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98ページ目 魂が還る場所

 

 一行はヴィルガードの港に到着。ここでフォン達とは別れる事となった。

「俺達は次の港に行かなきゃならんからお別れな」

「えー」

「今度は家に遊びに来て。ご馳走用意して待ってるから」

「ん〜……分かった」

 コノハとフォンは別れのハグを交わす。身長差の所為でフォンが抱きしめているように見えるが、実際は逆である。

「フォ、フォンさん、私もまた、お会いしても……?」

「ワフ……」

 しかしハグを求めて近寄るヘリオスに対しては明らかに警戒している。ヘリオスが一歩を踏み出すと、フォンは半歩下がる。しかし悪い人間ではない事は理解している為、

「い、いいよ……」

「ありがとうございます!」

 抱きしめられ、頭を撫でられる。フォンは心地良さと戸惑いが入り混じった複雑な表情を浮かべ、されるがまま。


「カリス」

「…………何?」

「人との距離感って奴を教えとけ」

「いやでも……うん、分かった」



 とはいえ、ヴィルガードの図書館は広い。


 以前の一件でごく一部はまだ復旧作業中だが、それでもほとんどの本棚は直っていた。


 その数は司書達ですら把握しきれていないとすら言われている。

 となれば、呪いについて記されたという曰く付きの本も多数納められている事になる。


 アリウスは図書館の受付にいたエルフの女性に、黒い本を見せる。尖った耳が僅かに震えた気がした。

「これを、何処で?」

「俺の家の地下室からだ」

「ヒューマンである貴方の家から?」

 訝しむような声と視線。それを感じ取ったアリウスは詳細な情報を付け足した。

「正確には、俺が同居させてもらってるドラグニティの家だ」

「成る程。ドラグニティならこんな禁術書の1つや2つ隠していてもおかしくない」

 司書の物言いに少々辟易としたが、質問を始めることにした。

「俺はもちろん読めないし、連れの誰も読めないんだ。ここの司書なら何の本かくらいは分かると思ったんだが」

「内容は読めない」

「…………どういう事だ?」

「どんな本かは知ってる。けど内容は読めない。読んだら呪われるなんてちゃちな代物じゃないの、これ」

 司書はそう言っている間に、アリウスが渡した本を鎖で縛り始めている。

「怨念、悲哀、あらゆる負の感情が積もりに積もって、無理矢理押し込められてる。それも人間じゃなくて竜のものときた。……はいこれ、永久封印指定書物庫に保管して」

 助手であろうエルフの女性に司書は本を渡そうとする。

「待て、勝手にしまうな!」

 司書の手首を掴むアリウス。ここで手掛かりを封印などされてはたまらない。

「放しなさい、こんな危険なものを放って置くわけにはいかない!」

「それは分かってる、けどまだ必要なんだ。用事が終わったら渡す、だからまだ……!」


 その時だった。


 何者かが司書の手から本を取り上げる。アリウスの目に、ピンク色の長髪が横切った。

「お前……!?」

「割と早い再会だったな、アリウス」

 女性と見間違えてしまいそうな顔立ちをした彼は小さく笑い、本をアリウスへ返した。


「ハーヴィン、何でここに?」


「大体お前と同じだ。その本に近いものに用があってな」

 ハーヴィンはやがて司書へ向き直り、小さな許可証を差し出した。

「俺がこの禁術書を借りる。それでいいな?」

「禁術書貸出許可証……!? ドラグニティが何でこれを……」

「館長に貸しがある。信用出来ないなら聞いてみたらいい」

 司書の返答を待たず、ハーヴィンはアリウスを連れてその場を離れる。


「悪いな、助かった」

「お前にはコノハがいるんだ。変な所で問題を起こすな」


 だが次の瞬間、2人の背筋が冷たくなる。


 何者かが、明確な怒りと憎しみの視線を送っている。

 最初はこの本かと思っていたが、すぐに違う事に気がついた。


「待てコノハ、こいつは」

「あれ? …………あ、ハーヴィンだったんだ。良かった〜」


 ほっと胸を撫で下ろすコノハ。しかし腰の杖剣にかけられていた手をアリウスとハーヴィンは見逃さなかった。何をするつもりだったのかは聞かない事にしようと、2人は示し合わせるまでもなく誓う。


「もう! 後ろ姿完全に女の子だからビックリしちゃった!」

「俺の何処が女なんだ」

 などと言うハーヴィンだったが、アリウスは頭からつま先までを改めて確認。

 艶やかで長いピンクの髪、鋭いながらもパッチリと大きい瞳。アリウスより少し低い背丈。

 声を聞かない限り、女性と間違えても仕方がないのではないだろうか。

「おい」

「んっ?」

「何だその顔は。まさか……」

「いやいや、まさか間違えるわけないだろ。心配するな」

 図星を突かれそうになったため適当に宥めておき、この話題を打ち切る。


「で、ハーヴィンは何しにここへ来たんだ?」

「あれからお前に取り憑いていた呪いについて調べていたんだ。しばらくヴィルガードに泊まり込んでこの中の書物を洗いざらい調べていた」

「洗いざらいってな……」

 最上部が見えないほどの壁一面に敷き詰められた書物を見て、アリウスの顔色が悪くなる。一段読むのすら何月掛かるのか、想像し難い。


「で、今のところなんだが、そんな呪いの類は一切記録に残っていない。禁術書の方も一応調査を頼んだんだが、見つかっていない」

「ならやっぱりこの本が唯一の手掛かりだな……」


 しかし読むことすら危険なのならば、これ以上の進展は望めない。アリウスが困り果てていると、ハーヴィンが再び口を開く。

「巫女を頼ったらどうだ?」

「巫女……」

「あぁ、お前は知らないか。創生樹の中でも特に重要な樹を守る巫女、彼女達ならその本の内容を読めるかもしれない」

 実は既に巫女には会っているのだが、話が脱線しそうなので敢えてアリウスとコノハは黙っていた。

「ヴィルガードからは少し遠いが、竜魂の谷っていう場所に1人いるらしい。俺が話をつけてくる」

「いや待った。後から俺達も来ることを伝えておいて欲しい。知りたいのは俺だからな」

「……いいのか。巫女はドラグニティだ、お前を歓迎するとは…………」

「別にもてなされるつもりなんかない。必要な事を聞いて、それから考える。用事はそれだけだから」

「…………分かった、俺から話を通しておく。地図も渡しておこう」

 ハーヴィンは本と地図をアリウスへ渡すと、足早に図書館から去って行った。


「すっかり仲良しになりましたね」

「そうか? それより、カリス達はどうした?」

「それが……」


 コノハが指さした先では、本棚を見上げて目を輝かせるヘリオスの姿が。

「あっ、これはリクシード女王陛下がお書きになられた自伝! 戦争による領地拡大を終わりに導くまで、ご自身の経験を包み隠さず綴ったものではありませんか!」

「あの、お嬢様。目的はそれではなくて……」

「司書の方ですか!? これ、お借りしたいのですが!」

 カリスの言葉など耳に入ってないようで、ヘリオスは本を借りに受付へと行ってしまった。


「あんな感じで……」

「別にあいつには期待してないから構わないが……時間も惜しい。ハーヴィンが行った場所……竜魂の谷に行くか」

 ウキウキしながら次の本を詮索し始めるヘリオスを捕まえると、右肩に担いで無理矢理連行する。

「あぁぁ待ってくださいアリウス! あそこに第9代目女王陛下の本が……!」

「はーい、撤収ー」

 次の目的地が定まった一行は、ハーヴィンから受け取った地図を頼りに向かう事となった。





『そんなわけで、4人仲良くそっちに向かってるってわけさ。歓迎、期待してるよー』

「歓迎なんてしない。そもそも私は参加しない」

『ん〜、相変わらず困ったちゃんだ。どうしよう』

 杖剣の宝玉からイブの声が響く。次にネディエの声が割り込んだ。

『ルルイ、今は一大事だ。貴様の都合で集まりを拒否するなど許されない』

「ここは死した者達の場所。例え貴女達であろうと立ち入る事は許しません」

 一貫して否定するルルイ。今度はネディエからカルファへと変わる。

『そうも言ってられないかな〜。いくら私達と君の竜神様が異なる存在とはいえ、ユーラン・イルミラージュで生きる存在である以上は協力しないと』

「とにかく、私は貴女達とは関わらない」

 断固として拒絶する。そんなルルイの態度を側から聞いていたスフィピルは深く息を吐き、静かに告げた。

『協力し合う意思がないのなら仕方がありません。それでは、ガイブルグ様の仕事のお手伝いに励んで下さい』


 宝玉の輝きが消える。


 ルルイは再びローブのフードを目深に被り、背後に聳える神殿を向く。


 その全てを、あらゆる生命の骨で形作った死の神殿。ここにルルイが身と心を捧げた竜がいる。


「ガイブルグ様……」


 ルルイの呼びかけに応じる様に黒い霧が一箇所に集まり、巨大な竜へと変わる。


 3つの赤い瞳、幽霊のように不定形な霧状の身体、その外形を象る大量の骨。前へ突き出た螺旋状の巨大な角が、息を呑むほどの威圧感を放っている。


「ルルイ、仕事だ」


 ガイブルグ・イルミラージュ。彼はこの世界を創造したユーラン・イルミラージュと対を成す竜である。


 ユーラン・イルミラージュが生命を生む存在であるならば、ガイブルグ・イルミラージュは生命の終わりを司る存在。


 役目を終えた生命は彼の元へと集い、現世の罪を拭いながら彼が造った道を歩み、再びこの世界へ転生する。

 他の四竜とは性質も、力の強大さも別格。故に世界を見守る者としての役割も担っている。


「はい、何なりとお申し付けを」

「もうじきここに客が来る。それも、生者だ」

「その者達の排斥、ですね」

「いや、人間達の集団だけは通せ」

「ガイブルグ様!? お言葉ですがここは死者の場所でございます! 私と竜騎士様以外を通すなど……!!」

 狼狽えるルルイを見たガイブルグは低い笑い声を上げる。


「そいつらは面白い連中だ。俺の力と同じ呪いを受けた奴、ユーランと似た力を持つ奴、戦の血が染み付いた奴……久々に話がしたい人間達が現れたな」

「ですが、ですがガイブルグ様……!」

「ルルイ、いつからお前は俺の言う事が信じられなくなった?」

「いえ……っ、そのような事はございません……。ガイブルグ様の命とあらば……」


 ルルイは深く頭を下げる。ガイブルグは再び笑い、その姿を竜から人へと変える。

 髑髏の仮面を被り、スリットが入ったスカート、生身の手足が見え隠れする衣装に、骨で作られた大量の装飾で身を包んだ女性の姿へ変わる。



「ふん。一番話をしたい奴に合わせた格好にしたが……俺にはヒューマンの美醜感覚はよく分からん。まだドラグニティなら分かりやすいんだが」




続く

次回、ドラグニティズ・ファーム、


「野営も楽しくいきましょう」


楽しく、健康的に、安全に野営、です!

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