表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/184

101ページ目 征伐

 

 漂うゴースト達は呻き声を上げ、森を彷徨い続ける。生きる者達が住む世界から離れられず、転生の為に己の魂を浄化する道へ進む事を拒み続けた者達の末路である。

 そんな薄弱な魂達こそ、魔剣がこの世界に存在し続ける為の燃料には最適なのだ。

 骨が混じった土を踏み、森を進む黒いゼオ・ライジア。彼が通る度に付近のゴースト達が魔剣へ吸い込まれていく。取り込まれた魂は意思を奪われ、二度と転生出来ず、魔剣の力を増すエネルギーとなる。求めている青年の気配は濃くなっている。ここで力を増していけば、次こそ1つになる事が出来るだろう。


 しかし、歩みは止まる。彼の意思ではない。脚に纏わり付いた木の根が、進行を食い止めているのだ。

 引き千切ろうにも、絡んだ根はびくともしない。


「はーい、ここから先へは行かせませんよっと」

 ゼオ・ライジアの前に赤い鎧を着た少女が降り立つ。傍らには眠そうに欠伸を繰り返す少女の姿もある。

「イブ……背中の剣が本体。さっさと壊して……ふわぁ」

「ほいほい、分かってるよん。ネディエとスフィピルは準備大丈夫〜?」

 するとゼオ・ライジアの左右を挟む様に2人が現れる。

「あれが、魔剣……!」

「名すら無い竜がこれほどの力を得るとは。やはりここで仕留める必要があります」

 ネディエとスフィピルが杖剣を取り出すのを見ると、イブも同様に構える。カルファはというと、ゼオ・ライジアの脚を繋いだ木の根を更に増やし、拘束を強くする。


「巫女ドモ……邪魔ヲスルカ!!」

「貴方のような存在を野放しには出来ません」

「何モ知ラナイ部外者ハ失セロ!!!」


 全身から黒い霧を噴き出す。すると脚を繋いでいた根はたちまち腐り果て、ゼオ・ライジアの巨大が再び宙を舞った。

「特別頑丈な根っこにしたのに……」

「こりゃ確かに厄介だねー。魔法を無効化する霧か」

「正確には元素魔法と属性を切り離しているんだ。間違っても吸うなよ。魔力腺がイカれる」

「こうなれば寄生されているゼオ・ライジアごとやらざるを得ません」


 スフィピルは杖剣から多数の風の刃を飛ばす。空間が三日月型に揺らめき、ゼオ・ライジアの甲殻を斬り裂く。

 そこへ畳み掛けるようにネディエの杖剣から放たれた水の鞭と、イブの杖剣から放たれた炎の手斧が降りかかる。

「イブ、ちゃんと連携しろ! 私とお前の魔法じゃ相性が悪いだろう!」

「えー、効いてるんだからいいじゃんよー」

 イブとネディエの口論の最中、ゼオ・ライジアが黒い雷を放った。慌てて魔法の発動を打ち切るが、回避まで間に合わない。

「ちょっ、やば!」

「まずい!」

 そこへ地面から突き出した巨大な樹木が伸び、雷撃を弾き飛ばした。

「サンキュー!」

「喧嘩は後にしてよね……ふわぁ、ん?」

 2人の窮地を救ったのも束の間、ゼオ・ライジアが巨大な脚を振り上げ、カルファを叩き潰そうと迫る。

 小さな身体が引き裂かれる寸前、巻き起こった突風がカルファを浮き上がらせた。ゼオ・ライジアの頭上に舞い上がると、緑色のジュラビオンに乗ったスフィピルが彼女の身体を抱き止める。

「貴女も寝ぼけるのは後にしなさい」

「んん……それは仕方ないよ……」

 身を捩らせてスフィピルの腕から離れると、腰から歯車を3つ投擲。そこへ自らの杖剣を投げ入れた。


 歯車と杖剣を基点に大量の樹木が生長。やがてゼオ・ライジアに迫る巨大なゴーレムへと姿を変えた。


 ゴーレムの肩に着地すると、カルファは攻撃指示を下した。

「ん、しょ……ガガルサヴィス ファンガナデラ(地の炎よ 薙ぎ払え)」

 ゴーレムの眼が輝き、橙色の熱線を発射。ゼオ・ライジアも黒い雷を放つが、それらをかき消しながら熱線は直撃。木々を吹き飛ばしながら地に頭をつける。

「おー、カルファちゃんやるー」

「呑気している場合じゃないぞ、私達も畳み掛ける!」

「そうだったそうだった」

 ネディエは渦潮を作り出し、倒れ伏したゼオ・ライジアを拘束。イブはその間に、周囲の骨が赤熱し崩れる程の火球を形成した。

「こいつをぶつけりゃ魔剣も一撃ってわけさ。食らえっ!」


 火球を撃ち出そうとしたとき、スフィピルはイブへ飛来する何かに気がついた。すぐに竜巻を放つと、それは僅かに軌道をずらしてイブの足元へ突き刺さった。

「うわ、びっくりした!?」

 しかしその所為で火球はあらぬ方向へ発射。薄暗い森を明るく照らすだけに終わった。

 足元に突き刺さったのは槍。そしてその持ち主がイブ達の前に姿を現した。

「うわ、あんたが来るのかー」

「面倒……」

「貴様は……!」

「何をしに来たのです、竜騎士」


「貴様達に魔剣を破壊させるわけにはいかない」

 槍を引き抜き、4人へ穂先を向ける。竜頭の兜の瞳が睨むように輝く。

「へー、あんな怪物でも竜なら守るってわけ?」

「正確には違う。然るべき手段で魔剣を処理する」

「然るべき手段、だと?」

 ネディエの疑問の声は、黒いゼオ・ライジアの咆哮にかき消された。竜騎士は頭上を飛ぶリンドブルムを仰ぎ見る。

「リンドブルム、青年を助けてやれ」

 了承したように小さく頷き、リンドブルムはゼオ・ライジアの元へと向かう。

 それを見たスフィピルは、カルファの方を見やる。

「カルファ、貴女は魔剣を。竜騎士は私達で対処します」

「え〜……ん〜、分かった……」

 カルファとゴーレムは4人の間を跨ぎ、少し離れたゼオ・ライジアの元へと向かった。


「さぁて竜騎士様? 巫女3人相手にどう立ち向かうのかな?」

「……イブ、逆だぞ」

「へ?」

 目を丸くするイブへ、スフィピルがその理由を告げる。

「私達3人で、どうあの男に立ち向かうべきか。それを考えるべきです。それだけの強さなのですよ」

「へー。でも」

 イブが指を鳴らす。たちまち、炎で造られた巨大な戦斧が竜騎士の背後から現れる。

「殺す気でかかればすぐでしょ」

 振り下ろされると同時に凄まじい爆発が巻き起こる。炎に喰われた木や骨の破片が飛び散る。いくら頑丈な鎧といえど一瞬で溶けてしまうほどの威力。

 しかし、

「……ありゃ?」

 炎に包囲される中、竜騎士は一切変わらない立ち姿でそこにいた。槍を払うと、取り囲む炎がすぐに失せる。

「今のが、殺すつもりの一撃か?」

「……まぁまぁじゃん」

 イブ、ネディエ、スフィピルの表情が引き締まる。その眼が竜の様に瞳孔が裂け、輝きを増した。




「何ノ、ツモリダ……」

 竜騎士達の行動に、魔剣は疑念を抱く。だがその思考も、目の前に現れた青年を前にして消える。

「アリウス・ヴィスター……!!」

「望み通り、決着を着けに来た」

 剣を抜き、いつものように力を抜いた自然体の構えへ。その後ろでは、両手で不格好に杖剣を構えたコノハの姿が。

「後ロニ守ルモノヲ、背負ッテ戦ウカ……」

「違います、私も一緒に戦うんです! 守られてばかりな自分はもう卒業です!」

「ガゥゥ!」

 隣では勇ましくシャディも吠え立てる。身体はコノハより大きくなったが、まだ成体のゼオ・ライジアには到底及ばない。しかし彼の目にも、覚悟が宿っていた。

「ソレガ、今ノオマエノ大切ナモノ……ソレサエ奪エバ、オレノモノニ……!!」

「お前のものになんかなるか……っ!?」

 その時、灰色の景色が目の前に広がる。



 目の前に現れた少女。以前はぼんやりと見えていた姿が、今でははっきり見えている。

 アリウスとよく似た色の浅緑の長い髪、そして青い瞳。白い服に身を包んだ彼女は、笑顔でこちらに手を差し伸べる。

「いいよ。おいで……」

 そして今まで聞こえなかった名が、アリウスの耳に届いた。



「ディード……?」

「ディー、ド……!? ガ、グゥゥゥ……!!」

 アリウスが零したその名を聞いた途端、黒いゼオ・ライジアは苦しむ様に唸る。

「ァァァ……ダレダ……!? ディード……トレミー……!? シラナイ、ソンナ名前、シラナイ……グァァァァァァッ!!!」

「アリウス!!」

 咆哮を上げると同時に、黒い雷が周囲にばら撒かれる。

 アリウスは咄嗟に剣を振るう。彼に降り注ごうとしていた雷は両断され、すぐ側の地面を抉った。思わず振ってしまったが、凄まじい斬れ味だった。

 しかし雷のいくつかはコノハへ襲い掛かる。

「コノハ、避け……!」

 駆け出そうとした足が止まった。見ればコノハの杖剣は赤く輝き、周りの骨が渦を巻いている。

「メルザア ジノハユガ レイズ ファルガオズ シルヴィア(聞け かの者よ 大地より授かった盾にて 守りたまえ)」

 土と骨が一箇所に集まり、巨大な傘の様に広がる。黒い雷からコノハとシャディを守った。そしてコノハは更に詠唱を続ける。

「シルヴィア ガナデラ アロウスタ ベナレンディス(盾よ 紅蓮の炎纏いし 弓矢となれ)」

 盾は見る見るうちに弓矢へその姿を変えたかと思うと、燃え盛る矢を射った。黒いゼオ・ライジアは炎に包まれ、苦悶の叫びを上げる。

「お前、いつの間に……」

「やっと使い方に慣れてきました……それよりアリウス、魔剣を!」

「あぁ! ……お?」

 走り出すと、空から巨大な影が現れた。リンドブルムだ。腕輪からは何も伝わってこなかったが、手を伸ばしている。

「分かった、頼む!」

 リンドブルムの指に掴まると、その背に乗った。が、しかし、

「……おっと!?」

 真横を熱線が通過。炎に包まれたゼオ・ライジアを容赦無く撃った。

「あっちにも気を配らなきゃならないか!」

「ん〜? あー、あれかなぁ、呪いかけられた人。間違って一緒に撃っちゃったら、ごめんね〜」

 カルファがそう言うと同時に、ゴーレムは再び熱線を放つ準備を始める。対して起き上がったゼオ・ライジアの角も、黒雷を放ち始めた。

「任せた!」

「キュオオオ!」

 リンドブルムはアリウスをその手で掴み、一気に放り投げた。熱線が放たれるより早く、ゼオ・ライジアの目の前に躍り出る。

「っ!!」

 剣を両手で握り締め、ゼオ・ライジアの角へ振り下ろした。だが僅かに力及ばず、剣は角の半ばまでしか斬る事が出来ない。断面から黒い雷が迸る。

 アリウスは剣を角から引き抜き、飛び降りながら叫んだ。

「リンドブルム!!」


 そこへ、真上から光弾が放たれた。ゼオ・ライジアの頭部へ命中、巨大な角が砕け散る。


 頭を振り乱したゼオ・ライジアへ、3度目の熱線が直撃。巨大な爆発と共に岩へと叩きつけた。

「む〜……頭を狙ったのに……」

 狙いを外されたカルファは、頬を膨らませた。



続く

次回、ドラグニティズ・ファーム、


「求められる覚悟」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ