表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/27

  ~霹靂~ 7. 

 「──きが──てるのよ。だからさ、……って、ちょっと、さくらぁ! 聞いてる?」

 「……う、うん? いや、ゴメン。……聞いてなかったかも」

 ふと気が付けば、帰りのホームルームもいつの間にか終わっており、クラスメイトの半数も帰ったか部活へ向かったかした後だった。

 「で、すずちゃん。何だった?」

 すずの傍らには、心配そうに眉を下げた佐穂里もいた。

 「う~ん。いや、帰りにケーキ食べ行こうって話してたんだけど。……そんなことより、大丈夫?」

 「……? 何が?」

 「『何が?』じゃないって! アンタよアンタ! ……そりゃあ、朝あんな事があったんだから分からなくは無いけど、今日一日うわの空だったじゃん」

 「ねぇ?」と同意を求められ、素直に頷く佐穂里。

 「……さくらちゃん、具合悪い? 保健室行く?」

 「ううん、大丈夫。ただ、ちょっと……」

 二人に心配させては悪いと思い、急ごしらえの笑顔を見せる。が……ダメだ、何故だか上手く笑えない。

 「……ゴメン。やっぱ調子出ないや。悪いけど今日はパスさせて?」

 「いや、……そりゃあ、別にいいけど」

 「本当に大丈夫? お家まで送って行こうか?」

 佐穂里が不安げに顔を覗き込む。

 「大丈夫! 大丈夫! ……それにさほ達、家、逆だし」

 すずと佐穂里は電車組だ。仮に付き添いを頼んだ場合、二人が各自宅へ帰り着く頃には、ヘタをすると綺麗な月が夜道を照らしてくれている事だろう。

 このままじっとしていると本当に着いて来ないとも限らない。ここは早々に立ち去るべきだろう。

 「じゃあ、私は先に帰るね。さほとすずちゃんで美味しいケーキの発掘よろしくっ!」

 そう言ってカバンを手に取ると、教室のドアへ向かって歩き出すことにした。

 が、その時、私の横をダッシュで駆けぬけ、先にドアをくぐる後ろ姿が目に飛び込んだ。

 (……すずちゃん?)

 そして、その姿は最早、見えない。

 何だったのか、と思い後ろを振り向くと、先程と同じ位置にいた佐穂里は首をかくん、と傾げ、突っ立っていた。



 結局、私は一人で駅まで歩いてきた。

 バスターミナルをぐるりと回る。いつも通学に利用しているバスは5番乗り場。今回はそれを無視して1番乗り場を目指す。そう、目的地は家じゃない。区立図書館だった。

 自分でも何を考えているのかなんて、分からない。……だけど気になるんだ。

 そう、気になっちゃうんだから仕方がないじゃない! ……私は知りたい! 亡くなった「そっくりさん」が誰なのか。本当に私に似てるのか。そして、そうならば何故、自ら死を選ばざるを得なかったのか──。図書館にならば各社新聞紙、それに端末も用意されていたはずだ。

 バス停、1番乗り場に着くと、先客が結構いる。9割が桃花台高生だった。目算だけれど、丁度座れるかどうか、といったところか。特に座りたいワケでもないし、立つならそれでも構わない。

 しばらく待つと、ロータリーからバスがやって来た。そして、目の前の停留所に横付けされ、扉が折り畳まれる。

 行列の前方から徐々に座席を埋めていく。私が乗車口まで進む頃には、座席はおよそ埋まっているか相席か、だった。別に相席自体に抵抗があるわけでは無いけれど、知らない男子の横に自ら腰を下ろすのはさすがに気が進まない。

 キョロキョロ物色していると、なんという事か、二人掛けの座席が空いていた。友達同士、お互いに座席をキープし合っていた女子生徒が一方を開放したらしい。それでは、と遠慮なく失礼する事にする。

 程なくして私の横も空席では無くなった。窓の外に顔を向けていたので目の端に映っただけだったが、白の開襟シャツ。男子の学生服だった。じりじりいざって、少しでも窓際へにじり寄る。

 ブザーが鳴り、扉が閉まる。発車するようだ。

 そして、私は車窓の人となる。

 ……しかし、少し冷静になって考えてみると、見ず知らずの赤の他人の事件を調べてどうしようというのだろう?

 私には両親がいない。幼い頃の記憶もあやふやだ。

 仮に、もし仮に自殺した少女と私に何らかの関係があったとする。そうしたらどうだろう、分かった事でスッキリするのか?

 ……否、

 スッキリする訳がない。むしろ余計に気になる。慎ましやかだが、今はおばあちゃんとの暮らしに幸せを感じている。もしかしたら、それすら壊れてしまう事に為りかねない。

 じゃあ、少女と私が全くの無関係だった場合。これはどうか。

 ……これまた、否。

 見ず知らずの少女の死を暴いて気持ちの良い訳がない。

 「……う~ん、困ったぞ」

 私の心の呟きは、思わず音となって漏れてしまったようだ。

 「何が『困った』んだ?」

 (――!? な、何!?)

 「……何だよ」

 「何で、シュートがココにいるのっ!?」

 鼓膜に響いた、聞き覚えのある声に横を振り向けば、秀人が私の隣に、でん、と腰を下ろしていた。

 「何で? って、いたじゃん。最初っから」

 「……部活は!? っていうか、何処行くのよ!?」

 秀人は、何言ってんだ? この馬鹿は、とでも言いたそうな顔で溜息をついてから、こう言った。

 「何言ってんだ、この馬鹿は?」

 「──くッ!?」

 「えっと、箕浦さんだっけ? さくらの友達の」

 「……すずちゃん?」

 「そう、すずちゃん。……彼女がさ、俺のクラスに走って来て『さくらが大変なの!!』って。助けてあげて欲しいって、側にいてあげてくれって涙流すもんだから……」

 (──あんのヤロウ。嘘泣きなんぞしおって!)

 うおんっ、と一度、咳ばらいで喉を調える。

 「……で、何。部活まで休んで後つけて来たわけ?」

 「んなっ!? 人聞きの悪いっ! お前が深刻そうな顔して、いつもと違うバスに乗り込むからっ!」

 「……だから?」

 「…………」

 「だから、何?」

 「な、……何って、……」

 「もしかして、心配とかしてくれちゃったりしちゃったわけ?」

 「……ッ!?」

 「ほれ、ほれ」

 「……わ、悪いかよっ!」

 「べっつにぃ~」



 ──『幼なじみ』。

 そう呼ぶほど、馴染んでいる覚えはないけれど、客観的に見ればそう見られても仕方ない程の時間を、共に過ごしてきたのは間違いないのかも知れない。

 少なくとも秀人は、私と同じ時間で動いている、そう思った。



 「──で、さくら。お前、何処向かってんの?」

 「図書館!」

 「……図書館? なんで、また」

 「自殺の真相、調べてやるの」

 「──!?」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ