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シネマね!~剣とナゴヤがB級ホラー~  作者: 山田中ミキヤ
前章 剣とナゴヤがB級ホラー
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3章 ホテル街の悪夢 2

 さて、たっぷりリフレッシュいたしましたので。


 風呂上りの大樹はバスローブを着て、ベッドの上で腕を組んでいた。

 今夜の騒動を反芻することにしたのだ。

 考えることは山ほどある。




 葵の言う、大樹をねらう組織とやらから送られてきた刺客達。

 ターミネーターもどきの女の子と、ジェイソンもどきの女だ。

 なんで彼女たちはB級ホラーモンスターのコスプレをしているのか。


 それから、意味深なことを告げて去っていった男。

 あるときはちゃらちゃらとしたお兄ちゃんで、またあるときは親切な刑事さん。

 しかしその実態は……定かではない。

 事件の真相を知っている素振りだったが……。

 不可解なのは大樹に映画の話を持ちかけたタイミングだ。

 彼は事件の発生する直前にアクションを起こす。


 まるで、そう、この次に何が起きるかコマ割り単位で把握しているような。


 それでいて、事件そのものに関しては部外者な気がする。

 決して、彼自身が騒動の発端になったりしないからだ。


 不気味な男だ。

 ……さしずめ〝ブギーマン〟といったところか。


 もう一つ奇妙な点は、警察署で起きた銃撃戦の爪跡だ。

 脱出の際に通り過ぎただけでも、壁は銃痕に彩られ、ガラスは割れ、部屋という部屋が荒らされているという悲惨なものだった。


 にもかかわらず、遺体も血痕も一切見ることがなかったのだ。


 ターミネーターであれば、蜂の巣にされているとか、ジェイソンであれば逆さ吊りで首を裂かれているとか、状態はどうあれ模倣犯らしいやり方があるだろう。

 あると覚悟していたものが、ないという違和感。




 なにかが変だ。




 何度も危ない目に遭ったのに、どこかで決定的なリアリティが無い。

 お化け屋敷やジェットコースターのような〝安全なスリル〟。


 この感じ、どっかでよく触れていたような……。


「うぅん……、わからん」


 さすがに手持ちの情報だけでは憶測の域を出ない。

 風呂に入っている葵が出るのを待って、洗いざらいしゃべらせよう。

 大樹がそう結論付け、ういろうを咥えたところで、


「そんなに食べると、太るよ?」


 と、バスローブ姿の葵が現れた。

 おさげを解いた髪の湿気をタオルで吸いながら、上気した頬でふぅっと息をついた。

「大丈夫、ういろうは食べても太らない」

「砂糖と炭水化物の塊なんだから、おもいっきり太ると思うけど……。

 ふふっ、大樹ちゃんはホントにういろうが大好きだねー」

「まあね。

 一日食べないと手足が震えるし」

「わわ……ッ!

 や、やめよ?

 ういろう食べるのやめよ?

 なんかそれ、絶対危ないよ?

 というかそれほんとにういろう?」

「私に死ねと申すか。

 ういろうで死ねるならむしろ本望」

「え、どっち!?」

「棺おけにはういろうをぎっしり詰めて。

 ういろうさえあれば土葬火葬は問わない」

「そんな遺言イヤ過ぎるよ……」

 葵はそう言って隣に座ると、大樹の食べているういろうを取り上げた。

「あ、オイ!」

「ふっふー♪」


 抗議を無視し、ニコニコとしてそれを食べ始める。

 なんだこいつ。

 いつもの三割り増しに懐いてくるな。

 まあこいつの中ではパジャマパーティーだしな。

 大樹はあまり頓着せずに次のういろうを開封した。

 それはさておき、情報を吐かせなくては。


「それよりさ、いい加減、あんたの知っている事を話して──、」


「なんだかういろうがうらやましい」


 おい、なんか、吐息交じりでセリフ被せて来たぞ。

「大樹ちゃん、こんなにういろうのこと考えてるんだもん。

 ちょっと……嫉妬しちゃうよ」


 潤んだ瞳でこちらを見つめてくる。


「いやいやいや、ナニコレ」

「ねえ、大樹ちゃん……」

 そう言って指の腹を、大樹の太ももにつぅーっと滑らせてはじめた。


「え。

 なんで空気作り始めてんのお前。

 頭でも打ったか?」

「どうしてわからないの?」

 大樹の手を取り上げ、自分のバスローブの中、というより乳房に押し付けてきた。

「あの。サービスエロなら相手の性別間違えてますですよ?」

「私の鼓動、感じる?」

「うん。蒸れててすっげー気持ち悪い」


「大樹ちゃん──ッ!!」


 感極まった声を上げた葵は、大樹をベットに押し倒した。

「ろ、ロケーションに飲まれて血迷ったかキサマァ!?」

「好きっ、大樹ちゃんのこと、大好きなのッ!!」

「あほかぁぁぁぁぁぁ!!

 私にそのケはなぁぁぁぁぁいッ!!」

「わかってるよ、だから──ッ!」


 ガシャン、ガシャンッ!


 ベットの上部から黒いベルトを二つ取り出し、すばやく大樹の両腕を拘束した。

「うわぁ、こんなギミックあったのか!?

 さすが過ぎるラブホテルッ!!」

「ごめんね。二人の思い出が欲しいの……」


 やばい、やばいぞ。目がマジだ。


 大樹は唐突に貞操の危機に見舞われてしまった。

「い、今からでも遅くは無い。

 道を踏み外す前に引き返せ。

 忘れてやるから冗談って事にしろ!」

「これで、お姉さまを私のものにできなかったら、絶交されちゃうね……」

「うげぇ、ナチュラルにお姉さま言うな!」

「でも!

 私、決心したのッ!!

 お姉さまと一緒になりたいから!!」


「人の話をきけええええええええええッ!!」


 絶叫する大樹を余所に、覆いかぶさった葵はいそいそと〝作業〟に取り掛かる。

 大樹の着衣をはだけさせ、中にある控えめな二つの丘を撫で始めた。

「わぁ……。お姉さまの肌、すごく綺麗……。

 あはっ、胸の大きさは私の勝ちだね。

 でも、とっても可愛い……」

「うぅ……。

 この手だけは使いたくなかったが……」

 〝本番〟に事を進るわけにはいかない。

 腰に力をこめる。

 ぬっと大樹のふくらはぎが葵の頭を挟む。


「え?」


「許せよ」

 ゴキリッ!

「ギャッ!!」

 葵の首がいびつに傾く。

 鞭打ち状態だ。


「あ、あううぅ……」

 葵が激痛に喘ぐ。


 肩が上がらないから、大樹の足を剥がすことも出来ないだろう。

 葵を何度も折檻してきた大樹も、これはさすがにやりすぎと思ったが……。


「少し頭を冷やせ。

 これを解かないならもっと捻るぞ」

「あがッ!!

 ひどい、酷いよおねえさま……」

「そのお姉さまってのやめろ。同意を得なけりゃ同性でも問題あるんだぞ」


 厳しく説きながら、大樹は寂しくなった。

 ──そういうふうに見られているとは思わなかった。

 いや、気持ち自体は彼女の自由だろう。

 否定はしない。

 相手が葵ならなおさらだ。


 答えてやれないとしても──。




 だけど、やりかたってもんがあるだろう?

「……ったく、このたわけが」

「酷いよ、酷いよ、こんなに私は大樹ちゃんのことが好きなのに」

「知るか! とっととこれを外せ!!」

 大樹は脅しで少し力を加えた。


「た、たた、たたた大樹ちゃん、

 やめてぇ、取れちゃう!

 頭が、と、

 取れちゃう取れちゃ、




 ────あひっ!」



 ボキッ。

 木の枝が折れるような不快な音。

 急に大樹の足が軽くなった。




 葵の頭が──胴体と分離したのだ。




「ひっ!」




 力なく仰向けになる体と、残された顔面。

 大樹の足の間で、生首がにたぁっと微笑んだ。


「もう、大樹ちゃんったら! ゴーインなんだからぁ!」




「うわあああああッ!!」

 大樹は反射的に首を解放してしまった。

 葵の首は、お腹にゴトリと、まるでサッカーボールのように着地する。


「あらあらあらあらあら。

 首の取れちゃう子はお嫌い?」

 ケタケタ笑う首は、舌で大樹の体を舐めながら、器用に上半身へと這ってくる。

「いやおかしいだろこれッ!?

 首取れるかフツー!?」

「んっ、ちゅぱ、ちゅっ…………、

 じゅる……。うーん、

 もうちょっとびっくりして欲しいのに」

「十分びっくりしてるっつーの!」

「これ一応サービスシーンなんですよ。

 もっとこう、もうちょっと可愛い悲鳴をですねぇ……」

 まあいいやと呟いて、首の気配が体から無くなった。

 胴体が自身の首を持ち上げたのだ。

 なにをする気なんだ?

「えへへっ、いただきまーす」

「むぐぅ!」

 キスだ。

 否、この行為を果たしてキスと表現していいのか?

 大樹の腹に馬乗りになった胴体が顔面を、まるで判子を押し付けるようにグイグイとねじ込み、頭は舌で口内に侵入すると抵抗している歯茎を無理やり責めあげる。


「んーっ!

 んんっ!! んーんーっ!!」


 言葉にならない抗議と、じゅるじゅると液体を吸い上げる音が部屋中に響き渡る。




「ぷはぁ……おいしかったぁー」

 唇から光る糸を引き、

 葵は満足そうな笑みを浮かべる。

 胴体の持つ顔面がごくごく自然に笑んでいるのだ。

「うう。生首にファースト奪われるとかもうお嫁にいけない……」

「そうそうそれそれ!

 そんな感じでお願い!

 んであと、もうちょっとこう、

 襲われてる雰囲気出して!」

「お前頭に蛆わいてんじゃないのか!?

 ていうかお前葵じゃねーだろ!!」

「まあ、そうだけど」

 ニセ葵はあっさり認めてしまった。


「葵ちゃんと早くゴールしてほしいのよ。

 問題が全部片付くから。

 んー、でも、大樹ちゃん×葵ちゃんは確かにツボなんだけどー。

 個人的には受け責めが成立してて刺激足らないと思うの」

「日本語で話せーッ!!」

 大樹にはさっぱり理解できない理屈を展開しながら、ニセ葵はにやりと笑う。


「葵ちゃんが寝てるうちにいろいろセッティングしとかないと。まだまだ夜は長いんだから、たっぷり遊ぼうねー、おねーさま!」

「ちょ、よせ、やめ、……ぎゃあああああああ!!」




   *




「大樹ちゃん、大樹ちゃんッ!!」

 呼び声に、ハッと覚醒した。

 暗い寝室の中で、葵が不安げに覗き込んでいた。

 ドラムを打つ様な鼓動が聞こえる。

 無意識にぜぇぜぇと過呼吸をしていた。

 やや遅れて、大樹は状況を理解し始めた。


 そうか。

 自分は葵を待つ間に寝てしまって──。


 タチの悪い夢だった。

 大樹は呼吸を落ち着かせると共に、ほっと安堵した。


「ひっく……あう……よかったよぉ、

 急に寝言で大騒ぎするんだもん」

 葵がべそをかいて心配していた。

 もちろん、首と胴体は繋がっている。

「ばか、お前が泣いてどうすんの」

 こつんっと頭をこついたが、

 大樹はひどく安心していた。

 やっぱり、葵はこうでなくては。


「だってぇ……。ぐすっ。

 どうしたの? 怖い夢を見たの?」

「まあそんなとこ」

「うー、どんな夢?」

「いろいろな」


 首の外れたお前に強姦されました、

 ……なんて話す気にはなれなかった。

 笑い話にするには、もうちょっと時間と気持ちの整理が必要だった。


 いずれにせよ、悪い夢は終わった。


 大樹は不快な汗を拭い、体を起こすと、シャワーを浴びるために浴室へ向かう。


「お背中流しましょうか?」

「いらない。構わずに寝てて」

「えー、流させてよぉ」

 すっと背中から葵の腕が伸び、大樹に甘えるようにしがみついた。




「お・ね・え・さ・まッ!!」

「────ッ!!」

 ばっと葵から離れる。

 葵は邪悪に微笑むと、ちろりと唇を舐めた。

「ね、もう一回ファースト奪ってもいーい?」

「うぇっ! 終わってなかったのかよ!!」

 大樹は一目散に逃げ出した。


 ホテルの扉をあけ、外に飛び出す。

 そこには異様な光景が広がっていた。

 コンクリートの壁に、大型の工場を思わせる無数のパイプ。

 ところどころでシューッシューッと蒸気が高い音を立てる。

 遠くでなにかが駆動する音が響いていた。


 どこだここは。ボイラー室らしいが……。

 少なくとも、ホテルの廊下ではない。

 大樹は恐る恐る歩む。

「……あつっ!」

 誤って脇に伸びていたパイプに触れてしまった。高温の液体が流れていたのか、軽くやけどをしてしまう。


 そこで背後からギィィィと、黒板に爪を立てたような不快な音を奏でて、


「大樹ちゃーん、どーこーいーくーのっ?」

 と、ニセ葵が追ってきた。


 くたびれた帽子に、小汚いストライブのセーターとズボン。

 指には、刃物で作った鉤爪を付け、それで壁を引っかいて音を立てていた。


「いい加減、葵の格好をやめろ!

 胸糞悪いッ!!」

「あらあら。強気ねー。さっきみたいに泣いてくれると楽しいのに」

「葵ぃーっ、お願い、私を起こしてッ!!」

「無駄無駄、葵ちゃんならぐっすり寝てるもの!」

 そうあざ笑うと、葵の偽者は鉤爪を振りかざして襲ってきた。

 どうしたらいい、


 ……そうだ、こういうときは!


 大樹はとっさに、高温のパイプに自ら触れた。

 高熱に反応した神経が、警鐘として体に激痛を走らせる。


 ────ばッ!!


 大樹は歯を食いしばった絶叫を伴い、体を起こした。

 しんっと静まり返ったホテルの部屋。

 ベットの上だ。

 今度こそ、目覚めることができたのだ。

 隣では葵が小さな寝息を立ててすやすや寝ている。


「ああ、いやな夢を見た……」


 偽者の葵が最後に見せた格好。

 あれは〝エルム街の悪夢〟に登場する殺人鬼、フレディのコスチュームだ。

 ジェイソンと戦ったこともあるスプラッターヒーローだ。

 人の悪夢に登場し、愉快犯的な犯行で夢の主を追い詰めて殺してしまう。

 夢で殺された人物は現実においても同じように死んでいくのだ。


「さ、さすがに、こればっかりは映画の模倣犯ってわけないわよね?」

 他人の夢に登場する模倣犯なんてあってたまるか。それはもう、模倣犯という次元を超えた何かだ。おそらく、数時間前にジェイソンもどきと対決した印象が強くて、そんな夢を──もちろん、大樹自身の勝手な悪夢を──見てしまったのだろう。



 若干卑猥だった原因は、……あまり考察したくないな。

 フレディの犯行は常に下品と相場が決まってるし、何も大樹のせいじゃない。

 どっちにしろ、ゆっくり寝ることも叶わないとなると、悲しくなる。

「むにゃ……ういろー、おいしいねー」

 葵の暢気な寝言が聞こえる。

「ったく!」

 なんかイラっと来たので、

 平手で殴ってやった。

「──たっ!」

 予想外の激痛が、大樹の手を襲った。

 見ると、赤く腫れ、ところどころに水疱が出来ていた。

 火傷だ。




 ──最後の瞬間、激痛で目覚めようと熱パイプに触れたから……?


「マジかよ……」




 ……ちょっと夜風を浴びよう。

 大樹はそう呟いて、ベットを出た。

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