表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

短編小説

お前は。

作者: 山川 景

「お前は、生まれてきてはいけなかった。」

 

 この言葉を、何度も、何度も聞かされた。

 誰からだろう。いつからだろう。思い出せない。でも、心の中に、深く刻み込まれている。

 僕は、ひどく傷ついた。どうして、そんなことを言う? 僕は、生まれてきてはいけなかった?



 ある日僕は、失敗した。これからの人生が決まるかもしれないという大舞台で、失敗した。僕は、泣いた。


「お前は、生まれてきてはいけなかった。」


 そのときまた、この言葉を聞いた気がする。誰に言われたのか、思い出せない。



 ある日僕は、大切な人に見限られた。もう、あなたはいらない。そう言われた。僕はまた、泣いた。


「お前は、生まれてきてはいけなかった。」


 そのときまた、誰かからそれを聞いた気がする。



 それからも、何度となくその言葉を聞いたと思う。


「お前は、生まれてきてはいけなかった。」


「お前は、生まれてきてはいけなかった。」


「お前は、生まれてきてはいけなかった。」








「そんなこと、ないさ。」


 そう言ってくれる人が一人いた。その人は、かつての大舞台で、共に競い合った仲間だった。


「そんなこと、ないよ。」


 そう言ってくれる人が二人になった。その人は、僕にとって大切な人の一人になった。


「そんなこと、ない。……あるはずがない。」


 そう言ってくれる人が、やがて増えていった。








「お前は、生まれてきてはいけなかった。」


 ある日僕は、その言葉を聞いた。自分の、心の中から。この言葉を吐いていたのは、僕自身だった。

 今までも、そうだった。

 何て、情けない。他の誰も、一度も、僕にそんなことを言ってはいなかった。いるならばそいつは、最低だ。


「お前は、生まれてきてはいけなかった。」

「……いや僕は、生まれてきて良かったさ。」


 僕は心の中で一言、そうつぶやいた。


「……。そうか……」


 声はそう残して、もう二度と、現れなかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ほ~。 深いというか深いというか。 うん。 声は消えたんですね。 良かったです。
[一言] 僕は大切な人に見限られたことを含めて、うまれてきたことを肯定できたのでしょうか。 間違いなく、その人には否定されてるのに… 気になります。
2014/02/11 23:02 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ