第五話 人生もゲームみたいなもんさ、そうだろう? と居酒屋でどこかのおじさんは語った
第五話
昼休みの部室。
『ちょっとAAAと試合しにアメリカまで行って来る。フロリダのおじさんに恩返しをしたいんだ』
???
私は大輝先輩のこの置き手紙を見て、目が点になった。
「突然ですが、ゲームをしたくありませんか」
昼休みの途中で部室に入ってきた部長が言った。
「ゲームですか……ゲームは、時々そこの大きいゲームをプレイしてますし」
私は、部室の一角を占めている業務用ゲーム機(格闘ゲーム、ストリートパンチパーマ2)を見て言った。
ゲームセンターで不要になったものを譲り受けたらしく、お金(¥10)を入れると起動する。そして入れたお金は部費の一部になっているんだとかなっていないんだとか。
「それよりもっと面白いゲームを置いてある場所があるんですよ。学校から歩いて15分くらいのところに」
「はあ、まあ、暇ですし……放課後でしたら行ってみてもいいですけど。あとところで、机の上に置いてあった大輝先輩の置き手紙って一体何だったのでしょうか」
部長は少し思案した後、思い出した、という表情で、
「ああ、大輝は知り合いのおじさんの草野球チームが大リーグ傘下のチームと親善試合をするので、その助っ人に行ったみたいです」
「……申し訳ないですけど、草野球チームとプロとの試合じゃ、ぼこぼこになっちゃうんじゃないでしょうか」
「まあそうでしょうね。ですが、大輝ならフロリダのおじさんにヒット1~2本打たせるくらいのことはしてくるでしょう。大輝のバッティングとアドバイスのセンスは非凡なものがありますし」
「はあ……。そんなに野球が上手いなら、なぜ野球部に入らなかったんでしょうか?」
「大輝いわく、『めんどい』そうです」
「めんどい、ですか……」
私は、世の中には色々な人が居るのだな、と思った。
放課後。
「ここがゲームが置いてある場所です」
学校から歩いて15分、安アパートの地下。
『ひみつ☆ゲーム研究室』とマジックで無造作に書かれた表札がぶら下がっている時点で、若干うさんくさいオーラがした。
「さあ入りましょう」
「あの、わたしそそくさと帰宅してもいいですか」
「ゲームプレイモニター料として謝礼は払いますよ」
「喜んで行きます」
私は言った。
中は小規模な個人経営ゲームセンター並に広く、さまざまなゲーム機が置かれていた。
「へえ……、いろんなゲームが置いてあるんですね」
「これはどうですかね」
部長はひとつのゲーム機を指差した。
それは、ごく普通のUFOキャッチャー……
と思ったのだが。
「あの……中に42型プラズマ液晶TVとか、折りたたみ自転車とか、アームでとてもつかめなさそうなものばかり入ってるんですけど」
「面白そうなので入れてみました。加えてアームのパワーを貧弱にしてありますので、儲かりますよ」
「……色々な意味ですごいです……」
「次はこちらです」
部長は、次にテーブル型のゲーム機を指差した。
機械の見た目は、一時喫茶店に置かれていたイ○ベーダーゲームのような形をしているが、ゲーム画面には「居酒屋ゲーム」と表示されている。
そして、謎の透明なボックスがテーブルの横にくっついている。
「このゲームは、例えば画面をタッチしていき、焼き鳥の絵柄のボタンを押して、コイン投入口に代金の200円を入れるとテーブルに設置している透明なボックスから焼き鳥が出てくるのです。さらにハイボールと押して200円を入れると、ハイボールがやはり透明なボックスから出てきます。一風変わったゲームだと思いませんか」
「あの、」
「なんですか?」
「これって、ゲームというか、自動販売機ではないでしょうか?」
「……ああ!」
部長はポン、と手を叩いた。
「そうか、だからこれはゲームセンターに売れなかったんですね! 盲点でした!」
「……コレ、売ろうとしてたんですか……」
「コンピューター研究部の方に作ってもらって、さらに売った利益で第三部室を作ろうとしていたのですけれどね。過去のいい思い出です」
「はあ……」
「それでは、次はこちらなんかいかがですかね」
部長は格闘ゲームの筐体を指差した。
ここまで見せてもらったゲームの経緯から考えると、一筋縄ではいかないもののような気がする。
「……リストバンドと、それをつなぐケーブルみたいな線がゲーム筐体から伸びてますね」
「とりあえずそれを手首と足首につけてみて下さい」
「はあ」
私は手首と足首にリストバンドをつけてみた。
そして、プレー開始。
『アタタタタ!』
私は、敵キャラの攻撃を受けた。
と、足に鈍い痛み。
「キャラがダメージを受けると、現実の肉体にもリストバンドを通して相応のダメージが来ますから気をつけて!」
私はその声を聞いた瞬間、リストバンドを脱ぎ、投げ捨てていた。
次の瞬間、リストバンドが「グゲギギィィ」という音を立てて潰れる音。モニターを見ると、敵キャラが私のキャラをボコボコにしているところだった。
「ああ、そのままプレーしていればリアルで面白かったはずですのに」
部長は残念そうな顔をしていた。
「冗談じゃありませんって! なんか工事現場で鉄をひん曲げているような音がリストバンドからしましたよ!」
「まあ、普通リアルで格闘したらそれくらいのダメージはあるでしょうからね。現実に忠実なダメージを、という点がこのゲームのウリでして」
「ちょっとリアルすぎます……」
「この『リアルダメージシリーズ』は、格闘ゲームの他にレースゲームバージョンもありますよ。プレイしますか」
「ゲームでケガの可能性を負いたくないので結構です」
私は力強く言った。
そしてその後も、最新の美麗グラフィックを使用してキャベツの千切りをするだけのゲーム(1回100円、綺麗に千切りが出来るほど高得点)とか、景品でガソリン3リットル(ハイオク)が出てくるルーレットゲームとか、ちょっとよく分からないというか、端的にいうとちょっと頭おかしい系のゲームを味わった。
そして、ゲームを終えて建物を出たころにはすっかり日も暮れていた。
「では、ゲームモニター料の薄謝です。頂いた意見を活かしてさらにイカしたゲームを作ってもらおうと計画しています。ふっふっふ」
部長は私に図書券を2千円分くれた。
「なんだか、薄謝と引き換えに脱力感を大量に味わったような気が……」
「実は売れ筋ゲームも部屋の奥のほうに一応置いてあるんですけど、それだとあんまり面白くないですしね」
部長の考え方は変わっている、と思った。
そして次の日の朝大輝先輩からは、「AAAのピッチャーから点を獲ったどー! フロリダのおじさんも4打数2安打で朝まで大騒ぎだ! チームは104-1で負けたんだけどな! ガッハッハ from amerika←(字が間違っている)」という興奮冷めやらぬ感のメールが来ていた。