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第六戦

某テキストサイトで個人の方の主催した賞を受賞しましたが、いろいろあって大変だった物です。

ひょっとしたらその経緯を知っている方もいらっしゃるかも知れません。今回、せっかくなので

いろんな方に見ていただきたく投稿させていただきました。


第六戦


「六……六……ここは、なんとしても六だ……絶対に……」

 カチョウがダイスを握りしめてから、すでに五分が経とうとしている。じっとりと汗にまみれているそのダイスに運命を握られている俺は、その永遠とも思われる長い間、狂おしげに騒ぐ心臓と神経を無理矢理押さえつけていた。早く投げろ、とカチョウに向かって叫んでやりたいが、もしもその拍子にサイコロが転がって、俺の破滅を意味する数字……六に繫がりでもしたら目も当てられない。といって、何のアクションも起こさなかった結果、六が出たりしたら…そんな無意味なことを、俺は繰り返し繰り返し、また繰り返し考えていた。

 あるいは、その永久的な思考だけが俺を正気に繋ぎとめていたのかもしれない。

 ゲームは最終局面を迎えていた。ゴールから二マス離れたところに立っている緑色のニワトリが俺のコマで、その四つ後ろ、逆立ちしたカチョウのカバのコマが迫っていた。お互いに、あと一振りで決着をつけられる局面だ。俺は、俺の分身であるニワトリのコマ、その後一つろのマスを凝視していた。禍々しい、赤色のマス。そのマスには二回休みと記されている。……ヤツが三の目を出してここに止まってくれれば、俺は生き残れるはずだ。

 俺とカチョウが凍りついたように動かない中、ナオミがふわぁ、と気の抜けたあくびをした。それは勝者の余裕というより、わざとらしい悪意を感じる動作で、我慢の緒が切れかけたが、カチョウはそれすらも聞こえないのか、ただ腕をブルブルと震わせている。

「おい、いい加減にしろ。夕飯に間に合わないぞ」

 はやすようにグンジンが言うが、ほんの少し前まではこの男も震えていたのだ。今回のゲームに参加できたのは五人だったが、早々に二人がゴールにたどり着く中、どこかの一流企業で課長をしていたという、壊れて傾いた眼鏡をかけているこの中年男と、この俺だけがいつまでもボードの上を堂々めぐりしていたのだった。

 途中、振り出しに戻るという破滅的なマスに止まったと同時に、グンジンは真っ赤な顔でボードをひっくり返し、この勝負は無効だ!と叫んだが、全員の冷たい目とその底にある一つの決意を見て、あわてて地面に這いつくばり、許しを請うたのだった。

 その後、ゲームは元の状態で再開した。(全員、他の者のコマ配置まで完全に覚えているのだ……さりげなくマスを進めようとするものは居なかった)グンジンはガクセイの提案で三回休みというハンデまで背負った後の再スタートだったが、運に量があるとすれば、悪運をすべてそこで使い果たしたのだろう。奴の靴の形をした駒は、「2戻る」などというおまけのようなマイナスマスにすら止まらず、トントン拍子にマスを進め、俺とカチョウを尻目に、三番目に上がってしまった。

「ははぁ、見たか!これが俺の実力よ!残念だったな。これで俺は助かるぞ!」

 浮かれ騒ぐグンジンを尻目に俺とカチョウは「十マス戻る」だの「サイコロの数だけ休む」という凶悪な罠にはまってはもがき続け、やっとのことで今の状況にたどり着いていたのだった。

「制限時間の五分を過ぎたときの罰則をお忘れではないですね」

 横からじっとカチョウに目を注いでいたガクセイが、場違いなほど明るい声で確認する。その罰則とは「一回休み」だ。それほど重い罰ではないが、この局面では生死に関わる。

「わかっている…でも、この一投は……」

「あと十秒……九……八……」

「待て、待ってくれ!」

 そう言いながらもカチョウは握り締めた手を離そうとしなかったが、ガクセイが残り一秒を告げると共にわっ、とダイスを投げ出した。勢いよく俺の横を通り過ぎていった。振り返ろうとする俺の横から、グンジンが駆け寄る。

「三だ!」

「ああ……っ」

 がっくりとカチョウがうなだれた。決着がついたわけではないが、俺が優位になったのは明らかだった。同じ綱を渡っている同士で、先に相手が落ちただけの有利さだったが、それでもずいぶん気が楽になった。この流れで負けるはずがない。いままでいくらかギャンブルなどの勝負事に手を染めたことはあるが、負ける兆候、勝つ兆候などは存在するものだ。この流れで負けるくらいなら、俺はとっくにくたばっているはずだ。

「ほらよ」

 グンジンが投げたダイスを俺は空中で受け取ると、そのままダイスを落とした。カラン、とコンクリートの乾いた音とともに、ダイスが跳ね転がった。勝利を確信したつもりのひと振りだったが、転がって止まるまでの時間は永遠のように長かった……。

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