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12ページ目 因縁……はない再会

 静まり返った店内で、二人の青年の視線が交差する。言葉はない。だが、確かにそこでは様々な戦いが起きている…………

「……かも、しれないね」

「あ、ああ、多分ね」

 コノハとレンブラントの二人は静かに実況した。


 そして遂に、アリウスの口が開いた。何か一つ、恐ろしい脅し文句が出るかと思われた。しかし、



「おう、カリス。いつぶりだっけか?」



 思わず二人はずっこけそうになった。先ほどの雰囲気と比べ、随分と軽い挨拶だ。

「……はぁ、君ときたら。こっちは報せを聞いてすっ飛んできたって言うのに、そんな軽く……」

 当のカリスという青年は呆れたように呟く。どうやら因縁の再会、ではないらしい。

 一安心という気持ちと、肩透かしを食らった気持ちが混ざって、コノハとレンブラントは形容し難い表情になっている。

「大体、何で毎回喧嘩腰なんだい君は。彼らが剣を抜きそうになったのも無理ないよ」

「いやいやいや、あっちが抵抗したら殺すみたいに……」

「い、言ってません!! 我々は断じてそんなこと言ってません!!」

 血相を変えて否定する騎士達。今まで厳格に振る舞っていたのが嘘のようにタジタジになっている。

 明らかにアリウスよりも年上に見えるのだが、これまで通りの態度からはアリウスよりも階級は下の様だ。


 するとカリスは片手を上げて本題に戻そうとする。

「さっき外で聞いてはいたが……何故戻らない? レオズィールあそこには君が築き上げてきた全てがあるだろう?」

「築き上げたって、大袈裟に言うな。それにお前なら分かる筈だ。それがどうでもよくなるくらい、俺はあの国に失望したんだよ」

「でもそうしたら君の今までは……!!」

「俺の過去いままでより、叶えてやりたい未来ゆめがあったんだよ」

 アリウスはコノハの方を向いて言った。彼の顔には、少々困ったような、いや照れたような色が含まれていることにカリスは気づいていた。

 一方、当のコノハは首を傾げているが。


「あぁっと、彼女達は……?」

「ちっこい赤毛がコノハで、背が高い銀髪がレンブラントだ」

 適当極まりない紹介に二人は睨みを利かせたが、恭しく礼をするカリスを見て慌てて表情を戻す。

 カリスは困惑した表情を浮かべたまま黙り込んでしまった。彼の中では、親友に対する様々な思いがあった。葛藤があった。

 昔から自由だったアリウスだったが、一度言った事は曲げない彼だった。



 そしてどこかに、彼が変わっていない事に安心している自分がいた。



「………………分かった。だけど、アレ・・だけは君に必要だろ? どうする?」

「アレ……って、アレか! はぁぁ、仕方ねぇ。一旦行かなきゃならないか……」

「え……」

 突然不安気な声を出したコノハ。

「ん? どうした?」

「い、いえ、別に……」

 アリウスは不思議そうに見つめていたが、すぐにカリスと話を再開した。

「でもいつ行くかな」

「馬車なら街の外で待たせてあるよ。今から出れば明日の夜明けには戻れるかな――」


 コノハの心臓は、不自然な動悸をしていた。

 本当に、戻って来てくれるのだろうか。約束を破るような人とは勿論思っていない。信じている。信じて待っていれば、絶対戻ってくる。



 なのに、ドラグニティの感は警笛を鳴らし続けていた。




「よし、そうするか。コノハ、悪いけど明日の夜明けまで……」

「私も行きます」

「……は?」

「私も行きますっ!!」

 語気を強めて言われ、アリウスはのけぞる。表情を見るに、断っても無理に付いてきそうな雰囲気だ。

「……アリウス、やめた方がいい。彼女は……」

「私が行ったら、不都合な事が?」

「あ、いや……でも」

 カリスは困った表情をアリウスに見せる。アリウスは口を真一文字に結んでいたが、やがて諦めた様に口をへの字に変えた。

「仕方ねぇな。一緒に連れて行くか」

「アリウスーー」

「その代わり、俺かカリスから絶対に離れないこと。いいな?」

「…………なんか子供扱いされた気分です」

「なんだ、年寄りは労われってーー痛いっ!」

 足の甲をモップで殴打されて呻く。

「と、年寄りってアリウス、この子は……」

「い、いいえ、何でもありませんよ、アハハ」

 その不自然な作り笑いに底知れぬ何かを感じたが、カリスはあえて言及しなかった。言ってしまったら、まずい気がした。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「それじゃあ、ちょっと行ってくるね」

「ちょっと待った」

 二人の後を追おうとしたコノハを、レンブラントはうなじ(もちろん逆鱗は避けてだが)を掴んで引き留める。コノハの口から「キュウッ」と小動物のような声が漏れる。

「な、何?」

「あんた、本当に行くつもりかい? レオズィールは確か……」

「……知ってるよ」

 そう、知っている。




 レオズィール王国は、他種族に対する差別意識が最も高い国。

 特に、ドラグニティ・・・・・・に対して。

 もしも正体が知れれば――――




 レンブラントはコノハを抱きしめる。今度は顔を胸で圧迫されて「キュキュウッ」という声が出た。だがパタパタ手を宙で泳がせるコノハを、更にまた強く抱く。

「あいつがいるから心配はしてないけど……でもさ…………」

「大丈夫だよレンちゃん」

 そう微笑んだコノハの頭の上から、突然シャディが顔を出した。

「ピピピィ、ピィ、ピィ」

「僕も頑張るから大丈夫……って言ってるよ」

 レンブラントは少々唖然としていたが、すぐに吹き出した。シャディの頭を撫でると、間の抜けたあくびが返ってきた。

「あんたみたいな奴が、コノハの嫁ぎ先になるのかねぇ」

「ピシャァッ!!」

「おっと、何だい、怒ることはないだろ……コノハ、なんで赤くなってるんだい?」

「ヘァッ!? べ、別に!? そ、それじゃあ行ってきます!」

 コノハはシャディを抱きかかえたまま走り出していった。そんな様子のコノハを不思議に思ったものの、レンブラントは笑いながら手を振り、見送った。

「なんか、娘を見送る気分だねぇ……。って、これじゃあ年寄りじゃないかいっ!! まだまだ若いよ私は!」

 一人、虚しい叫びが木霊して街に消えていった。




 走りながら、街の出口へ向かうコノハ。顔はまるでリンゴのように紅潮し、息が荒いのはシャディの言葉を翻訳してしまったためである。

 出口にアリウスとカリスの姿が見えてきた。

 アリウスの顔が…………




 コノハがお嫁さんになるのは、僕じゃなくてアリウスだよ!!




「シャディのバカァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 コノハは抱いていたシャディを、アリウスへ向けて全力投球した。


「ん? アリウス、何か飛んでくるよ……」

「あ? 何言って……」

 カリスが指さした方向を見た時だった。

 ものすごい勢いで飛んで来た何かが、目の前に迫って一言。



「ピィ」



 ガツンッ、という鈍い音が鳴り響き、硬い地面に転倒。アリウスの目の前はブラックアウトした。

「あ、アリウスゥゥゥ!? しっかり、しっかりしろぉぉ!!」

「ヒャァァ!? ごめんなさいアリウス、起きてください、起きてくださいぃぃ!」

 白目を剥いて気絶したアリウスは、結局馬車に乗ってしばらくするまで目覚めることはなかった。



 続く

???「アレとは何だ? いつ発動する?」


というわけで12ページ目でした。

次回はアレが出ますよ、アレ。へ? アレが何かって? やだなぁ、アレですよアレ。

アリウスにとってアレはかなり重要なので、ぜひアレをアレしてアレにしてください。


それでは皆さん、ありがとうございました!



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