表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/27

  ~混沌~ 2.


 翌日、秀人は遥さんをつれて私を迎えにやって来た。

 家の前で停められた車のアイドリング音を耳にし、もしや、と思ったが、程なく訪れた携帯の着信音で確信に変わった。

 玄関を出ると、ブラックの軽自動車の運転席から遥さんがニッコリと手を振る。

 「おはよう、さくらちゃん」

 「遥さん! おはようございます。なんか久しぶりですね」

 車の中と外と、助手席ごしに挨拶をかわしていると、そこに座る秀人が「……おはよ。とりあえず乗りなよ」と後部座席のロックを引っ張った。

 秀人とは昨日の夜のあれ以来、口を利いていない。今日も顔を合わせ辛くて、もうひとりで街まで行ってしまおうか、と考えていた。

 私のそんな思いを見越していたのだろうか。それとも秀人自身も気まずさを抱えているのか……。

 そんな事を考えながら、私は後部座席に乗り込んだ。


 鳴沢遥。遥さんは秀人の2つ上のお姉さんで、今は隣県の〇〇市にある大学に通う1回生。

 遥さんのマイカーであるこの車には若葉マークが貼り付けられているが、毎日の通学に運転は馴れっこのようだ。

 土曜日である今日、レポートの提出の為に学校へ向かうところを秀人に捕まったのだという。

 「それで、何? ヒデとさくらちゃん、今日はデート?」

 そんなんじゃないよ、などと秀人が言いだす前に私は「そうです」と答えていた。

 秀人は驚いて後部座席の私を振り返る。

 ……もし、ここで遥さんに正直に今日の目的を告げたとする。これから自殺現場へ向かうのだ、と。それを聞いた遥さんは、きっと良い顔をしないだろう。むしろ止められてしまう可能性の方が高いのではないだろうか。

 そう思った私は、こちらを見た秀人に、話を合わせろ! とテレパシーで念を送った。

 眼力がものをいうのか、はたまた念が通じたのかは定かではないけれど、やがて、ああ、と口を動かしてから「そうだよ」と秀人は答えた。

 しかし、

 「──嘘だね」

 遥さんは前方を見たまま目をすがめて、そう呟く。

 「二人がデートだとしたら、ヒデはともかく、さくらちゃんが素直に認めるワケがない。っていう事は──」

 右にウインカーを出し、タイミングを見て車線変更を行う。アクセルを踏み込み、先程まで前方を走っていたトラックを抜き去ると、再び元の車線へと戻った。

 あのトラックの後ろには《法定速度を遵守します》そううたったステッカーが貼られていた。という事は、この車はスピード違反車っていう事になるのかな……?

 「──何か隠してる。それも、あまり褒められたモノじゃない事を、ね」

 どう、違う? とルームミラーごしに見つめる遥さん。伊達に人間心理学を専攻しているわけではないようだ。

 「ふぅー、……いえ、違いません」

 ひとつ大きく溜息をつくと、体内の圧力が低下したのか、私の体は少し萎んだ気がした。

 「──実は、……」



 1時間程かけて車は大学へと到着した。時刻はお昼ご飯には少し早い時間。

 遥さんは、ちょっとした用事があるから、と言い放つと私たちを置いて1番大きな建物の中へと消えていってしまった。

 仕方がないので秀人と二人で校内をぶらつくことにする。いくら気まずい仲とは言っても、他人の学校──しかも大学!──に置いてきぼりという、この状況の方がよっぽど気まずい。

 お互い特に会話もなく敷地内の道にそって、ただ歩いていった。

 それにしても大学ってのは、広い……。全部が全部こうであるとは思わないけれど、校舎の数が多い上に、無駄に敷地がでかい。そもそも、どうして学校内に遊歩道や芝生の公園が必要なのだろう。ほかにも本屋さんや喫茶店まである(さらには“マック”までもがあった!)。

 ベンチを見つけたのでそこに腰を下ろすと、秀人も隣に座った。

 「こんな芝生でサッカー出来たら気持ちイイだろーな」

 秀人は広場を眺めながらそう呟いた。

 ──秀人。私は“シュート”と呼んでいるけれど、本当は《秀人》と書いて《ヒデヒト》と読む。

 いつだったか小さい頃、サッカー少年だった彼は自分の名前をもじって「今日から俺のことを“シュート”と呼んでくれ!」などとほざいていた。

 たぶん恥ずかしい過去の一つだろう。

 「何、ニヤニヤしてんだよ」

 「……別に」

 どうやら思い出し笑いをしていたらしい。気をつけなければ。

 「ねぇ、私たちのような高校生のガキンチョがこんな所にいたら、浮くよね? 注意されないかな」

 「……大丈夫だろ。学生服ならともかく、今日は私服だし。それに、……ほら!」

 と、前方を行く大学生を顎で指す。

 「あの女子大生なんかも見た目凄い子供っぽいし」

 自分こそがおぼこい顔をしているクセによく他人のことを言えるものだ。

 だけど、よく見てみると、明らかに大学生ではない近所のオジサンといった風情の人──勿論、教職員にも見えない──や、犬を散歩させているオバサンなどもいる。大学というところは、案外セキュリティが緩いのかもしれない。


 遥さんと合流後、学食で昼食を摂った。

 大学の食堂では、まずお盆を拾い、調理場に沿って進んでいき、欲しい料理を選び取る、そういうシステムだった。

 しかも値段が安い! うどんとそばが150円、ラーメンでも200円、日替わりランチメニューですら350円という驚きの安さだった。

 遥さんはサラダとサンドイッチ、秀人はラーメンとご飯(大盛)、私はうどんにかき揚げを一つ乗せた。

 お会計の段になって、遥さんは「全部いっしょで」と言い、レジのオバサンに何やらカードを差し出した。

 「プリペイドカードなの。面倒だから奢ってあげる」

 「……なんか、大学っていろいろ凄いですね」

 「うん? 何が?」

 「いえ、……何でもないです。ご馳走になります」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ