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特別編 2人の進展

 

「なぁ母さん、あれから半年くらい経ったが……マグラスとウィスちゃんの様子はどうだ?」

「どうもこうも、いつも通りですよ」

「いつも通り……ちょっとそれはまずいんじゃあないのか?」

 ルングルは小さく溜息を吐く。それに対しフウロは牧場のワイバーン達に着せる衣装を編んでいた。冬も半ば、寒さに強くないワイバーン達の為には必要なのだ。

「何がです? 今朝も仲良く庭を散歩していましたよ。良い事じゃないですか」

「いやな。ウィスちゃんがここにいたいと言ってくれて、母さんの所で修行中で、ちゃんとデートもしてる。それは良い事。けど……」

 ルングルの眼光が鋭く光る。

「半年進展がないのは、まずい!」

「私達もそんなものだったでしょう」

「それは母さんが頑なに拒否してたからじゃん。俺はちゃんと色んな所連れ回して、何度も求婚したじゃん。でも母さんは、また今度〜、とか、考えておきます〜、とかばっかだったじゃん」

「デートの最中他の女性に目が移ってたの、忘れてませんから」

「いやあれは…………でも母さん、それでよく最後に受け入れてくれたな」

「それは……」

 僅かに俯き、フウロの手が止まる。久しぶりに見せた動揺かと、ルングルが嬉々とした顔で返答を待つ。

 上がった顔は、震え上がる程凶悪な笑みが浮かんでいた。

「私がいないと貴方、いつか破滅するかと思いまして。私がいなくちゃ身の回りのこと、何も出来ないでしょ?」

「母さん……」

「ま、どうあれ愛しているのは本当ですよ。あの2人も、貴方が焦んなくたってちゃんと私達のようになれますから」

 照れ隠しの様に後ろを向き、また編み物を始める。

「いや、ウィスちゃんが母さんみたいになるのはちょっと……」

「ん〜? 口縫い合わせます〜?」

「ごめんなさい」




 ほんの少し、雪が残った庭の道を2人は歩いて行く。美しい花を咲かせていた木も、今は眠りの季節。質素な肌を露出しながら目立たぬよう並んでいる。

「……くしゅん!」

「寒いか?」

 返答を待たず、マグラスは上着をウィスへ被せる。こうでもしなければ、大丈夫と言って無理をする。この半年間一緒にいて気づいた点だ。

「あ、うん……ありがとう」

「最近ようやく敬語も抜けたな」

「だってマグラスの方が家系は上だし……」

「ドラグニティのそういうところ、俺は好きじゃないからなぁ……そもそもだ。家系が良いからって凄いわけじゃないぞ? 親父はアレだし、母さんは怖いし、俺は見ての通りだ」

「……」

 ウィスの顔は概ね同意しているような苦笑いを浮かべる。


 ユルドラング家に同棲するようになってから、ウィスは驚きの毎日だった。



 例えば、フウロから料理の指導を受けている時にルングルが乱入してきたり。

「お、頑張ってるねウィスちゃん!」

「将来の息子の嫁にまで手を出す気ですか?」

「いや違うから。素直な労いの言葉すら疑われるの?」

「あ、あはは……」


 例えば、庭から少し先にあったワイバーン牧場の規模に。

「ひ、広い……!」

「私1人じゃ面倒を見るのも苦労で。使用人とゴーレム達にある程度は任せていますが……ゴーレムの錬成経験は?」

「はい、人並みには」

「なら嫁いだ後は少し手伝って欲しいですね〜」

「嫁ぐ……」

「あら、やっぱりあの子じゃダメですかね?」

「い、いえいえ! むしろ私の方が……」

 狼狽えるウィスに、フウロは緩んだ笑みを浮かべる。

「マグラスには勿体無いくらいな良いお嫁さんになります」



「楽しい人達ばかりで、なんだか自分が考えていた事が、実はどうでもいい事だったのかもって、思ってきちゃう」

「どうでもいいまではいかずとも、少し考え過ぎなのかもな。……確かに昔は周りがお前に心無いことを言ったかもしれない。でもそれは、お前をよく知らない奴等が好き勝手に言った言葉だ。あまり深刻に捉えるな」

「でももしかしたら、本当に私は邪魔だったのかも……」

「邪魔じゃない」

 手を握り、真っ直ぐ見据えてマグラスは告げる。

「どっちを信じる? 知らない奴等の言葉と家族の言葉」

 ウィスは少し呆気にとられた後、顔を紅潮させ、視線を逸らした。


「気が早いよ…………家族は…………」

「……あっ。いやでもな、家族ってのはお前の親御さんとか、ほら、あ、と……」


 他に言葉を探していると、ウィスの頭がマグラスの胸に押し当てられる。信じられないくらいに熱い。


「半年前のプロポーズより、100倍かっこよかった……」

「ったく……」

「ねぇ、抱っこしてよマグラス」

「急にどうした?」

「甘えたい。良いでしょ? 家族になるんだからそれくらい」

「……分かったよ。ほら、こっち寄れ」


 ウィスはマグラスの首に手を掛け、マグラスはウィスの身体を抱き上げた。

「かっこいいよ、マグラス」

「なんかこそばゆいな、そう言われると」

「貴方がいれば頑張れるよ、私」

 側から見れば、既に結婚しているようにしか見えない2人。周りの雪達もあまりの熱さに溶けかかっているように見えた。




 そして休憩が終わり、料理指導を受けている時だった。

 スープの味見をしたフウロの眉が片方だけ上がった。

「むむっ?」

「い、如何なさいました!?」

「味が少し変わりましたね……」

 狼狽えるウィスの方を向き、少し頬を膨らませて続ける。

「私の料理と味が似ました」

「すみま……え?」

「これは愛を知った味です。さては休憩中にマグラスと……」

「うぅ……」

 フウロの膨れっ面はニヤケ顔に変わり、もじもじするウィスをからかう。

「でも、これなら合格は近いですね〜。それはそうと、ウィスさん」

「え、はい」

 調理台の下から、数本の瓶を取り出して見せる。フウロはウィスの手に握らせる。

「たまには2人で呑みなさいな。お互い親睦はどんどん深めるべきです」

「ありがとう、ございます」

「あ、酒に呑まれて羽目を外し過ぎないで下さいね」

「あう」



「なるほど、そんな事情が」

 庭を見渡せる2階で、2人は盃を交わす。見慣れた風景だが、こうして2人きりで酒を飲む事はなかったので、何処か新鮮に思えた。

「悪かったな。忙しそうだったから誘うのも少し気が引けてな」

「そんな事……気にしなくたゃって、良いのに……」

「……酔ってないか?」

「じぇーんじぇん?」

 呂律が回っていないウィス。目も宙を見つめており、表情も緩んでいる。

「気をつけろよ。酒に呑まれたら面倒だから」

「分かってましゅよー。まだまだ大丈夫」

 緩みきった笑顔がマグラスに向けられる。とんでもなく強力な一撃を食らった気分だった。更に蕩けた目が下から上目遣いで覗いてくる追撃。

「マグラス〜」

「っ?」

「いつになったらプロポーズ、してくれりゅの?」

「もう少しだけ、待てるか?」

「もう待てにゃいよ〜、結婚しちゃいよ〜! 早く〜!」

 椅子を離れ、マグラスへスキンシップを求めるウィス。それを彼は、牧場で戯れてくるワイバーンを宥めるように対応。頭を撫で、背中を軽く叩き、何度も頷く。

「普段そんな事言わないから気がつかなかったよ。なるべく急ぐから」

「マグラス〜!」


 こうして本心を聞いたなら、モタモタしていられない。それを知るきっかけをくれた母に感謝をしつつ。


 アレの完成を急ぐ事を誓ったマグラスであった。



続く

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