表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

"燎”となる前の彼女

女子高校生の私は、帰宅してラフな服装に着替えてすぐゲームをプレイするという、いわゆるオタ系女子だった。


「はー…やっと全クリ…」


そんな私がハマったのは月光の恋は、今まであまり手を出さなかった乙女ゲーム。


乙女ゲーム自体にはあまり興味がなく、ただ好きな声優が出てるという理由でちょこちょこ手を出してみていた程度だった。


月光の恋も元々はそうだった。


が、RPG要素も含むので、乙女ゲームでありながらも物凄くハマったのだ。


大体好きな声優のキャラを攻略してほったらかす私は、“攻略は簡単だけどある意味難易度高い”と言われていたのを知らずに紅牙ルートに入った。


そして、紅牙ルートのライバルキャラであるゲーム中の“燎”という壁にぶち当たった。


―何この子、チート?


全属性使用可能、回復技を使う、全体の能力高め…などなど。

その上性格だって悪くないし、紅牙が好きだからといっても大切なのは紅牙の気持ちだと身を引くようなお人よし。

戦わなければならない理由も、ヒロインが危険な目に遭いに行こうとするのを止めるため。


まぁ、勝たないと攻略が進まないので、その前で鍛えまくった。

感情移入して、認められるために。


これが乙女ゲームだと思い出すまでに時間がかかるくらいキャラの育成をしていたし、勝てたら嬉しかった。

まるでRPGのボス戦みたいな嬉しさだった。


「…月光の恋のジャンルって乙女ゲーム…だよね?」


何回かパッケージの裏をしげしげと眺めてしまうほどだった。


また、乙女ゲームっぽくないところや、ヒロインとはまた違う攻略対象とライバルキャラの関係性で、ヒロインとよりもライバルキャラとのカップリングが好きだと言う人も多い作品だから、二次創作も結構あった。


私も実は、紅牙ルートで幼馴染同士だという燎との関係性に惹かれた。

だから、スチルコンプリートのために、逆ハールートでもう一度進めていくと、なんとなく違和感を覚えてしまっていた。


それを、引かれることを覚悟で同じく月光の恋にハマっている友人に話してみたら。


「あー、分かる!」

まさかの共感。


「ほらー、あたし、嵐好きだけど、陽も好きだし。ってか嵐攻略中に陽攻略したくなったからさ~」

「マジで?」

「少女マンガも好きだから、ヒロインとの恋愛より元々片思いしてる陽の恋愛のが萌えるわけよ。甘酸っぺー、みたいな?何度ちょ、ヒロインそこ陽と変われー!とか思ったことか…」

「あー…」

「アンタもそうじゃない?」

「確かに…」

「でしょー」


で、友人はその後昼休みが終わるまでヒロイン以外の恋愛を語りつくしてくれた。


―浅葱さんと歩の意地っ張り同士の恋愛萌えるー!


―薊に対する玲夜さんの保護者的目線いいわー!


―満さんヒロインよりも環ちゃんを幸せにしてあげてー!


―ほのぼのした涙と棗の関係性癒されるー。


云々。

もういいよ…。


でも、試しに検索してみたら意外とひっかかるんだよね。


カップリング小説の他にも、ライバルに成り代わった夢小説書いてみたりとか、オリジナルで主人公作って恋愛してみたり、攻略対象同士をくっつけてみたり。


…意外と二次創作が多かったらしい。

というか二次創作って範囲が広いんだね…。


人気が出る作品っていうのは、その分アンチもいる。


―作品自体が嫌いなアンチ。なら何でプレイした。売ればお金にはなるよ。


―ヒロインのアンチ。なら何でプレイした。プレイしてて自分と合わないって?なら売ればいいと思うよ。そしてアンチだからってヒロインを悪役にして二次創作をしなくてもいいと思うよ。


―作品の二次創作のアンチ。なら何で見た。検索避けかけてない人がいるのは悪いけど、すぐ見なかったことにしようよ。何で好きで二次創作してる人に直接批判送っちゃうんだよ。相手のこと考えてないよね?

自分がそういうことされると怒るのに。

自分がされて嫌なことは相手にもしちゃいけませんって幼児の頃から教えられるぞ普通。


―個人サイトを晒してる人もいた。論外だよねそれ。


私から見れば、アンチになるのは勝手だし、アンチの人が集まる場所で意見を共有しあうのは自由だけど、それをわざわざファンの人も見ちゃうような場に吐き出すのはどうなんだろう。


そういう意見の人がやめるように書き込んだのに、それを叩いて、その作品のアンチこそが正しいように主張する。


その繰り返し。


…途中まで見て気分が落ち込んだから、戻るボタンを連打した。

もう二度と見るものかと誓った。


それからしばらくして。


月光の恋を開発した会社は、元々アニメ化するようなゲームを多く作っている会社だった。

それと同時に、有名だったり、人気のある声優を起用して、キャラの心情が分かるようなキャラクターソングだったりドラマCDだったりを発売することも多かった。


しばらくして、月光の恋でも驚きの試みがされた。


月光の恋の乙女ゲーム的部分をとっぱらった物語がアニメや小説、ドラマCDになったのだ。


スピンオフやアナザーストーリーもそれぞれの対象キャラとライバルキャラのカップリングで作られた。

あとは過去の話だったりとか。


…キャラの人気に目をつけた商法だとは分かる。

分かるけど手が出るのがファンであり、オタクという生き物だ。


とりあえず、好きなキャラのものだけ買えば実は散財はそんなでもないんだけどね。


っていうか、ライバルキャラの声優って「何でヒロイン級をサポートキャラとかライバルキャラに起用した?!」と言われるほど人気がある人ばっかり。


攻略対象も含めて、実はキャラソン出す路線あったろってくらい歌の上手い声優ばっかりだ。


キャラソンCDの構成は、掛け合いの多い半分ネタ曲、真面目に歌った曲、キャラソンの真意が分かるようなドラマの構成になっている。


ネタ曲とガチ曲のギャップが一番すごかったのが紅牙と燎。


ネタ曲は夫婦漫才かっていわれるほどなのに、ガチ曲は言葉に出来ないくらいの神曲。


すぐ消されたけど、動画サイトでCD丸ごとUPされた動画のコメントでは、ネタ曲は"www"や"漫才かwww"が大半、ガチ曲は"!?"と"前と同一人物とか嘘だろ…"とかがちょこっとコメントされてただけで、聞き入った人が多いのかコメントが途絶えていた。


私は2曲とも気に入って、それを聴きながら登校することが増えた。


そして、私にとって運命の日にして命日となった日。


その日も、私はネタ曲とガチ曲を繰り返して聴いていた。

横断歩道の信号が青に変わって、歩き出す。


登校途中の小学生が元気に走り出す。


(…そんな時期、私にもあったなぁ…)

ほほえましいと思いながら、走り出した小学生を見ていると。


大きなクラクションが耳に飛び込んできた。


慌ててクラクションがした方向に目を向けると、信号無視のトラックが突っ込んでくるところだった。


朝の忙しい時間だからって、信号無視はないんじゃないか。


このままの距離なら、私と小学生はつぶれたトマト状態だろう。


出ろ、火事場の馬鹿力!!


驚いて固まっている小学生を走った勢いで思い切り突き飛ばす。

もう少しで歩道だった小学生は、案外簡単に歩道に転がった。


のんびり歩いていた私は、助からないだろう。


そう思うと同時に、私の目の前は真っ赤になった。


人間は聴覚が最期まで残るらしい。


何も見えない、何も感じないけれど、パトカーのサイレンと救急隊員の諦めの言葉、そして野次馬の声だけが聞こえる。


…トラックの運転手と会社を、私の家族は許さないのだろうか。

願いが叶うなら、私が死んだことを悲しまないでほしい。


私は、小さな子供を助けられただけでも、誇らしい気持ちで死ねるんだ。


…。

……。

………。


この記憶が今の私、燎に戻ったのは闇の精霊と初めて契約した時だ。

それまでの記憶と前世の記憶が上手い具合に宿ってくれたものだから、パニックにならずに済んだ。


正直、当初は強くて頭も良い女の子である燎に私のような人間がなってしまったのが重かった。


自分は自分と言われるだろうけど、チート性能の彼女を知っているからこそ、それまでよりも努力を重ねた。


私が乗っ取ってしまったであろう彼女に恥じない自分になりたかった。


ライバルキャラとしての役割は私に紅牙への恋愛感情はほとんどないからともかく、ヒロイン―愛海が複数の男性に愛を振りまいて他人に疎まれる前に、お節介かもしれないけど一人の男性を真っ直ぐに愛する手助けを出来る人間になりたかった。


エゴと言われようが、私の目的はただ、それだけだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ