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  ~霹靂~ 4. 



 ──私立桃花台高等学校。

 私達の通う学校だ。

 集落、とまではいわないまでも、車じゃないと何かと不便な所にある私の家から、毎日1時間程バスに揺られて通っている。

 学校の近くには鉄道も通っていて、生徒の多くは電車を利用しているらしい。

 バスの終着駅にもなっているこの駅は、田舎者の私からしてみれば立派に『街』で、自慢じゃないけれど、某ハンバーガーショップや某ドーナツ屋も軒を連ねており、休日や放課後には桃花台の学生たちのコミュニティとなる。さらに、なんと今月末にはあのシアトル式コーヒーショップまでもが開店を控えているのだ! これはもう『都会』と言っても過言ではないレベルであろう! ……いや、過言かな。

 バスを降り、電車組の生徒と合流して歩く事、約10分。ようやく学校にたどり着いた。

 秀人と連れだって校門をくぐると、2階の教室の窓から「さくらぁ~!」と大きく手を振る女生徒がいた。──すずちゃんだ。

 「おっはよ~!」

 私も負けじと大きく手を振り返す。

 「うわっ、はずい!」

 そう言って一歩下がる秀人に「……なんか言った?」と低い声でひと睨みくれて差し上げる。

 「シュート、先行くねっ!」

 無論、秀人に未練は皆無! 言うより早く、下駄箱までの道を走った。


 教室に入ると、窓際の席に佐穂里が座り、その机にすずが腰を下ろしているのが目に入った。ちなみに私の席は、その一つ前。

 「今日も彼氏とラブラブ登校かぁ~」

 すずは、机の上からはみ出した足をバタバタさせながら、そんなことを言う。

 ラブラブ、ラブラブ、と足のリズムに合わせ囃し立てる。──何かに似てる。……あぁ、メトロノームか。

 (──こやつ、アホなんじゃないか!?)

 たまに、いや、かなりの頻度で親友の将来を心配に思う。

 「そんな事言うの良くないよ」

 ──ぎゃっ、エスパー!?

 たしなめる佐穂里の声に、一瞬、ギクッとしたが、佐穂里の目はすずの方を見ていた。

 「ええ~? だってラブラブじゃんかぁ」

 「だ~か~ら、違うって。シュートとはそんなじゃないの」

 毎度の事ながら、そこはハッキリと否定させてもらう。

 「そんな事より、さほ! 一限の宿題見せて、英語の」

 「えっ!? 英語……の、宿題? ……そんなのあったっけか?」

 ポカン、と天井を仰ぐ親友。……すずよ。そんな染みまみれな所には、何も書かれてはいないよ。

 もう一人の親友、佐穂里は予想していたかのように「はい」とノートを差し出した。

 「わ、私も~」そう机から飛び退き、自分のノートを取りに行くすず。

 ──やはり、持つべきものは“優秀な”友達だな、と、そう思った。



 放課後になったら、元気が出る。休日の前日となれば尚更だろう。

 それは、若人ならずとも、みんなにいえる事なんじゃないかな。しがらみから解放されると、自由な空へ飛び立ちたくなるっ! などとぼんやり思いながら、教科書をカバンに詰め込んだ。

 さっきの体育の授業は、教師の虫の居所が悪かったのか、今日はことの外、走らされた。

 もう、動けない、と両足と内臓がデモ行進を繰り出し始めるも「ねぇねぇ、帰りドコ寄ってく?」の、すずの一声で、私の演算装置が高速回転で始動する。

 脳内がスイーツ画像で支配される頃、ぐぎゅるるるぅ~、と腹の虫が鳴いた。……少なくとも、私の内臓の一部は反乱を止めたらしい。

 「あ、さくらの“くうちゃん”が鳴いた~」


 帰りに立ち寄ったカフェで、私とすずはケーキセットを、佐穂里はミルクレープとアイスココアを別々で注文した。

 「なんかさ、こういう時に思うよね。私立でよかった~って」

 「……創立記念日?」

 「そう、そう! よその学生が学校行ってる時に、ウチらだけ休みってラッキーじゃねぇ?」

 「ほんと、そうだよねぇ。明日、どうする?」

 「……ん、でも、休みとはいっても基本的には『自宅学習』だから、勉強するのなら学校でみんなと一緒の方が楽しいんじゃない?」

 「ハァ!?」

 私とすずの声が揃った。こういう部分の感覚は残念ながらすずに近い、と認めなければなるまい。一方の佐穂里は“いい子ちゃん”を演じているのではなく、これこそが地であるのだから、全く頭が下がる。

 「……いや、別に。ていうか、勉強自体楽しくないし」

 「…………」

 すずはアイスティーをすべて吸い上げ、ずずずっとストローを鳴らしてから、佐穂里の肩を掴んだ。

 「さほ~、そんな硬いこと言わずにさぁ、大義名分があるんだから、どっか遊びに行こうよ!」

 ……大義は無いだろう、大義は。

 「……じゃあ、お昼からでいいなら、いいよ?」

 「真面目だねぇ~、さほったら。……まっ、どうせ午前中は寝てるからイイけどさ」

 私はカバンからピルケースを取り出し、錠剤を一粒つまみ上げると、お冷やでそれを飲み下した。

 「──さくらもそれでイイでしょ? ……って、何? さくら、風邪?」

 「ううん、違う違う。昔かかった病気のやつで、まぁ栄養剤みたいな物だよ」

 「……ふ~ん。で、どう!? 明日」

 「うん! いいよ、じゃあ1時に駅前で待ち合わせにしようか」




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