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話しのオチで意味が変わる怪談 前

作者: 会津遊一

 

 私は、いつも浮かれたように話す『彼』の事が死ぬほど嫌いだった。


「一つ、面白い怪談話をしないか」

 夕暮れの教室。『彼』は私に話し掛けてきた。自信に溢れている顔のまま此方の返事を待っている様子だった。私が反応しないなんて全く疑ってすらいない顔だ。「……へぇ、どんな?」

「今まで聞いた事もない怪談さ」

「……」

「聞いてる?」

「聞いてるわよ。だって目の前に居るでしょう」

「だったら返事ぐらいしろよ」

「ふふ。ごめんなさい」


「ったく。いいか、それは深夜0時、電車に揺られつつ携帯を触っていたOLの話しだぞ」


「……」

「仮に名前はスミコにしよう。スミコの他に乗客はいない。たった一人で電車に乗っていた。何気なく、ふと振り返っても誰も居ない。ただ、ガタンゴトンと電車が動いている車輪の音だけが響いている。いつもの事だし、恐くはないさ。幾枚もの窓の外に黒い景色が永遠と流れていく。脇を田んぼが多いからか光が無く、空も雲かが覆っているので見渡せもしない。ただ、黒い世界が電車の外には広がっていたのさ」

「……」

「ただ、ふとした瞬間、スミコが車窓の外に目をやった時に……」

「―――なんで?」

「え」

「いや、だから、何で電車の外は真っ暗だと分かっているのに、わざわざ外なんて見るの?」

「それは何となく」

「何となくは通じないでしょう。暇だったら何となく外を見るのは分かるよ。夜景を眺めてしまう時もある。でも、その日は夜空が曇ってて、携帯という暇つぶしの道具だって持っているんだから外なんて見ないでしょ。意味ないでしょう」

「か、怪談なんだから霊的なものを感じたとかでいいだろ」

「霊的なもので全てオッケーになるんだったら、怪談なんて恐くも何ともないよ。物事には根拠がなきゃダメでしょう」

「話しに一々根拠が必用になるんだったら、怪談なんてできないだろ。何となくで良いんだよ、何となくで。怪談ってのは、雰囲気で恐がらせる為にするもんだろ」


「誰を?」


「え……」

「誰を恐がらせたいの?」

 そこで言葉に詰まり、『彼』は初めて困ったような顔を見せていた。その表情を眺めていても良いのだが、いい加減、私は話しを進めさせてあげる事にした。「まあ、いいよ。それで?」

「それでスミコはイヤな予感がしたから電車の中から外を見たんだ」

「……へー」

「ガタンゴトン、電車の大きな体が揺れつつスミコは窓の外を眺め続けた。ガタンゴトン、音だけが耳に響く。他に乗客はいない。ガタン、ボト、ゴトン。手からするりと抜け落ち、スミコは携帯を手放してしまったのだが、それでも下を向く事はなかった」

「……」

「スミコの前には、駅のホームにぼんやりと浮かぶ人魂が見えていたからだった。しかも、一つではない。幾つも連なるように並んでいるではないか。そう、まるで夜の墓場に置いていかれている線香のようにか弱い光が宙を舞っていたのだ」

「……」

「スミコは見ているとヤバいものだと直感的に理解したが、それでも目を離す事はできなかった。なぜなら……」


「ねえ」


「なんだよ。一々話の腰をおるんじゃねーよ! どうして最後まで黙ったまま話しを聞く事が出来ないんだ」

「ねえ、その電車ってさ、急行?」

「しかも、どーでもいい所が気になってるな、お前」

「急行なの?」

「……はぁ。しつけーな。駅を通過してるんだから急行だろ。人魂の方には反応しないのかよ」

「だったら、その怪談のオチ私は分かっちゃったかも」

「え」

 『彼』は素っ頓狂な声を上げると目玉を大きく丸くさせていた。

「だってさ、駅のホームに同じぐらいの高さで、火の玉が横一列に並んでるのって変じゃない? 人魂って整列するのが好きな人種って訳でもないでしょ。あっちこっちに飛んでるなら分かるけど、規則正しい霊的なものなんてないでしょ」

「……」

「ホームに規則正しく並んでいる人種はただ一つ、サラリーマンでしょ。つまり、夜遅くに携帯電話片手に画面の光が漏れていた、しかも、急行に乗っていのでスミコからは人魂が並んでいるように見えたって所じゃないの、話しのオチは」

「……」

「ありがちなオチだよね」

 私がそういうと『彼』は顔をサッと赤らめ、薄暗い教室から急に飛び出して行ってしまった。私に話し始める前は自信満々だったのに、今はその面影もなく、恥ずかしさを耐えるように唇を噛みしめていたのだった。


 一人になった私は笑う。

「だから嫌いなのよ。あんなに楽しそうに話しかけてくれたのに。こんなひねた事しか言えないんだから。どうして、こうなのかしら。どうして私って浮かれちゃうのかしら。ほんと、彼と同じ男性のくせに情けないわ、こいつ。だから、こんなヤツは嫌いなのよ」

 怒りのあまり『彼』の肩に私は爪を思わず立てていた。


 私は、いつも浮かれたように話す『彼』の事が死ぬほど嫌いだった。



後半もあります。よろしければ

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