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シネマね!~剣とナゴヤがB級ホラー~  作者: 山田中ミキヤ
前章 剣とナゴヤがB級ホラー
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1章 名駅ホームでまもなく列車が♪だだんだんだだん! 2

 大樹は混乱していた。


 あの少女はなんなんだ。

 ショットガンでブチ抜かれてピンピンしているとはどういうことか。

 というか、泣き虫の葵がショットガンを握ってカイル・リースのごとく飛び込んで窮地を救ってくれるとはどういうことか。


 あ。なんかむかつく。葵のクセに。


 車は桜通り線を千種方面へ走っていた。

 今は丸の内に差し掛かったあたりだ。

 側面はでこぼこに傷つき、左のライトは潰れ、フロントガラスには穴が開いているというひどい有様だった。正面から入ってくる風が異様に冷たい。


「大樹ちゃん……怪我はない?」

 少しだけ落ち着いたころ、ハンドルを握る葵が大樹を心配して尋ねた。

 その一言で大樹カチンときた。

「……ありえねぇ……」

「え? なに?」

「私がお前に助けられたってのがありえねーんだよォッ!!」

「いたいいたいだああああああっ!」

「こんにゃろこんにゃろっ!!

 どーしてくれるのよ私のプライドズタボロだぞコラァッ!!」

「耳っ!

 耳引っぱらないでっ!!

 そんなに引っぱったら千切れちゃうっ!!」


 葵のハンドル操作が狂い車が対向車線に飛び出してしまう。


 ヴゥーゥゥゥッ!! 

 ハイビームと警笛が二人を襲った。


「「ひぃッ!!」」


 葵があわてて本来の車線に戻す。

「ちゃんと運転しなさいよバカッ!!」

 ごちっとげん骨を一撃。

「うぅ……ヒドイ、私、悪くないのに……」

 葵はぐすんとべそをかき、運転を続ける。


 あー。むしゃくしゃする。


 大樹はういろうを取り出すと口の中に詰め込むように頬張った。

 大樹なりに落ち着こうと努めているのだ。

「……で? 説明しなさいよ」

「大樹ちゃんもしかしてものすごく機嫌が悪い?」

「この名古屋から脱出できると思った晴れ晴れしい日に命狙われたのよ。

 機嫌が悪くならないほうがおかしいっつーの」


 ──あとお前に〝助けてくれてありがとう〟を素直に言えない自分にも腹が立つ。

 ……というのは、胸のうちに仕舞っておいた。




「……そんなに名古屋が嫌なの?」

「嫌っていうか……、今はいいでしょそんなの。

 それであの女の子、一体なんなの?

 ホントに未来から来たターミネーターとか言ったら殴るからな?」

「ち、違うよ!!

 映画とごっちゃにしちゃダメだよ!!」

 めずらしく葵が声を荒げた。


「命がかかっている時にフィクションの話をしてる場合じゃないよ!!

 映画を現実に持ち込んじゃうのは大樹ちゃんの悪い癖だよ!!」

「むぅ……っ。確かに」

 自分でも良くないと思っていた性格をズバリ指摘されてしまった。

 これは少し反省すべきところだろう。

「葵の言う通りだわ。

 ちゃんと聞くから、説明して」

「えっと、……よく聞いてね?」

 そう言って葵はポケットからなにやら紙きれを取り出し、読み上げた。




「えーっと。

 『十年後の大樹ちゃんはある組織に狙われています。でもその組織は大樹ちゃんに勝てませんでした。そこでその組織は過去の大樹ちゃんをやっつけることにしました。あの子は未来から送り込まれた刺客なのです。しかもあの子は見た目は可愛い女の子ですが、実はアンドロイドなのです。今まで黙っていたけど、私、実は未来の大樹ちゃんから、過去の大樹ちゃんを護るように派遣されたエージェントなのでしたぁー』」


「まるっきりターミネーターじゃねぇかふざけんなぁぁぁぁぁッ!!」


「いだいいだいいだあああああっ!!」

「しかもなんだその丸パクリのくせに虫食いだらけの設定は!?

 ねぇお前ふざけてんの?

 ふざけてんのかお前の脳みそはァ!?」

「入らないッ!!

 耳に指は入らないよッ!!

 それ以上ねじ込まれたらちゅーじえんにぃぃぃぃッ!!」


再び車が対向車線に飛び出す。

 ハイビームと警笛が二人を襲う。


「「ひぃッ!!」」


葵はあわてて本来の車線に戻る。

「ちゃんと運転しろっつってんでしょ!

 このたわけッ!!」

 ベキッ!!

「うぅ……ヒドイ、

 ホントのことなのに……」

「それが本当だったら、とりあえず一分前の反省を返せ。

 そもそも私が狙われる理由がわからんわ」


「大樹ちゃん、お家のことで

 私に黙ってることあるでしょ?」


 ──おっと。そうきたか。

 葵との仲は一年ほどになるが、大樹の特殊な家柄について話したことは一度もない。

「大樹ちゃんは代々名古屋の土地神を祀る家の後継ぎなんだよね? そのために必要な祭事の剣術や精神鍛練をずっと続けてた。それが嫌で上京しようとしてるんだよね」

「知ってたのかよ」

「話してくれるのを待ってた」

「──話す機会がなかったし、な」


 そういうと葵はぷぅっと頬を膨らませた。

 ご立腹のサインだ。


「拗ねることないでしょうが」

 そう言うと、今度は大樹のポニーテールを掴んでくいくい引っ張った。

 今度は納得いきません、だ。

「あーもー、わかったわよ。

 黙ってて悪かった。謝る」

 首を傾げるような恰好で、大樹は言った。


「だって、土地神を祀るだの言っても、御神体を無くしてもう千年も経つ家系よ?

 それの家督を継げって言われてもね。私だってやりたいことあるっつーの。

 ……それがなにか関係あるの?」


 葵の返事はない。


「……あんたまだ怒ってんの?」

「ううん」

 真剣な表情で、

 葵はハンドルを握りなおした。




「あの子が追ってきた」




 振り返ると、名古屋の広い車道の向こうで一台の大型バイクが追従していた。

 ハーレーだ。厳つい車体とノーヘルメットの華奢な体がひどくミスマッチだった。

「……ほんとにターミネーターをやる気なんだな……」

 呆れるというより、ある種の感心をしてしまう。

「速い……追いつかれちゃう!」

 葵の悲鳴がブオンブオンという排気音でかき消される。

 あっという間に横付けした相手は、大型の銃器をこちらに向けてきた。

「大樹ちゃん、伏せてっ!!」

 パラパラパラッ!!

 っと軽快な銃声が連続して炸裂。

 ハンドガンの次はマシンガンだ。

「ひーっ!!」

 葵が急ブレーキをかけたため、辛うじて弾道から逸れる。

「どうすんの!?」

「逃げ切れない、反撃する!!」


 車は急発進でバックした。

 追撃しようとするバイクの旋回に隙が生まれる。


 そこを葵がショットガンを一撃っ!

 だがうまく命中しなかったのか、相手は健在だ。

 バイクの向きを変えて突撃してくる。

「運転しながらじゃ無理よ!

 貸してッ!!」

 大樹はショットガンを奪った。

「反動がすごいから気をつけて!

 銃身を全身で支えるように!!」

「オーケーッ!!」

 大樹はういろうを一口頬張る。


 銃など撃ったことなどないが、なぁに、やり方は映画でよく観ている。

 ぶち抜かれたフロントガラスの穴から銃口を覗かせてやる。

 相手も銃をこちらに向けた。

 躊躇ったら撃たれる、そんな一瞬。




 ドォン!!




 ボディーブローを受けたような衝撃が全身に走った直後、相手のバイクが炎上した。

 命中だ。


「「やったぁっ!!」」


 二人でハイタッチをして喜んだつかの間、炎の向こうから人影が現れた。

 アンドロイド少女は健在だった。

 燃え盛る衣服を意に介すことなく、こちらに疾走して来る。


「うわわわッ!!」

 アクセルを踏み込もうとする葵に、大樹が、

「バックじゃないっ! 突撃して!!」

「そっか!」

 その指示で車は前に突き進む。


「とぉぉぉぉーりゃぁぁぁッ!!」

 ごちんとボンネットに相手が引っかかる。

 そして大樹の銃が再び火を噴いた。




 顔面に衝撃を受けた相手は仰け反り、力なく車体の下へ流れていく。




 やったか……?

 車を停車して、恐る恐る振り返る。

 路上になにかが焼け焦げた跡がある。

 だが、相手の姿は確認できなかった。

 逃げられたらしい。

 ……やっぱり、そう簡単にやっつけられるわけないか……。


「まあ、ひとまず安心ってことかな?」

 葵がそう締めくくろうとしたところで、

 よりやっかいな相手が車道に群れた。


 赤いランプと耳障りなサイレン、白い車体に黒が映えるニクイ奴。


 車体には堂々と〝名古屋県警〟と書かれていた。

 最強国家権力、警察である。

 気がつけば数台のパトカーと

 白バイに囲まれていた。


『君たちは包囲されている!

 武器を捨てておとなしく投降しなさい!!』


「まてまて。

 勇ましいのは構わんが、名古屋県ってなんだよ」

 大樹は思わずつっこんでしまった。

 ……しかもなんか違和感ないから困る。

「ど、どどど、どうしよぉ……」

 殺人アンドロイド相手ではあれほど気丈だったにもかかわらず、葵はパニックになり、半べそをかきながらこちらを見た。

「いやぁ……。

 逃げる自信があるならそうしたいけど」

「一人二人撃ち殺せばなんとか!」

「鼻息荒くして何言ってんだお前!?」

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