晩餐
俺は、最後の缶詰を手にとってその表面に描かれている豆の絵ををじっと見つめた。見慣れた赤い缶詰。けっしてくどくはないが濃ゆい味付けで、栄養がいかにもありそうだ。
野口は、最後の銃弾を自分に向けて撃った。その行動が意味するところは分からない。餓死より、頭に鉛弾をぶち込んだ方が楽に死ねると思ったのだろうか。その顔はほとんど崩れることなく、眠ったように安らかだった。俺は、銃声が鳴った後、周囲の風景が変わらなかったことに恐怖したが、それがまだ死んでないからだと分かると、ひどく安著した。死んだ後もこんな所に居るのは、耐えられない。
俺は、野口の体に、ほこりを被ったシーツをかぶせてやった。こいつが腐るより、俺が死ぬ方が早いだろう。死体を捨てに行くだけの元気はもう残されていなかった。
「ありがとうよ。」
礼を言ったのは、俺を殺さなかったからではなく、缶詰を残してくれたことだった。
どこからともなく、なにかを工事をするような音も聞こえてくる。
「…誰か、生存者はいませんか!?」
そんな幻聴も聞こえてくるようだが、知ったことではない、
、俺の関心は、この缶詰、最後の晩餐のみに向けられていた……