表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/184

97ページ目 巫女の集い

 

「…………さて、堅物ネディエにゃ連絡つけたし、私も向かうとします」

「おオ? 行くノカ?」

「そうですよー。誰かさんがフィオディーネ様達に創生樹の腕輪の事を話さなかった件についても説明しなきゃなりませんし」

 煮え滾るマグマに浸かったイフルヴェントの問いかけに、イヴは意地の悪い返答を返す。ばつが悪そうに頭を爪で掻くイフルヴェント。その度に彼の身体から溶岩が剥がれ落ちていく。

「違ウんだ、やろウと思ッテいたんダガ、そノ、忘れテたんダ」

「今に始まった事じゃないので、今更言い訳なんてしなくてもいいですよ、と」

 普段の露出が多い巫女服を脱ぎ捨て、一糸纏わぬ姿に軽装な鎧を身に付けていく。このウアンスビィ火山から湧き上がる溶岩の様に紅い装甲と、灰色の布で象られた美しい鎧。四竜の巫女が戦いに赴く際に身につける装束である。

「気をツケロ。今回ノドラゴンは何かガ違ウ」

「こっちは戦う気なんてさらさらありませんけど。平和的に解決しますよ、平和的に」


 イヴが口笛を吹くと、赤いワイバーンが飛来する。《ジュラビオン》と呼ばれる種で、この火山地帯に生息している個体は身体が赤くなっている。食性によって体色が異なる変化を遂げている為である。


「じゃ、行ってきまーす」

「いってラッシャーイ」

 空へと飛び去るイヴを、イフルヴェントは巨大な腕を振って見送った。




「良いのか? そろそろ、ここを出ねば時間に間に合わなくなるかもしれぬぞ?」

「ファンガル様、急ぎすぎても事態は解決しませんよ。……〜っ、はぁ〜、ふぅ〜」

 ユーラン・イルミラージュの地下に存在する温泉。その中でも特に大きいものに、たった1人肩まで浸かる少女がいた。


 大地を想起させる赤茶色の長い髪、生命の象徴である色をした美しい黄色の瞳は、眠たげに降りた瞼で半分隠れてしまっている。


 自分の顔より巨大な盃を浮かばせ、乳白色の湯の中で大きく息を吐く。

「お前さんは呑気な娘じゃの。巫女になってから酒と温泉ばかりで飽きんのか?」

「飽きるような温泉と酒じゃないって事です。ん、んくっ、んくっ、ぷふぅぅぅ」

 盃を持ち上げ、中の酒を一息のうちに飲み干してしまった。口から漏れ出る白い息、そして温泉で上気した白い肌に、ほんのり朱色が加わる。

「ずぅっとこうしていたい……集会なんてなければ…………」

「ほっほ、そうも言ってられんじゃろう。また良い酒を用意しておくから、仕事へ行っておいでカルファ」

「む、それを聞いて少しやる気が」

 カルファと呼ばれた少女は立ち上がり、温泉から出る。白い湯気が立ち昇る身体はかなり小柄だが、女性らしく起伏に富んだ体形をしていた。

 上下の下地を身につけ、その上から農黄色の鎧を纏う。腰には多数の歯車と1本の杖剣が提げられている。

 何処からともなく小さなゴーレム達が現れると、カルファの長い髪を次々と纏めていく。


「ん、ありがとう」

「フガー」

「では行ってきます。……ヒック」

「行ってらっしゃい。うむ、少し不安じゃが、あの子なら上手くやるじゃろう」


 ファンガルと多数のゴーレム達に見送られ、カルファは地下から地上へと上がる。

「…………まぶし」

 久々に浴びた太陽の光は、少し刺激が強かった。




 小さな木に実った、大きな果実を一口齧る。程良い甘みと酸味が口の中に広がり、思わず笑みが溢れる。世界の秘境を巡り、人や他の生物が簡単には立ち入れない場所の味を堪能する。それがジルフィウスの趣味だった。

「あ〜、これだけの為に生きてると云っても過言じゃない。最高だな」

「全くですね、ろくに働きもしないでフラつくのは楽しいですよね」

「……あっ、しまった!!」

 突如自分の背後から現れた巫女に咎められ、ジルフィウスは動揺する。

 淡緑色の鎧に身を包んだ壮麗な娘。深い緑色の短い髪に、薄紅色の切れ長な眼、高い背丈。そしてジルフィウスですら気圧される程の圧を持っている。


「あっは、スフィピル、どうしてここが分かった?」

「契りを結んでいるのだから当然です。ジルフィウス様、今回の件についてはご存知ですか?」

「あれだろ、イフルヴェントがなんかまたやったんだろ? それくらい……」

「それとは別に。禍々しい気配を感じておられませんか?」

「……あぁ、あれな」

 スフィピルの言葉に、ジルフィウスは何か知っているように目を伏せた。

「正直な話、あれはお前らが出張る件じゃないと思うんだ」

「どういう事です? 明らかにあれはこの世界における異質な存在。放っておくわけには……」

「違う違う。あれは……うん、説明が難しいけど、とにかくあまり深入りするのは勧めないぜ」

「よく分かりませんが……とにかく他の巫女達も集まって事態の調査、収集をつけたいと思います。報告はまた追って行います」

「そうか……気をつけろよな」

 スフィピルは一礼し、この場所まで乗って来た緑色のジュラビオンに跨って飛び去って行った。


「……行ったって解決するには当人の力じゃなきゃダメだしなぁ。止めるべきだったか。いやでも止めたって聞く奴らじゃないし……」

 ジルフィウスは果実を齧りながら、思い悩むのだった。




 海面から突き出た岩の上で休息を取る鳥達。だが海から来る異様な気配を感じ取り、一斉に飛び立つ。

 寄せては返す波の中から黒いゼオ・ライジアが上陸した。本来であれば陸生のワイバーン。ゼオ・ライジアは極短時間ならば水中での活動が可能だが、ラットライエルからヴィルガード近辺まで辿り着く事は不可能。


 背中に突き刺さった魔剣による生命力の増強によるものである。


 まだ完全に傷が癒えたわけではない。ゼオ・ライジアの身体は限界が近く、竜魂の谷へ辿り着くまでに朽ちてしまう可能性もある。

 幸いここは人間が入る事は出来ない、巨大な岩で出来た天然の洞窟が存在する。そこへ身体を潜り込ませ、本体であるゼオ・ライジアを休ませる。


── 竜魂の谷なら、魂を肉体の様に具現化する事が出来る……必ずお前の肉体を手に入れる、アリウス・ヴィスター…… ──



 本当は眠りたくない。


 嫌な夢を見てしまうから。



 だが一度目を閉じれば、凄惨な過去の走馬灯を否応なしに見せつけられる。


 少女の笑顔と、崩壊する街の記憶を。



続く

次回、ドラグニティズ・ファーム、


「魂が還る場所」


この谷に、生者が立ち入ってはいけない……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ