表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/184

96ページ目 四竜の秘密を教えましょう

 

 昔々、まだ世界が白紙だった頃。



 世界と共に生まれた創生の竜、ユーラン・イルミラージュがおりました。


 美しい白一色の世界、それをユーラン・イルミラージュは虚しいと感じます。もっと沢山の色で溢れて欲しい。そうした願いから、彼女は世界を彩る事に決めました。


 まずは白色の世界を自らの身体で囲い込み、そこから平坦な大地を創り上げました。しかしそれではつまらない。

 ユーラン・イルミラージュは大地を盛り上げ、火山を創りました。そして火山を噴火させ、大地に起伏をもたらしました。


 あとはこの世界で暮らす、生命が必要です。彼女は揺籠となる場所、海を創り上げます。そして生命の旅立ちを助ける為、世界を空気と風で満たしました。

 しかし、生命はいつまで経っても生まれません。広い世界の中、ユーラン・イルミラージュは寂しくなりました。


 するとどうでしょう。彼女から零れ落ちた涙が大地に落ちると、小さな小さな草花が芽を出したではありませんか。瞬く間に乾いた大地に緑が並び、世界は青く潤っていきました。

 驚く彼女を尻目に、海に沢山の魚達が現れ始めました。空を飛ぶ鳥達、野を駆ける獣達。そしてその大地を踏みしめる、ユーラン・イルミラージュによく似た生き物。



 竜。



 彼女は安心しました。


 自分が形作った世界は、これからは自ら彩りを加えていくのでしょう。

 そしてユーラン・イルミラージュは疲れから、少しうたた寝をしてしまいます。


 数百年の眠りの後、ユーラン・イルミラージュは1人の少女の声で目覚めました。



「貴女が、ユーラン・イルミラージュ様であられますか?」



 少女はユーラン・イルミラージュが見た事のない生命でした。竜にしては鱗もなく、獣にしては2本の足でしっかり大地に立っています。

「私はレムリア。貴女様が創造された世界に生まれ落ちた、ヒューマンという種でございます」

『ヒューマン……そうですか、私が眠りについていた間に、そんな種が生を受けていたのですね』


「今はヒューマン以外にも、エルフ、ビースディア、ドラグニティ……私と祖を同じとする者達が大勢、この世界に根付いております。……しかし、今この世界は荒れている。大地は疲弊し、海は澱み、火山は怒り狂うように噴火を続け、風は暴風となって世界を荒らしておられます」


 それを聞いたユーラン・イルミラージュは気がつきました。自分は世界を創ったまま、その管理を放り出して眠りについた事を。

『私は、世界を維持する責任を忘れていました。愚かしい事をしてしまった』

「それは違うのです、創生龍様。世界は美しいまま維持出来ていた。しかし、私達人間がそれを崩してしまったのです」


 ユーラン・イルミラージュは事情を聞きました。全てを聞き終えた彼女は、レムリアへ1つの袋を渡しました。

「これは……?」

『私の力を宿した種です。これを世界の柱となる場所へ埋めてもらえませんか? そうすればまた、世界は再び安定します』

「間に合うのですか?」

『私がその間、世界を維持します。しかし貴女には辛い試練を与えてしまう事になります』

「……いえ。これは私達が行うべき償い。必ず成し遂げましょう。貴女様が安心して、眠れるよう」


 こうしてレムリアという少女は旅立ち、世界を巡り、見事全ての種を植える事が出来ました。

 種から生えた樹は、世界に再び活力をもたらし、生命はまた繁栄する力を取り戻しました。

 ユーラン・イルミラージュは世界の再生を見届けると、また永い永い眠りについたのでした。そしてレムリアは創生樹を管理する為の4匹の竜を選び、ユーラン・イルミラージュに変わって創生樹を託し、また旅を続けたのでした。





「序章、めでたしめでたし。そして、ユーラン・イルミラージュ様から選ばれた竜のこそ、火の竜イフルヴェント、風の竜ジルフィウス、地の竜ファンガル、そして妾フィオディーネというわけじゃ」

 長い昔話が終わる。

 カリスは少し驚いた様子で、コノハはうとうととするフォンの頭を撫でつつも真剣に、ヘリオスは身を乗り出して興味津々に話を聞いていた。


 そしてアリウスはというと、釣りを始めていた。


「って、この馬鹿者ぉぉぉ!! 何しとるんじゃアリウス!!」

「話長いから釣りでもしながら聞こうと」

「貴様が真剣に聞かんでどうする!? イフルヴェントの事を知らぬと聞いたから話してやったものを!!」

「イフルヴェントが誰なのかを聞いたのであって、お前達が生まれた時の話を聞いたわけじゃねぇ。ってか最後、ユーラン・イルミラージュじゃなくてレムリア姫に選ばれたんだろ、話を誇張するな」

「話の順序というものがある! これから妾達の役目を──」

「おっ、来た」

「話を聞かぬかっ!!」

 すっかり釣りに夢中なアリウスを怒鳴り散らすフィオディーネ。そんな彼女を見た事がなかったのか、ネディエは口を開けたまま呆然としていた。

「ぐぬぬ……妾を竜の神と知っての愚行か……!」

「なんか、すみません」

「いやいや、コノハさんが謝る所じゃないですって」

 小さく謝るコノハを止めるカリス。だがここで、フィオディーネに詰め寄る影が。


「話の続き、是非聞かせて下さい!」

「おぉ?」

 フィオディーネの手を取るヘリオス。顔を間近に近づけ、目を輝かせる。

「じゃ、じゃが貴様が聞いたとて……」

「私、レムリア姫の伝説を小さい時からずっと聞いて育ちました。貴女はレムリア姫に会われた事があるのですよね!?」

「ま、まぁの……知ってはいるが……」

「是非、是非! お聞かせ願います! もちろん、貴女方四竜についても!!」

「そ、そうかのう!? そ、そこまで言うなら、仕方ない娘じゃなぁ……!!」

 満更でもない笑みを浮かべるフィオディーネは、ヘリオスと共に話を始めた。


「コノハさん、竜ってだいぶ愉快なんですね」

「そう、ですね」

 笑い合うカリスとコノハ。しかしそこへネディエが割って入る。

「愉快とはなんだ! フィオディーネ様は気高き竜、本来なら人間などと話す事すら……」

「でも、あれ……」

 コノハが指差す先、仲睦まじく話し合う2人を見ると、ネディエは口を閉ざした。

「あ、あれはだな……!」

「はい、分かってますから」

「〜!!」

 優しく微笑まれ、ネディエは顔を赤くして俯いてしまった。

 と、フォンから微かな寝息が聞こえ始めた。起こさないように身体をどけると、代わりにシャディがフォンの頭を支え、枕を務めることを買って出た。

 そんな彼に感謝しつつ、すっかり釣りに夢中なアリウスの顔を覗き込む。


「釣れてますか?」

「割とな。でも冬も終わりが近いし、そろそろハシリウオ達の季節が来るかもしれない」

「うっ、ハシリウオ……」

「まだ慣れてないか?」

「一生慣れませんよ、だって気持ち悪いですし……」

「ん? おっ、また釣れた」

「何が釣れました、って、ひぃっ!?」

 コノハの目の前にぶら下がったのは、ハシリウオによく似た4本足の魚。飛び出した目玉がギロリとコノハを睨んでいた。

 思わずアリウスにしがみつく。今度はそれに対しアリウスが戸惑う。

「待て待て! みんながいる前だぞ!?」

「いきなり目の前にぶら下げるからじゃないですかぁ!!」

 急いでアリウスは後ろを振り返る。しかしカリス達は海の景色を眺めており、フォンは爆睡中。幸い目撃されてはいないみたいだった。

「まったく、見えないところでなら構わないが……」

「むぅ。元はと言えばアリウスの所為……」

「ほれほれ」

「きゃあっ!? もうっ! やめて下さいよ、やっ、ちょっと、いやっ、こらっ!?」

 釣り上げた魚をぶらつかせる度に騒ぐコノハ。それが可愛いと同時にアリウスの加虐心をくすぐる。


 この魚の名前はハネトビウオ。地上をスキップするように移動する、ハシリウオの近縁種である。味も食感もハシリウオに負けず劣らず良く、刺身が絶品。見た目が気持ち悪い事だけが欠点。


「さて、そこそこ釣れたし満足だな」

「はぁ、はぁ、まったくもう……!」

 そばに置いてあった魚籃の中に放り込まれるハネトビウオ。既に魚籃はハシリウオとハネトビウオが詰まっており、コノハは震え上がった。


 そんな2人を影ながら見学し、下らないやり取りに溜息を吐くネディエ。ここで彼女の腰に下げた、もう1本の剣の柄が輝きを増した。

 普段戦いには用いないようにしている杖剣。その柄に嵌められた藍色の宝玉から発せられる光。


《ネディエ、今何処?》

「イヴ? 何の用だ、というか、お前のところのイフルヴェント様の所為で私達は──」

《なんかね、やばい気配がしてるの気づいてる?》

「当たり前だ。その気配の正体が創生樹の腕輪を奪ったんだと思っていたら、とんだ勘違いだった」

《それ、今凄い勢いで竜魂の谷に向かってるんだ。控えめに言ってかなりやばい》

「何だとっ!?」

《ってなわけで、久々に巫女同士集合! 他の巫女には伝えておいたから、よろしく!》


 一方的に脳内に響く会話を切られる。

「何やら、緊急事態のようじゃな」

「フィオディーネ様」

「何、妾が送ってやろう。……というわけじゃ、皆の者、達者でな」

「えー、お別れー?」

 いつのまにか目覚めていたフォンが寂しげに呟く。フィオディーネは笑いながら彼女の頭を撫でてやり、やがて足元から水が湧き出始める。

 去ろうとするフィオディーネに、先程まで話を聞いていたヘリオスが急いで駆け寄った。

「フィオディーネさん……いえ、フィオディーネ様。またいつか貴女のお話、お聞かせ願いませんか?」

「ふむ、よかろう。貴様は勤勉な娘だしの。何処かの馬鹿たれと違って、な」

 ニタニタと笑いながらアリウスを一瞥すると、フィオディーネは水流を纏って海へと飛び込んだ。

 ネディエも後を追うように海へと向かう。と、その前に皆の方へ向き直り、深々と頭を下げた。どうやら彼女なりに責任を感じていたらしい。

 が、アリウスに対してだけは礼をせず、そっぽを向いて船を去って行ってしまった。


「彼奴……」

「仕方ないでしょ、裸見たみたいなものだし」

「カリスさん?」

「あ、すみません。忘れます……」



 そんな小さな、だが確かに忘れられない出会いと別れを経て、遂にヴィルガードの港に到着したのだった。



 続く

次回、ドラグニティズ・ファーム、


「巫女の集い」


一大事だ、集まるぞ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ