Ⅰ.~霹靂~ 1.
Ⅰ.~霹靂~
1.
(……また、あの夢だ)
ぼんやりと、まだ覚醒仕切っていない頭で記憶を辿ってみる。
何処か、無機質な部屋の水槽を覗き込む私……。
両親らしき人たちと連れ立って部屋を出て行くのも同じだ。
ひとつ溜め息をついて、枕元の携帯電話を手に取った。
《5時47分》
(……やっぱり)
目覚まし時計の代わりとして活用している携帯のアラーム機能。それより早く起きられることなんてそんなに多くはないけれど、そんな時は決まって同じ夢を見ていたように思う。
アラームを解除して、パタン、と携帯電話を閉じ、そのついでに瞼も再びつむる。
水槽の魚。
父親、母親の顔。
夢で見る、殺風景な部屋。
(……ダメだ。思い出せない)
夢って何だろう? 今、見てたばっかりなのに、どうして起きると忘れてしまうのか? もう、お父さんとお母さんの顔すら思い出す事が出来ない。
もう一度眠りについてしまえば続きが見られるのだろうか……。そんな事を思っていると、
「さーくーらぁー! 早よ起きなさい! 遅刻するに!」
お婆ちゃんだ。考えに耽っていると、思いのほか時間が経つのが早い。
「はーい! 起きてるよっ!」
繰り返す思考の淵に、漬物石がごとく強大な意志──いやっ、おやじギャグ!──をもって蓋をし、無限のループを一時中断する。
これもいつもの事だった。大体、早く目覚める時は、寝坊してるのと変わらない事態に陥るケースが多くて困ってしまう。
私の部屋は和室で、毎晩畳に布団を敷いて睡眠をとっている。ベッドがあれば毎朝畳む必要がなくて楽だな、とは思わなくはないけれど、私は畳の匂いが好きなのでその程度の面倒には目を瞑る。
部屋の仕切りも襖なので鍵もかからないけれど、この日本家屋にはお婆ちゃんと私との二人暮らしだし、プライバシーも気にはならない。
布団を押し入れにしまい、手早く夏用の制服に身を包むと、学生カバンを手に部屋を出た。