お前は。
「お前は、生まれてきてはいけなかった。」
この言葉を、何度も、何度も聞かされた。
誰からだろう。いつからだろう。思い出せない。でも、心の中に、深く刻み込まれている。
僕は、ひどく傷ついた。どうして、そんなことを言う? 僕は、生まれてきてはいけなかった?
ある日僕は、失敗した。これからの人生が決まるかもしれないという大舞台で、失敗した。僕は、泣いた。
「お前は、生まれてきてはいけなかった。」
そのときまた、この言葉を聞いた気がする。誰に言われたのか、思い出せない。
ある日僕は、大切な人に見限られた。もう、あなたはいらない。そう言われた。僕はまた、泣いた。
「お前は、生まれてきてはいけなかった。」
そのときまた、誰かからそれを聞いた気がする。
それからも、何度となくその言葉を聞いたと思う。
「お前は、生まれてきてはいけなかった。」
「お前は、生まれてきてはいけなかった。」
「お前は、生まれてきてはいけなかった。」
「そんなこと、ないさ。」
そう言ってくれる人が一人いた。その人は、かつての大舞台で、共に競い合った仲間だった。
「そんなこと、ないよ。」
そう言ってくれる人が二人になった。その人は、僕にとって大切な人の一人になった。
「そんなこと、ない。……あるはずがない。」
そう言ってくれる人が、やがて増えていった。
「お前は、生まれてきてはいけなかった。」
ある日僕は、その言葉を聞いた。自分の、心の中から。この言葉を吐いていたのは、僕自身だった。
今までも、そうだった。
何て、情けない。他の誰も、一度も、僕にそんなことを言ってはいなかった。いるならばそいつは、最低だ。
「お前は、生まれてきてはいけなかった。」
「……いや僕は、生まれてきて良かったさ。」
僕は心の中で一言、そうつぶやいた。
「……。そうか……」
声はそう残して、もう二度と、現れなかった。