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13ページ目 鈍い心、一皮剥けろ!

 ガタガタ揺れる馬車の中、アリウスとカリスは向き合っていた。

 他愛のない会話ばかりだったが、やがてお互い無言になっていた。


 外の景色は夕暮れ。

 そしてアリウスの隣では、シャディを抱きかかえたコノハがスヤスヤ寝ている。前に見た時と同じように、時々クスッと笑い出す。

「何の夢見てんだかな……」

「ははは、可愛らしくていいじゃないか。……にしてもアリウス」

「あ? 何だよ?」

 カリスが突然声をひそめるのを見て、アリウスは怪しむ。いや、カリスの視線にはむしろアリウスを怪しんでいるような色が含まれていた。


「アリウス、この娘は君の恋人かい?」

「…………あぁもう、またそれかよ」



 いい加減疲れたように肩を落とす。

「あのなぁ、何でそう見えるんだよ」

「あ、違うのか。……そうだね、ドラグニティと僕らじゃあ、まだ共存も難しいしね」


 アリウスはカリスの発言に、片眉を上げた。


「……お前、コノハがドラグニティだって気づいてたのか?」

「いや、まぁ、ね? 彼女、首の辺りを気にしてたから。後は、君の反応かな?」

 カリスは肩をすくめる。こいつに隠し事が出来ない事を忘れていたーーとアリウスは内心呟いた。

「彼女、似てるからさ」

「…………確かにな……」

「あ、いや、すまない。つい……」

 カリスは親友の表情に陰りが見え、バツが悪そうに口を閉ざす。



(まだ、引きずっているのか)



「……ふぅ、ふふ…………ふふふ」

 だがそんな表情も、ドラグニティの少女が見せる無防備な笑顔を見た途端に緩んでいく。

 口ではあーだこーだ言っていても、今はこの少女がアリウスの心の支えになっている。それを感じ取り、カリスもつられて口元を緩める。


「あれ、アリウス、この仔竜……?」

 と、コノハに抱かれていたシャディの様子がおかしい事に気づいた。先程からプルプル震え、何やらモゾモゾ怪しい動きをしている。

「あ、おいシャディ! まさかトイレか!? トイレなのか!?」

「そ、それはマズイよアリウス、馬車の中ではちょっと……!」

 二人の青年が慌てふためくのを他所に、シャディはひょこっと身体を出し、踏ん張り始めた。

「ピィフュゥ……!!」

「ピィフュゥじゃねえよ! シャディ頼むから我慢してくーー」

「ピィィィィッッ!!」



 ピシリッ



 シャディの渾身の叫びと共に、背中のど真ん中に亀裂が入った。

「……は?」

「……え?」

 アリウスとカリスが状況を飲み込めない内に、その亀裂はどんどん広がっていき……


 遂に背中の真ん中から、柔らかな肌のシャディがニュルリと姿を現した。


「……な、何だ脱皮か……ふぅ」

「だ、脱皮!? ワイバーンって脱皮するのかい!?」

「いやするだろ、普通に。今までにも何回か脱皮してたんだが、まさか馬車でとはな……」

 アリウスが嘆息する横で、シャディは脱皮して清々しい気分なのか、ご機嫌な様子でアリウスの頭の上に乗る。


「ん〜……二人共、うるしゃいです……」

 どうやら一連の騒ぎでコノハが起きたらしい。トロンとした瞳で視線を往復させ、呂律の回らない喋りをする。

「気持ちよく寝てたのに…………ね、シャディ?」

「コノハ、それシャディじゃなくて脱け殻……」

「シャディ、どうしたんですか? 何だかいつもより色が薄いですね」

 コノハがシャディの脱け殻をムイッと引っ張ったその時、


 ベリベリッ


 音を立てて脱け殻は引き裂かれた。

「…………し、シャディ……?」

「おいコノハ、それ脱け殻だからな? お、落ち着けよ……コノハ?」

「……………………」

 応答がない。否、口から泡を吹いていた。

「コノハさん落ち着いてください! 貴女が裂いたのは脱け殻ですから!」

「シャディが……真っ二つ……ブクブク」

「だ、ダメだ……完全に気を失っている」


「ピピィ……ピピィ……」

 これだけの騒ぎを起こしたシャディ当人はすでに夢の中。

 これだけの騒ぎがあっても、馬車は止まることなくレオズィールヘ進んでいく。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「はい止まって、通行許可証は?」

「いつもお疲れ様です。ある人物を護送しています」

「こ、これはカリス隊長! 失礼、お通り下さいませ」

 門の前に立っていた衛兵は敬礼をし、門番の元へ駆け寄る。

 間も無く、重い音を立てて街へ続く門が開かれた。

「カリスさん、凄いですね。顔だけで通してくれましたよ」

「いやぁでも、本当はアリウスの方が凄いんだけどね。彼、国王直属の近衛兵だったし」

「国王……直属……って、えぇっ!?」

 コノハは馬車が揺れんばかりに仰け反った。

「ほ、本当、ですか、アリウス?」

「……どうだったっけかな〜?」

 白々しいその態度こそ、真実であることを認めているようなものだ。

 ならば尚更、コノハは理解出来ないことがあった。



 自分の夢は、近衛騎士を辞めるほどのものなのか?

 どうして、そこまでしてくれたのだろうか?

 いくら考えても、納得のいく結論は出ない。



 馬車の動きが止まった。

「よし、馬車はここまでです。少し歩きますが、城は近いので」

「コノハ、うなじを見られないように気をつけてな」

「はい」

 コノハは言われた通り、スカーフを少しきつめに巻く。息苦しさはあるが、仕方がないことだ。

「後、シャディもリュックの中に入っとけ。あの国王だ、バッグか財布にされても不思議じゃねぇ」

「ピィ……」

 シャディはブルリと震えると、大人しくアリウスが背負ったリュックの中へ潜り込む。

 コノハの表情は、既に複雑な色を示している。アリウスが言っている通りだとすれば、レオズィールの国王は相当危険な人物だ。


「さて、行きましょうか。じゃあ僕が道案内を……」

「カリス隊長!」

 カシャカシャと甲冑が擦れる音と共に、一人の騎士が駆け寄ってきた。


 さっぱりした黒髪のショートヘア。美しくも凛々しさを秘めた美貌に、紫の瞳。背もコノハより一回り高い。

 控えめに言っても、完璧な美少女だ。


「あぁ、イデア。お疲れ様」

「いえ……って、隊長、こ、この人は……」

 イデア、と呼ばれた少女はアリウスを見るやいなや、驚愕している。どうやら本当に死んだことになっているようだ。

「おう、墓場から戻ってきたぜ」

「訳分かんないこと言わないでください! 貴方の訃報を聞いてカリス隊長、落ち込んでたんですよ!」

「え、俺の生存を信じてた奴はいないの?」

「カリス隊長だけは信じていました。……でもよく考えてみれば、アリウスさんがそう簡単に死ぬなんてありえませんよね。スライム並みにしぶといですし」

「スライム……」

 アリウスは力無く呟き、その場に座り込む。


 ちなみにユーラン・イルミラージュのスライムは人々の生活には必要不可欠で、ランプの油、美白液、薬品の原料、果ては食材と用途は多岐に渡る。だが苔色でゲル状の生物である事と、細切れにされても生きる生命力から不快に思われている生物だ。


「帰って来たということは、原隊復帰ですか?」

「あぁ、いや、彼はただ忘れ物を取りに来ただけなんだ」

「そ、そうですか。…………何故、復帰なさらないのですか?」

 イデアに尋ねられたアリウスは困ったような表情を浮かべていた。目の前に建つ、巨大な城に向けられた視線には光がない。



「ちょっと、疲れたからかな」



 イデアは何かを察したのだろう。それ以上は追求しなかった。

「では、私が城まで案内致します。お二人は大丈夫でしょうが、そちらの方は……」

「あ、初めまして。コノハ・レミティといいます。職業は農場主で……えっと、種族は……」

「?」

「イデア、そこは分かってくれるな?」

「……あ! はい、承知しました」

 歯切れが悪くなったことを疑問に思ったイデアも、アリウスの一言で了承してくれた。

 右手を額に添え、ピシリと敬礼した。

「改めまして、レオズィール王国騎士団第一部隊所属、イデア・アトラスベルネ。種族はヒューマンであります!」

 そして、コノハへ笑顔を浮かべた。

「よろしくお願いします。コノハさん」

「……はい!」



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「コノハさんは、アリウスさんとどうやって知り合ったんですか?」

 徒歩で城へ向かう最中、イデアはコノハへ様々な質問をしていた。

「確か……アリウスが傷ついた状態で運ばれて、それを介抱したのが始まりでした」

「へぇ、あの人も怪我なんてするんですね」

「い、いやぁ、怪我くらいはするでしょう…………」

 先程からやけにアリウスを気にかけるような質問ばかりしている気がする。それに何だか、自分のことだけ聞かれるのもつまらない。

 そこでコノハは、こんな質問を投げかけた。



「イデアさんは好きな人はいるんですか?」

「…………え、ええぇぇっ!?」

「うわぁっ!?」



 予想以上の狼狽にコノハも驚いた。凛々しかった表情はどこへやら、まるで茹で蟹のように顔から湯気が出ている。


 これでいることは確定。後は誰かだが……。


「誰なんですか?」

「いやいやいや、それは、それは言えない! 断じていうものか!!」

「大丈夫ですよ言いませんから。誰なんですか誰なんですか?」


「え、と………………………………カ、カリス隊長…………」


「え、カリスさん!?」

「声大きいです!!」

 イデアは反射的にコノハの口を塞いだ。

 コノハがムグムグしながらイデアの手を叩くと彼女は慌てて手を離し、コホンとわざとらしい咳払いする。

「そ、そうなんですね。てっきりアリウスかと思ってました」

「アリウスさんは尊敬できる先輩としか。それにあの人は人の思いに対して、恐ろしく鈍感ですから」

 恐ろしく鈍感、これには激しく同意する。おかげで気苦労が多い。反面助かっている気もするのだが。

「じゃあ、頑張ってくださいね、イデアさん!」

「だから声が大きい!!」

「ムグゥッ!!」





「何をキャーキャー叫んでるんだあいつら」

「楽しそうならいいんじゃないかな?」

「ピィ」

「お前は出てくんな」



 続く

一皮剥けたのはシャディだけ……


という訳で13ページ目でした。今回は話だけでしたが、スライムが出ましたね。スライム先輩が出ると、ファンタジー度が跳ね上がる気がします。


それでは皆さん、ありがとうございました!

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