93ページ目 予期せぬ再会
激しく体をぶつけ合い、ブレスの応酬が繰り広げられる港。その真っ只中へと身を投じるアリウス。
飛散する瓦礫、振るわれる体の一部を避けながら、黒いゼオ・ライジアへ近づいていく。
揉み合う2匹の間に潜り込むと、ゼオ・ライジアの頭が地面に伏したタイミングで飛び乗った。
「このデカさじゃ剣1本でどうにか出来るわけない、目か逆鱗を狙うしか!」
通常、ワイバーンは逆鱗が退化して小さく、もしくは完全に失っている種が多い。しかしワイバーンの中にはドラゴンと同じように、逆鱗が残っている場合もあるのだ。
だが激しく振り回される頭、加えてゼオ・ライジアが持つ角は帯電しており、逆鱗がある首はおろかすぐ足元にある眼さえ狙うのは難しい。
そそり立つ角から雷が放たれれば、アリウスの身体は一瞬のうちに灰へと姿を変えてしまう。
アリウスが意を決し、目を刺し貫こうとした時だった。
海上から聞こえた轟音。火薬が炸裂した音に似ていたが、短銃程度の音ではない。
轟音から間も無く、巨大な爆発。黒い飛竜の身体は大きく揺れ、体勢を崩す。さらにそこへ続け様に爆発が襲い掛かり、巨大な体躯は港の貨物置き場へと衝突した。
投げ出されたアリウスは街灯に掴まり、落下を免れる。そこでようやく、ゼオ・ライジアを攻撃したものの正体を知った。
「船か……? 随分無茶苦茶な…………ん!? 待て、あの船、まさか……!?」
「アーリーウースー!! コーノーハー!!」
海上から続くのは舌ったらずな声。遠くからでも分かる大きな尻尾が見えた。
「フォン!? 何でここに……って今はそんな場合じゃねぇ!! 離れろ!!」
「フォン達に任せろー!!」
見ればフォン達が乗る船からは大砲が伸びている。船員達も必死に弾を込め、砲撃を加えている様子が見える。
── グァオゥゥゥ…………!! ──
しかしゼオ・ライジアも唸りを上げ、船めがけて雷を放つ。
「やっべ! 総員、船倉に避難……てフォン、そりゃ大切な貨物だろ!? 何持ち上げて──」
「おりゃぁぁぁぁぁぁっ!!!」
ヴィンレイが止める間もなく、フォンは自分よりも巨大な木箱を持ち上げ、空へ放り投げる。すると雷の一部が直撃、中から大量の金属製の食器がばら撒かれた。
すると雷の大半は食器へと吸い寄せられ、船への損傷は少なく済んだ。
「ま、まぁ仕方ねぇよなぁ……フォン、よくやった……」
「にひっ!」
誇らしげな笑みを浮かべるフォンに対し、ヴィンレイは何処か悲しげだった。
「フォン……」
物陰から様子を伺っていたコノハも笑顔になる。まだ息は上がっているが、大分体力は回復してきている。
「私も行かなきゃ……」
「フンゴ!!」
「ガァウッ!」
「ひぇっ!? 何っ!?」
背後からかけられた声に飛び上がりそうになりながらコノハは振り向く。
そこにはシャディと、その背に跨るゴーレム。頭に角があることから、アリウスが隊長と呼んでいる個体だと分かった。
「な、何で貴方達こんな所に!?」
「グァウ(なんか嫌な予感がしてさ)」
「フゴァッ!(来てみれば、我が主人達を襲う不届きな竜の姿が。ここは私にお任せを!)」
「ちょちょ、待って!」
コノハが止める間もなく、隊長ゴーレムはシャディの背から飛び降り、港へ駆け出していく。
黒いゼオ・ライジアは再び雷を角へ集約させ、フォン達が乗る船へ放とうとしている。隊長ゴーレムは背からスコップ ── 通常の物の半分程度の大きさ ── を取り出し、短い足を懸命に動かす。
「フゴォフゴッ!!(やらせはしないぞ! 喰らえっ!!)」
しかしその時、隊長ゴーレムの横に何かが着地した。
それはゼオ・ライジアに当たり損ねた砲弾。黒い煙が上がり、爆発寸前。
「…………」
一瞬足を止めてしまったことが運の尽き。
「フォッ!?」
爆発した衝撃で小さな体は勢いよく吹き飛ばされる。そのまま弾丸のような勢いで打ち出された隊長ゴーレムは、雷を発射しようとするゼオ・ライジアの眼へと直撃した。
── ウガァァァァァァァッッッ!!!? ──
雷撃は見当違いの方向へ放たれ、大きくよろめく。
そこへ船からの砲撃が数発直撃。続けて竜騎士が駆るリンドブルムが放つ光のブレスが頭部に命中した。
ゼオ・ライジアの体は完全に海中へ没し、二度と浮上してくることはなかった。
竜騎士はそれを確認すると、飛び去ろうとする。
「待て竜騎士!! 一体何が起きてる!?」
「自分の呪いに決着をつけろ、青年」
「何だと……?」
「今なら向き合える筈だ」
ただそれだけを言うと、今度こそ竜騎士はリンドブルムの背に乗って去っていった。
「何が何だか…………っ!?」
次の瞬間、アリウスの視界が灰色になる。
── コロセッ! アシキリュウハコロセッ!! ──
── アノムスメハリュウヲシエキスルマジョ! コロセッ!! ──
── コロセッ! コロセッ!! コロセッ!!! ──
白昼夢のように繰り広げられる惨劇。矢が降り注ぎ、砲弾が木を薙ぎ倒し、放たれた炎が野を焼く。
浴びせられる罵声は、とても人のものとは思えないほど醜く、歪な言葉。
「まただ……今度は幻覚まで……どうしちまったんだ一体……」
未だぼやける視界に、止まない耳鳴り。そのせいでアリウスは自分の所へ飛来する影に気づかなかった。
「フゴォォォッ!!」
「はっ? ぐはっ!?」
アリウスの顔面に隊長ゴーレムが衝突。街灯から手が離れ、2人揃って貨物置き場へと落下する。
「ア、アリウスー!」
コノハは急ぎ木箱をどかそうとするが、とてもコノハの力では動かせない。
「う、重い……!」
「任せて!」
すると、いつのまにか隣に現れたフォンが木箱をひょいひょいと持ち上げ、投げ捨てていく。やがて、
「ほい、アリウス発見! ワッフ!」
まるで釣り上げた魚を見せびらかすようにアリウスを持ち上げる。既に気絶しているようで、力無くぶら下げられている。
「大きな怪我はなさそう、ですね。良かった……」
「ん〜? あ、ゴーレムさんも発見!」
「フガァ……」
フォンは更に瓦礫から隊長ゴーレムを発掘。こちらは流石に頑丈で、地面に下ろすと少しふらつきながらも動き出す。
「皆さんご無事ですか!?」
背後からの声に、フォンの耳がピンと立つ。
「リオさん、貴女も無事で……」
「ウゥゥ……!!」
フォンは駆け寄ろうとしたリオに唸り、アリウスを背に隠した。眉間に寄せられた皺から怒っていること以外に理解が追いつかず、リオは首を傾げる。
「あ、あの……?」
「えっと、この子はフォン、ビースディアで……」
「ビースディア!?」
「ウゥゥ……ウ?」
コノハの言葉を聞いた途端、リオの目の色が変わった。目にも留まらぬ速さでフォンに駆け寄り、まじまじと見つめる。
「あの、あの、よろしければ、撫でて、みたり……お、お願いします……」
「ワ、フ? えっと、うん……」
「は、はぁ〜!! 本物だぁ〜!!」
了承を得た途端、リオの手はフォンの首と頭を撫で回し始める。
「毛並みが良い……きちんと手入れをされてるんですね……モッフモフ……」
「クゥ〜、気持ちいい〜」
「あ、あの、尻尾なんかは……?」
「い〜よ〜」
「やった!」
今度は尻尾に顔をうずめ始める。フォンもすっかり心を許したようで、力が抜けきった表情となっている。
(前より柔らかくなったとはいえ、フォンとすぐ打ち解けちゃうなんて……この人、実はすごい人なんじゃ……)
「あーお嬢様!!」
戯れる2人の中に割って入ったのはカリスだった。
「失礼でしょう、初対面の方にそんな激しいスキンシップは!」
「カ、カリス、しかしきちんと本人の許可は頂きました!」
「許可を得た!? い、いやしかしです! 貴女はいずれ──」
「あの、カリスさん」
狼狽えるカリスに、コノハは小さな声で尋ねる。
「レンちゃん達は……?」
「あ、あぁ、彼女達に怪我はありませんでした。ただ馬が少し怪我をした様で、介抱しています」
「なら少ししたら私も行きます。それで、もう一つ……」
コノハの視線は、リオの方へと向く。
「リオさんって、ただのご令嬢じゃないですよね?」
「へっ!? な、何をおっしゃっているんですかコノハさん?」
「いくら身分が高い貴族の方でも、護衛はその家に属する方々が行うと聞いたことがあります。国の騎士団にいるカリスさんが、しかもお一人でだなんて。余程のことがなければ……」
「う、う〜ん、それは…………と、特例で……」
「もうちゃんと説明した方がいいんじゃないか、カリス」
言い淀むカリスに、いつのまにか気絶から覚めたアリウスが進言する。
「けど……」
「コノハ達だけになら大丈夫だろ、きっと。口外する様な奴等じゃないし、俺がさせない」
考え込むカリス。アリウス達への信頼と、真面目な性格がぶつかり合い、合戦を繰り広げているのだろう。
脇目にリオの方を見つめる。再びフォンの尻尾に抱きつき、うっとりとした表情を浮かべている彼女。
カリスは大きく息を吐くと、小さな声で話し始める。
「…………リオお嬢様は、いえ、本当の名は本人に告げてもらいましょう。……いいですね?」
「……はっ、あ、はい。分かりました。…………っ、よし!」
周りに人がいない事を確認し、改めてコノハとフォンへ向き直った。
「リオという名は仮の名。私の本当の名は、ヘリオス・ミム・レオズィール。次期レオズィール王国王女……に、なる為の修行中、です」
柔和な笑みを浮かべるリオ ── ヘリオスに対し、アリウスとカリスは大きな溜息を吐き出した。
「おー! お姫様っ!」
「はぇぇ…………ま、まさか姫様だったなんて…………!!」
目を輝かせるフォンと、目を見開いて驚くコノハ。
新たな騒動の香りが漂い始めている。
続く
次回、ドラグニティズ・ファーム、
「呪いを追って」
目指す場所は……えっと……?
進路は、北ー!!




