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シネマね!~剣とナゴヤがB級ホラー~  作者: 山田中ミキヤ
前章 剣とナゴヤがB級ホラー
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1章 名駅ホームでまもなく列車が♪だだんだんだだん! 3

 白い壁で覆われた無機質な室内に、コッチコッチと無情に時間を刻む時計。

 腰が冷えそうなパイプ椅子に硬いデスク。その上にはライト。

 背にはブラインドカーテン、正面には小さな扉……次にあそこを潜れるのは果たしていつになるのだろうか?




「オイ、どこ見てるんだ?」




 凄みを効かせた声に注目すると、対面している厳ついおっさんが目に入る。

 警察署内の取調室だ。

 もう一時間ほどこのおっさんとにらめっこをしていた。


「いいかげん、ちゃんと話をしてくれよ。

 あのショットガンはどこで手に入れたんだ?

 バイクに乗ってた奴との関係は?

 そもそも君たちは何をしようとしてたんだ?」


「だーかーらー……」

 大樹はがっくしと頭を垂れて、

 デスクの冷気を感じながら答えた。

「いきなり名駅で襲われたんですって。

 女の子に銃を向けられて、腰を抜かしたところで葵に助けてもらったんです。

 逃げるのに必死で、後は何も知りません」


 アンドロイドって言っても信じねぇだろうしなぁ……。

「じゃあショットガンは

 どう説明するんだ?」

「それは──、」

 ──葵がどこかから調達してきました。

「……成り行きで、拾ったんですよ。

 あの女の子のモノだったんじゃ

 ないんですか?」

「ハァー……」

 深い、ふか~いため息。

 とても信じてくれているとは思えない。

 まあ正直、ごまかしている部分も多いのだから仕方がない。

 変な話するなと葵にも言い含めてある。

 頭がおかしい人と認定されたらそれこそ厄介だからだ。


「で、君は本来、上京の途中だったと?」

「そーですよ」

「あの荷物でぇ?」

「荷物の中身は勝手でしょうが」

「まあ、確かに。

 変なものも入ってなかったしな」


 ……あー、荷物で思い出ちゃった。

 その中にはういろうが入ってるんだよな。


 ういろう食べたい。


 もう一時間も口にしてない。


 ういろう食べたい。


 思い出すともうだめだ。


 ういろう超食べたい。

「……警察署って

 ういろう置いてないんですか?」

「ないよ。あるわけないだろ」

「カツどんはあるのに?」

「カツどんもないよ。

 あれはフィクション」

「カツどんはどうでもいいんです。

 ういろうはないんですか?」

「ちょっと君、なに言ってるのかよくわからないぞ」

「ういろー……ろー」

「この子尿検査したほうが

 いいんじゃないですか?」


 調書をとっている警官となにやら相談をはじめたが、大樹の耳には入らなかった。

 そんなことよりういろうください。

 コンコンっと扉がノックされる。

 入ってきた人物とおっさんが二、三会話をし、入れ替わった。

 大樹はぼーっとする頭で、

「嗚呼、この人がういろうを持ってきてくれたんだ。ふふふ、やさしいなぁー」

 などと勝手な妄想を繰り広げていた。




「じゃあここからは僕が話を聞くよ」

 そういわれて、やっと大樹の焦点が定まる。

 うぉあーいかんいかん、若干あっちの世界に行ってた。

 ういろうが枯渇するとすぐこれだ……。


 あ。おっさんがお兄さんに代わってる。

 いつのまに──ん?


「分かる限りでいいから、なんでもはなしてね」

 この人どっかで──大樹はその顔に見覚えがあった。


 そうだ。

 雰囲気がだいぶ違うが、新幹線のホームにいたお兄ちゃんにそっくりなのだ。

「あの──さっき、名駅のホームにいませんでした?」

「……いや?

 今日は名駅に行ってないよ」

「あ……そうですよね」


 人違いか。

 まああの短い時間に他人の顔なんて覚えられるはずないしな。


 ……そういえば、あのお兄ちゃんはなんであのとき移動を始めたんだろう。

 そっくりな人物を目の当たりにして、さして気にも留めなかった疑問がふつふつと沸いてきた。大樹と同じくらいの時間、新幹線を待っていたのにもかかわらず、突然ホームを降りるなんてことがあるのだろうか?


 普通の電車ならともかく、新幹線は別格だろう。

 なにか急用が発生したとしても、彼の態度……鼻歌交じりのようすからそうは感じられなかった。


 妥当なところで

『寒いからやっぱり下で待とう』

 と判断した、か……?

 しかし、その直後にアンドロイド少女が現れたのである。

 タイミングが良すぎる気がするが──、

「どうかしたのかい?」

 思考に耽る大樹を不審に思ったのか、

 お兄さんが顔を覗き込んできた。

「あ、いいえ。なんでもないです」

 そう取り繕うと、

「そう?

 思い出したことがあったら、なんでもいってね」

 と優しく声をかけてきてくれた。


 さっきの高圧的なおっさんとは打って変わって、好感の持てる男性だった。

 ま、そういう取り調べの手法かもしれないけど。

「それにしてもこの事件、まるで映画みたいだよね」

 お兄さんがそう切り出した。

 激しく同意だ。

「ショットガンで銃撃戦の後にバイクとカーチェイスですからね」

 っと、大樹は何度も頷いた。

「ロボット相手に撃ち合いになったんだって?

 大変だったねぇ。

 ……えーっと、あれ?

 未来から来たアンドロイドに襲われる映画ってあったよね?」

「〝ターミネーター〟ですね」

「あー、そうそう!

 それにそっくりだ。

 ……映画好きなの?」

「人がびっくりするぐらいに」

「ははは。そりゃすごい。

 じゃあ、その映画ではこのあとどんな展開になるのか教えてくれるかな?」

「一回目のチェイスの後、サラとカイルが警察に捕まったあとだから……」


 大好きな映画の話を振られて

 嬉しくなり、大樹の舌は円滑になった。

 おもわず興奮して語りだしてしまう。


「警察署をターミネーターが襲撃するんですよ。

 あの有名な〝アイルビーバック〟って台詞の後、車で突っ込んで来て。

 テロリストだーっ! って警察が応戦してもまったく歯が立たずに……」




 ……あれ?

「ちょっとまって!

 私、アンドロイドの話はしてないわ!!」

 大樹は遅れて気付いた。

 おかしいぞ。

 まったく違和感なく話を振られて気が付かなかった。

「なんでその話を……」

 そのとき、突然取調室を衝撃が襲った。

 警察署内に轟音が響きわたる。

 悲鳴と、ガラスの砕ける音と、タイヤの甲高い鳴き声。




〝警察署に車が突っ込んできたのだ〟




 部屋の外が騒がしくなる中、彼は相変わらず微笑んでいた。

 親切そうな笑みが、一気に不気味なものに感じられた。


「……こうなることがわかってて映画の話をさせたのね」

 大樹の質問に、彼はふふんと笑うだけだ。

「オイ、誰かいるか!?」

 扉がおもむろに開かれ、刑事と思しき中年男性が顔をのぞかせる。


「テロリストだ、手が足りない!

 手伝ってくれ!」

「了解です!」

 急に警察官の顔に戻り、彼は立ちあがって退室していく。

 ……が、去り際に肩をすくめて意味深な笑みを大樹に向けていった。



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