表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/9

第六話 学校でアイドル業を始めるとは、珍妙な学生も居たもんだ 前編

第六話


 それは、私が数学のテストの答案を先生に持っていっていた時のこと。

「……!」

「……!」

 今は使われていないはずの古教室から、何か叫んでいるような声が聞こえた。

 なんだろう。

 私はその声がする方向に行ってみた。 

 そして、驚愕した。

 そこは、スポットライトで飾られた空間。

 何人もの生徒が叫んでいる。

 そして、マイクを持ったアイドル? のような人。


『今日も、見に来てくれてありがとう! おかげさまで、来月分の学費を払うことが出来ます! 学食でご飯を食べることが出来るのも皆さんのおかげです! それでは一曲歌います!』


 そして、生演奏とともに流れる歌声。

 歌声は透明な感じで、丁寧で上手いと思った。

 ……けど。

 ここは学校で。

 そして、今午後6時50分で。

 先生に見つかったらシャレでは済まされない状況。

 色とりどりの光るスティック(工事現場で車の誘導をする人がよく持ってるアレを小型にしたようなもの)をぶんぶん振りながらアイドルを応援してる生徒。その応援に応えて熱唱するアイドルと、演奏をするバックバンドのお兄さん方。


 私は何らかの巻き添えになる前に、この場から退散した。



 昼休み部室でパンを食べていた部長に、前日の謎のライブについて聞いたところ、

「ああ、それは2-Bの倉下えみさんでしょう。何でも倉下さんはアイドル業だけで学生生活を送ることが可能なのか? と突如思い立ち、結果今の姿に至ったらしいです。実際学費は全てライブやグッズの売り上げ等々だけで納めているみたいですよ。不思議な方です」

「はあ……何だかバラエティー番組の企画か何かみたいですね」

「でも彼女は至って真面目に活動を行っているようで、女性ファンも居らっしゃるみたいですね。……香奈恵さんも、アイドル業に興味を持ちましたか?」

「いえ、私は別に……」



 2-Bに、とある先輩に借りていた鉛筆を返しに行った時。

 一番奥の席が、ふと目に入った。

 机の周囲に赤、青、黄色の豆電球が取り付けられ、ピカピカ点滅して光っている。さらにその席に座っている生徒の制服には、まるで特注のような、ギンギラギンででもさりげない加工がほどこされている。

 私はこの非日常を目撃し、一瞬周囲を見た。

 周囲では、生徒が何も気にしていない風で休み時間を謳歌していた。「今日の弁当何かなあ」とか、「昨日のドラマ、涙腺が思わずゆるんじゃったよ」とか。

 私は非日常を日常として受け入れている2-Bというクラスを何だか不思議に感じていると、突然、、その少しエキセントリックな席に座っていた生徒がガタッ!! と勢いよく立ち上がった。

 そして、こちらに向かってくる。

 その生徒は、私の目の前に立ち、言った。

「CD売るの手伝って」

 ……え?

 やっと気づいたが、彼女は以前見かけたライブのアイドル(?)の人、倉下えみさんだった。



 倉下先輩と私は2-Bの教室を出て、廊下を歩いていた。

「なぜ私なんでしょうか?」

 私が言うと、

「なぜって……そりゃあ、キミが部活の後輩だからだよ。後輩は先輩に尽くす、そして先輩は後輩にささやかなれどお返しをしてあげる、それが社会の掟ってもんだよ」 

「後輩? ……って、ええ!? そんなまさか!? 先輩もあの名前のない部活の部員だったんですか!?」

「……その驚き方、何だかひっかかるなあ。ともかく、今人手が足りないんだよ。CDとグッズの売り上げを伸ばしていきたいしね。ゆくゆくは教室だけじゃなく公会堂とかでコンサートもしたいし……」

「……先輩はなぜ、アイドル活動を始めたんですか?」

「特に理由なんてないよ。学費を自分で納めたいなあ→アイドルはビッグになればお金が稼げるらしい→じゃあアイドル業だ! そんな感じかなあ」

「結構適当なんですね」

「まあね。じゃ、早速お昼休みから行動開始!」

 倉下先輩はエネルギッシュに言った。



 お昼休み。

『倉下えみ 待望の3rdシングル「星空のほほえみ」発売中! 1枚500円! 購買のパンやおにぎりと一緒に買えば50円引きでおトク!! グッズも見ていってね!』

 購買部の前に立てられた販促用の旗(演劇部の大道具係に作ってもらったらしい)。そして、私は『倉下えみ応援隊』とのハチマキをしめて売り子をすることになった。

「どう、気分は?」

「じゃっかん羞恥心で逃走したい気分に駆られています」

「絶好調!? それは頼もしいね!」

 倉下先輩はポジティブに言った。

 私はこれからどうなるのだいったい、と思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ