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14ページ目 今なき姿、今そこにある夢

「えぇっと、確か……」

 アリウスは元いた自分の部屋を探索する。元から物が少ない部屋ではあったが、一ヶ月も期間が空くと埃をかぶり始めていた。

 普通ならば戦死した騎士の部屋は数日以内に片付けられてしまうのだが、幸い荷物に手がつけられた形跡は無い。

「カリス、サンキュな」

 おそらく無理を言って維持してくれたであろう友人に感謝の言葉をかける。目の前ではあまりいう機会が無いが。

「よっと、お、あった」

 部屋の奥にある箱の中を開ける。



 その中には、眩い輝きを放つ、一振りの剣が眠っていた。





「というかコノハさんの方こそどうなんですか?」

「へっ?」

 城門前では、コノハとイデアがまたしても話に花を咲かせていた。一応、イデアはコノハの護衛という形だが、最早友人の様に話していた。

「先程からアリウスさんの事ばかり尋ねているのですが……まさか……」

「…………ソンナコト、ナイデス」

「片言っ!? 怪しい、怪しいですよ! アリウスさんったら、こんな幼気(いたいけ)な女の子に手を出すなんて……!!」

「い、幼気なだなんて……そんなに褒めなくたって……エヘヘ」

「いや褒めてないです!」

「何を騒いでんだお前ら」

 と、背後からアリウスが現れた。ビクリと肩を躍らせた二人の様子を見て怪訝な表情をしていたが、言及はしなかった。

 アリウスのその手には、鞘に入った剣が握られていた。

「これが、忘れ物ですか?」

「まあな。本当、忘れちゃいけないものだっからな……。後は細々したものを持ってきた」


 不思議なことに、コノハの心音がスピードを上げていく。

 今まで斧や鍬などを持った姿しか見ていなかったからだろうか。剣を持ったその姿はとても様になっていた。



「本当に、騎士みたいです……」

「本業だからな」

「む……今は農場経営が本業じゃないんですか?」

「そ、そういやそうだった」

「ムスゥ」

 何故か不機嫌そうになったコノハに、アリウスは戸惑いつつ返す。両頬をリスの様に膨らませる彼女を見ていると、なんとも言えない気持ちが湧き上がる。



 この剣が今、手元にあるから。


 より鮮明に、彼女(・・)の姿が目に浮かぶ。

 耳に響く、幼い声。



 ーーアリウス! アリウス!ーー

 喜ぶ声、怒った声、悲しげな声、楽しそうな声。

 全ての声で、今でも思い出すことが出来る。


 ーーこの剣がアリウスを、アリウスの大切なものを守ってくれるからーー


 ーー私が、守るからーー





「アリウスッ!」

「っ!?」

 突然の呼びかけに我に帰る。

 見るとそこには、さっきよりも更に頬をむくれさせたコノハがいた。

「私が呼んでも知らんふりしてました」

「あ、いや、考え事をな……」

「良いですよ別に」

 完全に機嫌を損ねてしまった。

 あの声は自分の回想だとばかり思っていたが、本当に呼ばれていたとは思わなかった。


「アリウス、これ……って、どうしたんだい?」

 カリスが城から出て来た。右手には何かが入った麻袋が握られている。


「いや何でもない。って何だそりゃ?」

「君の貯金だよ。ちょっと頼んで持ってきてもらった。……正直、多すぎたからこれくらいしか一度におろせなかったけど」

 カリスが麻袋を揺らすと、ジャラッという重い音が鳴る。

「そ、そんなにあったっけか?」

「うん、これだけでも大体のものは買えるね。あとは、これ」

 麻袋の次に渡されたのは、黒いワインボトルだった。中で揺らぐ液体の中身は他でもない。

「酒?」

「んんと、果実酒。わざわざここまで来てもらったからね」

「そりゃどうも。因みに何て酒だ?」

「ドラゴンブレスってやつらしいよ。相当キツイお酒らしいから気をつけてね」

「おま、とんでもないもんよこしやがったな」

 酒という皮を被った危険物を引き気味に見つめる。それはそうとしても、旧知の親友からの贈り物だ。後でコノハと一緒に……


(あれ? あいつは酒飲めるのか?)

 アリウスはふと疑問に思う。年齢は確かにアレだが、明らかに見た目は子供だ。身体が受け付けない可能性だってあり得る。

「なぁコノ……っと」

 今のコノハは、おそらくむくれたままで答えてくれない。ならばレンブラントが飲めるだろうか。だが、それはそれで面倒臭い。



 アリウスが思考を巡らせていると、カリスが消え入りそうな声で尋ねてくる。

「本当に、行くんだね?」

「あぁ」

「ならその前に一つ、言っておきたいことがある」

 カリスの表情が突然厳しいものとなった。

 馬車でアリウスの様子を見た時から、ずっと引っかかっていたこと。今、それを親友へとぶつけた。



「君は…………コノハさんに彼女(・・)を重ねて見ている」

「……どういう、ことだ?」

「言葉どおりさ。…………それはいつか、君とコノハさんに深い傷を刻むことになる」


 アリウスの形相が、見る見るうちに暗いものへと変貌していく。しかしカリスは怯まない。

 彼が万が一、道を外れたりしないように。これは言わねばならないことだ。


 親友として。


「…………カリス。俺も一つだけ、言っておきたいことがある」

「何だい?」





「あいつはもういない。だけど、夢はまだ残ってる。コノハの夢は、あいつの夢と同じなんだ。俺はそれを、二人が目指した夢を叶えるだけだ。…………重ねて見えるのは、認めるけどな」




「……そうか」

 カリスは表情を緩める。胸で渦を巻いていた心配が取れた、という雰囲気だ。

「安心した。なら君は、コノハさんの傍にいた方がいい」

「もちろん。俺はコノハの夢を、コノハのことを守る。あいつと一緒にな」

 アリウスが掲げた銀色の鞘が、肯定するように光を反射した。



「次会えるのは……いつになるかな」

「なんだよ、恋人じゃあるまいし。それにラットライエルまで来たら、そこから案内してやるよ。多分、お前も気にいる」

「はは、休暇が取れたら鳩を送るよ。……それじゃあ、元気でね」

「お前こそな」

 二人はどちらからともなく、拳と拳を軽くコツンとぶつけ合い、別れの挨拶を交わした。



 それだけで、十分だった。




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「どういう風の吹き回しですか?」

「いや、何か機嫌悪そうだったから」


 レオズィールから竜の庭に戻って来た時には、既に夜も深くなっていた。

 しかしコノハの機嫌は帰って来た後も直ることはなく、夕食を作る時も、入浴しに行く時も、頬は膨らみっぱなしだった。流石にこのままではまずいとアリウスは思ったのだが、原因もよく分かっていないのでそれを解決は出来ない。

 そこで、風呂上がりのコノハに提案したのだ。

「髪を()かすの、俺がやろうか?」




 深紅の髪を木のブラシで梳いていく。口ではグチグチ言っているが、気持ち良さそうにしている様子が顔に表れている。

「機嫌? 全然ワルクナイデスヨー」

「言葉の一部が棒読みなんだが……」

「ダカラ全然……フキュウ、気持ち良い……」

 コノハは何とか誤魔化そうとしていたようだが、吐息交じりの声を漏らし、最早寝る寸前だ。

 上気した肌からはふんわりと甘い香りが漂い、深紅の髪はツヤツヤと輝いている。



 そのうなじにはドラグニティの象徴、七色の輝きを放つ逆鱗が覗いていた。



(す、凄く気になる……)

 前に初めて会った時は拒絶されたが、やはり気になるものは気になる。だが勝手に触れば、おそらく飯抜きどころではないだろう。最悪、畑の肥やしになるかもしれない。

「アリウス、あまり逆鱗をジロジロ見ないでください!」

「えっ!?」

「もうっ! あまり人に見せられるものじゃないんですからね!」

「いや、でも…………綺麗だからさ」

 何気なくアリウスはそう言った。事実そう思っていたから。


 すると、コノハの耳が肌以上に赤くなっていく。否、肌も真っ赤だ。

「げ、げ、逆鱗が綺麗!? あ、アリウス、そそそそれは、それは、それはぁぁっ!!」

「あぁっ!? ど、どうした突然!?」

「ひゃぁぁぁぁぁっっ!!」


 突然立ち上がり、そのままリビング奥の梯子を上って行ってしまった。

 櫛を片手に、ポツンと残されたアリウス。何があったのか分からず、呆然としたまま動くことが出来ない。


「わ、わかんねぇ……カリス、教えてくれ、女心を…………」

「ピィ」

「いやお前じゃない」

 シャディの返答は、今のアリウスにとって何の助けにもならなかった。



 続く

シャディ「ピピヒュウ(鈍いんだよなぁ、アリウスは……)」


というわけで14ページ目でした。

あいつって誰? 国王って誰? そのお話はまた、別の機会にでも。

次回は新たな仲間が加わる予感……?


それでは皆さん、ありがとうございました!

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