デビ♥︎ラヴァ‼︎ バカオヤジの大誤算
ジャージのズボンを履いた親父が研究室へ駆け込む。
オレたちも続いて研究室に入った。
親父の研究室は相変わらず散らかっていた。入って直ぐの机の上には論文とエロ本が山積みになっている。
「まあ!おじさまったら、こんなにエッチな本をお持ちになっているのね!」
できればつっこんで論文欲しくなかった。
「状況はどうなっている⁉︎」
「北極点から正体不明の微弱なエネルギー波が南下しています!」
「まだ2664年だぞ⁉︎666の年まではあと二年あるってのに‼︎」
二年?北極点?研究の成果も二年後って…
「…話しがだんだん読めて来たぞ…」
「?どうしたの優太君?」
声が聞こえたのか、静がこっちを見てきたが、慌てふためく親父に声をかける。
「なぁオヤジ!」
「何だ?お父さんは今忙しいの!」
親父はまるで子どものように叫んだ。
「オヤジが研究してるのは、オヤジが見つけた遺跡にあった666の年についてだよな?」
「そーだよ!それが何⁈」
「何で2666年が666の年って考えた?」
「そんなの2000と666年だからでしょ!」
「666を4倍してみろよ」
「4倍~?え〜と……2664だろ?…はぁっ!?」
親父の顔色がどんどん青くなっていく。
「バカオヤジめ……」
「優太君、いったい何が起こってるの?」
相変わらず静はのんびりだ。
「知らねえよ。あいつに聞いてくれ」
右往左往する親父を指さした。ほんとに右往左往している。反復横跳びしている。
「ヘッド!エネルギー波が!」
「こ、子どもの前でヘッドって呼ぶんじゃないよ!」
「す、すみませんリーダー!」
どうやら親父は普段部下に「ヘッド」と呼ばせているしい。とても恥ずかしい。親父も恥ずかしいのか、青い顔を真っ赤にして怒っていた。じゃあ呼ばせるなよ…
「まあ!ヘッドだって優太君!おじさまかっこいい!」
静よ……その言葉は褒め言葉ではなく、我々親子を辱める呪いの言葉なのだよ……
親父は涙目でこっちを見てくる。睨み返したオレの目も涙目なのだろう…
「んで?一体全体何があったの⁈」
オレから目を逸らした親父が、部下の方へ振り返る。
「はい!エネルギー波が我々の上空を通り越しました!」
「えぇっ⁈いつの間に⁈」
「まあ⁈まったく気がつかなかったわ」
あたりまえだと思う。何故なら、もしエネルギー波が誰でも気づくものならば1998年や1332年にも記述が残っているだろう。
今まであの遺跡が見つからなかったのは、当時の技術ではエネルギー波を感知できなかったのだ。
恐らく今回のエネルギー波を感知しているのはあの遺跡を専門的に研究している、ごく一部の機関だけだろう。
「おじさま、そのエネルギー波って何者なんですか?」
「恐らく、神とやらが人間の心をスキャンしてるのであろう…」
「心をスキャン?どうしてですか?」
「その結果に応じて、人間を絶滅させるためだろう…」
「絶滅⁈おじさま!それは本当なの⁈」
「いや、詳しくは解らない…」
「なぁオヤジ。どうしてそんなに慌ててるんだ?
過去三回何も起こらなかったから、今回も何もないんじゃないのか?」
親父と静の会話に割って入る。
当然だ。絶滅なんてしてたまるかよ。それに何か胡散臭い。
オカルトは信じない男、奥田優太です。
「いやっ、今回はダメかもしれない…」
「な、何でだよ⁈」
いつになく真面目な親父の声に驚く。
「人口増加、食料不足、貧富の格差に不景気。終いには国一つ吹っ飛ぶ戦争と来たもんだ。アフリカなら内戦もまだいっばい続いてるでしょ」
「た、確かに…」
数年前、中東での戦争に大国の介入し、その国のゲリラによる世界多発テロがあった。おかげで仕返しとばかりに大量の兵器投入で戦争を起こした国の政府は消し飛んでしまったのだ。
人々の心が悪に偏っていてもおかしくない。
「じゃ、じゃあ、どうすんのさ?このまま滅べってのか?」
「助かる方法はある」
「……なんだって?」
まさかの答えに再び驚く。
そもそも、滅びの正体も解っていない。
恐らく遺跡に置いてあった人形が襲ってくるのだろうが。
親父はあの人形を研究用に一体持って来て色々調べていた。
以前、親父があの人形について話していた事を思い出した。
動力源は不明、外殻の素材不明、硬度ダイアモンド以上、外殻は分厚いが非常に軽く、丈夫で衝撃を吸収する。
近代戦争で使われた無人兵器より遥かに優れた兵器と思われる。悪の心が強い人間は触れることができないらしい。現に親父は触れなかったがオレは触れた。ざらざらしていた。
そんなものが大量に出てきたら、現代の兵器では全くかなわないだろう。
「僕はこの事態を予測して、人形兵器を研究し弱点を探っていた!」
「で、その弱点って?」
「解らなかった‼︎」
期待して損した。
「あらまあ!それは残念ですね!」
「じゃあ助かる方法って何だ?命乞いか?宇宙に逃げるか?」
溜まってきたイライラを親父にぶつける。
「そ、そんなに怒んないでよ⁈ちゃんと話すからさ⁈ね?ね?」
「ちっ…」
とりあえず落ち着こうと深呼吸してみる。が、怒りは収まらない。
「えー、こほんこほん」
親父がわざとらしく咳払いをする。いい加減オレのイライラの原因が自分だって気付いて欲しい。
「優太くん……僕が何のために「ソロモンの遺産」を研究していたと思う?」
「……」
そういえば親父は二つの太古の遺産を見つけていた。
「解ったのだよ優太くん!ソロモンの遺産にはこう書かれていた!」
「早く言えよ…」
またイライラが溜まってきた。静はなぜこの男の話をそんなにわくわくしながら聞けるのか。まったく理解できない。
「悪魔の力を支配すること、それ即ち悪の心を支配する事なり!と!」
なるほど、悪の心を支配できれば人形に触ることができ、悪魔の力を使って破壊できるというわけだ。
……あれっ?悪魔?
「ごめんオヤジ。理解できないよ……」
「私は解ったよ!つまり、悪魔さんの力を借りて、私たちはだいじょーぶですよ!って、神様にアピールするのね!」
「さすがしーちゃん!よく解ってる~!」
「そこじゃねえよ!……あ、悪魔って?」
親父も静も普通に話しているが、悪魔って?
「悪魔?Devilでしょ?知らないの?」
親父がいつになくバカにした顔で寄ってくる。
「いや、それは知っているけど…」
「物語によく出てくるでしょ?角が生えていて、羽が生えていて、しっぽが生えている悪い人たちですよ?」
それは知っている。それにしても静にとって悪魔は悪い人たちらしい。
「それは解ってるって!悪魔だぞ悪魔!……ほんとにいるのかよ?」
「いるよ」
「らしいです!」
言い切りやがった!
「ソロモンの遺産に召喚の仕方も振れ合い方も書いてたよ」
振れ合い方ってなんだよ。犬じゃあるまいし…
「じゃあ、悪魔さんと仲良くなれるんですね!」
なぜそこで喜ぶ。さっき自分で言ってただろ。悪い人たちって。
「と、言うわけで。はい!お年玉!」
親父が懐からぽち袋を二つ取り出す。
何言ってんだ?こいつ?
「ありがとう!おじさま!」
静は子どものように無邪気な笑顔てそれを受け取った。
こいつも何言ってんだ?
「はい!優太君!」
爽やかな笑顔で袋を差し出してきた。
いやいやいや!何言ってんの⁈
「今の話の流れでどうしてこうなった⁈」
一つたりとも疑問を解決していない。
「まあまあ。まずは中身を見てみなって!」
「中身〜?」
親父に急かされるままぽち袋を開けてみる。
「…これは?」
何の装飾もない指輪が一つだけ。
「指輪…ですね」
「ただの指輪じゃあないよ。それは悪魔を操るための兵器なのだ‼︎」
なんて物騒な‼︎
「これで悪魔さんと仲良くなれるんですね!」
どんだけのんきなんだよ⁈
「何でこんな危険な物を子どもに渡してんだ‼︎」
子どもを信じているのか、よっぽどのバカなだけなのか…
「にしても、この指輪が兵器ぃ〜?」
「ソロモンの遺言書と一緒に見つけた、ソロモンが悪魔を使役するために使ってた指輪だよ!量産に成功したの」
そう言うと、ポケットの中から大量の指輪を見せてきた。
「ありがたみがねえな…」
ソロモン王もこれを見ればびっくりしただろう。
「つーか、何でオレ達に渡すんだよ。オヤジが使えばいいじゃん?」
このまま行くとオレは戦争に借り出されることになってしまう。
「優太君……心して聞いてくれ…」
再び真面目なトーンで話し出す。
「な、なんだよ?」
「悪の心が強い人間は悪魔の力を使うと、逆に取り込まれてしまうんだ…」
「…それで?」
「……平気で浮気する人間の心が、善であると思うか?」
生まれて初めて親に手を出した。
「ひ、ひどい!親父にはぶたれたことないのに!」
父親には相当甘やかされて育ったらしい。
「あんた、悪意を持って浮気してたんだな。」
最低だよ……
「ねえ、おじさま!早く悪魔さんと仲良くなりたいです!」
「おい、静。悪魔と仲良くなるってことは、あの人形どもと戦うことになるんだぞ。つまり、下手すりゃ死ぬって事だ」
「えぇ!?本当ですかおじさま!」
気づいてなかったのか?!
「安心して!しーちゃんのは予備で、実際に戦うのは優太君だから!」
「おい!オレに死ねって事か?!」
「大丈夫。優太君は死なないよ」
「はぁ?」
「大丈夫。君は死なない」
親父は繰り返して言う。
「何を根拠に言ってんだ?」
「根拠なんてないさ!ただ、君は死なない」
意味不明。だが不思議と安心感がある。
「君しか世界を救えないんだ」
勇者の村の村長みたいなことを言ってくる。
「……代わりが見つかったらすぐに辞めさせてくれよ」
指輪を握り締め親父を見る。
「おっしゃぁぁぁ!よし!今すぐ準備しろ!」
待ってましたと言わんばかりに親父が発狂した。
「ちょっまっ!今すぐだと!?」
「そうだよ!だってあの人形、研究用に一体持ってきてるんだもん!そいつが動くかもしれないじゃん?」
「他の人形はどうしてるんですか?」
「遺跡の入り口を合金の扉で蓋してるよ。だから出てくるのに時間かかると思うよ?入り口も狭いし」
それでいつまで持ち堪える事ができるのか。
ここでもう一度ブザーの音が鳴り響いた。
「へッ…リーダー!黙示録の遺跡から巨大なエネルギー波が発生しました!」
部下の一人がこちらへ向かって叫んだ。今度は間違えなかった。
「遺跡の内部で複数の高エネルギー反応を確認!」
「エネルギー波到達まで、およそ10分です!」
「10分か……詳しく説明してる暇もないな。」
親父は携帯端末で何かを入力し始めた。
「今から悪魔を召喚し契約してもらう!」
親父がスイッチを入れると、真上にあるプロジェクターから床に魔方陣のようなものが投影された。
「お、おう!」
「僕が君に教えれるのは、悪魔を召喚する方法と契約する方法だけだ!あ、あと付き合い方ね!」
そこで少し間を空けて話し出す。
「戦い方は、実戦で覚えろ!」
そしてこのドヤ顔である。
「それが言いたかっただけかよ…」
悪魔との付き合い方より、この親父との付き合い方を教えてほしい。
「はい!じゃあそこの真ん中のとこに立ってて!」
「優太君!がんばってね!」
静からの激励の言葉。何をがんばれと?
「じゃあ、召喚の儀式を始めるよ!」
急に緊張感が押し寄せてきた。
「……あっ!優太君!あれは何だ!?」
親父が突然指を指を指して叫んだ。
「何だ!?敵か?!」
慌てて後ろを振り返る。その瞬間、
「もらったぁ!」
「痛っ!!」
親父がシャーペンで手を切りつけてきた。刃物じゃないもので無理やりだったのですこぶる痛い。
「何すんだよ!クソオヤジ!」
「い、いやぁ。悪魔を召喚するのには契約者の血が必要でね?」
「血の一滴や二滴言えばやったよ!」
「言えばくれたの!?」
そんな言い合いをしているうちに、シャーペンに付着していた血が一滴床に落ちた。
その瞬間、床の魔方陣から不気味な赤い煙が溢れてきた。
親父は慌てて魔方陣の外に出た。
「……来るぞ。悪魔が……傲慢の悪鬼が!」
突然空間が炸裂したかと思うと、辺りに立ち込めていた煙が消えて。代わりに一つの人影が立っていた。
太い2本のねじれた角、獣のような尻尾、蝙蝠の様な羽。ただ一つ想像と違ったのは、
女の子だった。自分と大して年の差がないくらいの女の子。
「お、お前が悪魔…?」
声をかけると、腕を組みふんぞり返りながらこう言った。
「あんたみたいなやつの言うことは聞きたくないんだから!」
優太は涙目で恋路と静の方を見た。
一週間ぐらいで次が投稿できると思います