は強張っていた。

「おい、コノハ……」

「ち、違います違います! 今回は普通の魔法ですから! だから大丈夫です、ね?」

「なら、良いが……」

 アリウスはそれを聞くと手を離した。

 あの日以来、アリウスはコノハが魔法を使うことに対して、かなり警戒するようになっていた。

 それはコノハ自身の所為だとしても、いきなり手を掴まれたのは初めてだったので驚いた。

 まだ、心臓が早く鼓動している。


「そ、それじゃあ……」


 手を合わせると、手に白い魔力が凝縮していく。やがてそれは、コノハの手の中に溶け込んでいく。



「メルザア ジノハユガ レドル ギズハ レイズ ゼクラメディス (聞け、かの者らよ。我が作りし生命を、我に貸し与えたまえ)」



 コノハがユーランスペルを唱えると共に、魔力を宿した指で虚空に文字を刻んだ。


 その文字は輝きを放つと、無数の光の粒となって十個の歯車に宿った。



 するとどうだろうか。歯車がカタカタと揺れ始めたかと思うと、周りの木から骨格を形成する。その中心に光を纏った歯車がはまり、石が木材に吸い付くように合体。


 あっと言う間に、アリウスの腰ほどの大きさの石人形が姿を現した。


「す、凄えな……」

「ふ、ふふ……ど、どうですか、凄い、でしょう……」

 普通の魔法とはいえ、さすがに十体のゴーレムを作るのは疲れるようだ。息が切れている。


 ゴーレムはというと、自身の体を不思議そうに見つめていた。その場をうろついていたり、中には尻餅をついたりするゴーレムもいる。

 アリウスが想像していたよりも随分可愛らしいというか、少し間が抜けている。やはり製作者に似るのだろうか?


 すると、コノハが突然アリウスに体を倒してきた。

「ね、眠い……」

「丁度そこに木があるから昼寝したらどうだ?」

「あ、ありがとう、アリウス……」

 敬語が抜けるほど疲れているようだ。あまり無理をして身体を壊したらいけない。コノハをゆっくりと木に寝かせる。



「さて、こいつらは……と」

 アリウスは好き勝手にうろつくゴーレムに向き直る。

 作ったのはコノハだが、自分の指示は聞いてくれるのかが気がかりだった。

 ユーランスペルは話せない。だが一応、普通に話しかけてみた。

「全員、一列に並べ!!」

 騎士団時代の名残だったが、気迫溢れるアリウスの号令が響き渡る。


 ゴーレム達はピクリと体を震わせたかと思うと、素早い動きで整列しだした。

「お、おう……一応ユーランスペルじゃなくても大丈夫みたいだな」

 異常に統率のとれたゴーレム達に、アリウスは戸惑いを隠せない。

「じゃあ、とりあえずリーダーを決めるか。この中でーー」


 ビシッ


 アリウスが言い終わるより前に、先頭にいるゴーレムが挙手した。

 よく見るとそのゴーレムの頭のてっぺんには、円錐形の角らしき何かが突き出していた。リーダーの証、なのだろうか?

「…………お前がリーダーで良いんだな?」

「フゴォ」

「喋った!? な、なら残った奴らを整列させてくれるか?」

 隊長ゴーレムは無言で頷くような仕草をとると、片手をグルグル回し始めた。

「フゴォ、フゴォ」


 そう号令らしきものをかけると、先ほどまで一列に並んでいたゴーレム達はそれぞれ三人、計三列に分かれた。


 そして隊長ゴーレムはクルリと向き直る。次なる指示を待っているようだ。

「あ、あぁっと……じゃあ左端から一、二、三番隊な。一番隊は畑の水やりとパトロール。二、三番隊は森の近くで薪集めだ。って、やり方知らないか。じゃあ……」


 アリウスが説明しようとした時には、既にゴーレム達は忽然と姿を消していた。

 見渡すと、用具がある小屋の中から、各々必要な道具を取り出していた。ジョウロや斧を手に持ち、トタトタ忙しそうに持ち場へ向かっていく。

「…………」

 あまりに有能すぎるゴーレムに唖然としていると、服の裾をクイクイ引っ張られる。

 そこには、隊長ゴーレムが一体残されていた。よく考えると、隊長ゴーレムには新たな指示を与えていなかった。

「うぅんと、お前は……」

 指示を考えている中、ふと視線をある方向へ向ける。



「じゃあさ………………」

「フゴォ!」



 数分後、そこには木にもたれかかったまま眠るコノハに、一枚の毛布がかけられていた。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 小さいながら、ゴーレム達はとても働き者だった。

 現在アリウスは隊長ゴーレムと共に木こり担当の二、三番隊を見に来たのだが、そのパワーには驚かされるばかりだ。

 アリウスがいつも手斧として使っているものを目一杯振り、反対側からノコギリを入れ、残ったゴーレムが木の倒れる方向の調整。


 ミシミシミシミシ

「フゴォッ、フゴォッ!!」

「フゴォッ」

 ズシーン


「お見事!」

 鮮やかに切り倒す様子を見て、アリウスは拍手を送る。この短時間で四本もの木を伐採した功績は大きい。

 その後はアリウスと隊長ゴーレムも加わり、木の皮を剥がし、適当なサイズにバラしていく。



 と、その時、聞き覚えのある音が響き渡った。



 キシャァァァァァッ!!


「…………シャディの声か?」

 それは明らかに外敵に向ける威嚇の声だった。声の方角は、畑からだ。

「すまん、ここは頼んだ。隊長ゴーレムはここに残ってくれ」

「フゴォ」



 アリウスは森の入り口から離れ、畑へと走る。未だシャディの叫び声は消えていない。

 何があったのだろうか。

「シャディ! いったい何が……」

 しかしアリウスは、それ以上言葉が続かなかった。



 畑の前では、威嚇するシャディ、引け腰のファインディングポーズをとるゴーレム達、

 そしてひときわ目を引く、手足が生えた魚が相対していた。


「……ハシリウオ、だっけ? もうそんな季節なんだな」


 ハシリウオとは、ユーラン・イルミラージュの全海域に生息している魚。

 なんといっても、胸ビレと尻ビレが進化して出来た気色の悪い手足が特徴だ。普段は蛙のように這いずり回って移動するのだが、危険を感じると二足歩行で走り出す。それがまた、気色悪い。

 海中で生きることも可能だが、春の終わりから秋の初めまでは活発に地上を歩き回る。竜の庭は海が近いので、姿を現したのだろうか。

 ちなみに刺身や照り焼き、果ては鍋にしても美味である。


 そんなハシリウオは今、シャディとゴーレムの手厚いお出迎えに明らかに警戒している。

「…………シャアッ!!」

 すると突然、シャディが大きく跳躍。大きく口を開けてハシリウオに噛み付かんとする。

 しかしハシリウオの反応は早かった。カエル跳びの要領でシャディの攻撃を回避。

 直後、二本足で立ち上がり、猛スピードで走り出した。

「うぉぉっ、走った!」

「ピキャァァ!!」

 シャディは悔しかったのか、ハシリウオを追いかける。

 両者は丘を真っ直ぐ駆け上がる。身体能力の高いシャディでも、その距離の差は縮まることはない。



 そこではアリウスは、とあることに気づいた。



「ま、待て! そこにはコノハが……」


 だが、悲劇は起きてしまった。

 ハシリウオは大きく距離をとるために跳躍。


 結果、コノハの顔にビタリと張り付いた。


 一瞬の沈黙の後、ムニャ、という声がコノハから発せられる。

 そしてビクッ、としたのも束の間、プルプル震えだす。


 アリウスはその後の反応を察し、耳を塞いだ。



「ヒャァァァァァァッ!!!!」



 続く

マスコットが増えました(白目)


というわけで15ページ目でした。ゴーレムはまだしも、ハシリウオをマスコットと認めてくれますか、皆さん……。

しばらくは畑でのお話を挟みたいと思います。真面目なお話もあるかも……?


それでは皆さん、ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ