第四話 諸葛亮孔明的部費の仕入れ方
第四話
いざ入部したはいいものの、する事がない。
部長さんに聞いたところ、この部活では何でもしていいそうだ。
私はなので、授業が終わった後はひたすら部室で怠惰に過ごしていた。
マンガを読んでみたり、冷蔵庫の中をあけてみたり(冷蔵庫の中には「デポビタンE」というパチものまがいの栄養ドリンクやらジュースやらがいろいろ入っていた)、ゲームを少しやってみたり。
しかし、暇なものだ。
現在、午後4時。
空は、青空。
仕事がある方は、まだ働いている時間帯だろう。
それに引き替え、高校生とは……。
と、部長さんが部室に入ってきた。
「こんにちは、新入部員の江川香奈恵さん。部活はどうですか? ……といっても、まだ一週間しか経っていませんが」
「……なんというか……暇ですね」
「まあ、この部活はほかの部活と違って大会入賞目的とか、そういうのはありませんからね。もっとも、作ろうと思えば作れないこともないのですが。過去の部員では国際爆弾解体コンクールで3位に入った部員も」
「国際爆弾解体コンクール!?」
「あとは、IKS:Hで準優勝とか……」
「IKS:H?」
「International Kakurenbo Stage : High(国際かくれんぼ大会 難易度 高)です。前年はJapanのNarakenで開催されました」
私はひどく脱力した。
「ところで、もし普通ではないものを見たいのなら、案内しましょうか?」
「普通ではないもの?」
「はい。この部活の部費にも関わってくる重要なものです」
カキーン!
市営のグラウンド。
そこでは、草野球が行われていた。
「野球は普通のスポーツですよね」
「それが、ちょっと違うんです。……次のバッターを見てください」
部長さんが言ったので見てみると、次のバッターは、前に部室で会った小学生、もとい小学生の風貌をした高校生の先輩だった。
……ややこしいなあ。
「もしホームランを打てたらボール50個我々がもらえます。が、もし打てなかったらグラウンド整備、ボール磨き、ユニフォーム洗濯を一ヶ月です」
「え、それってかなり分が悪いんじゃあ」
「ふつうの場合はそうですね。でも、彼の場合は……」
次の瞬間、カキーン、と小気味よい音がして、ボールがレフトスタンドに飛び込んだ。
文句無しのホームラン。
「ちょっと違いますから」
部長さんは言った。
「これで、新品のボール50個入手です。これをあれやこれやとわらしべ的に交換していくうちに、部室の備品が豪華に増えていくというからくりです。部費はゼロですが、案外何とかなるものです」
部長さんはクスっと笑った。
この人は策士だ。
私は思った。
そしてさらに。
「あ、ちょっとすみませんがタイムです。もし大輝くんが次の打席でもホームランを打てたら、ボールをもう50個追加で頂けますか? もし打てなかったらさっきのボール50個分は無しでかまいませんから」
部長さんが言うと、相手チームがひそひそ相談を始める。
『今のはラッキーパンチだって。小学生が二連続でホームラン打てっこない……』
それが聞こえるような結構大きな声だったので、大輝先輩は顔を紅潮させて怒っていた。
「2倍賭けしちゃって、いいんですか?」
「いいんです。仮に打てなかったとしても損害はありませんし、打てたら新品のボール100個が手に入りますし。物事はすべてケ・セラ・セラですよ」
その数分後、大輝先輩はライトスタンドにホームランを打った。
「大輝先輩、すごい」
「まあ、大概のスポーツの助っ人には大輝くんは必ず顔を出しますから。トレーニングもしてますし」
部長さんはかんらかんらと笑った。
すると、
ぎゅむぅぅ、というクツが踏まれる結構痛そうな音。
隣には、大輝先輩が居た。
「ほら、人にばっか働かせてないで、賞品のボール100個さっさと運べ」
「わかりましたからクツをぎゅむぅぅっと踏むのはやめてください……結構高いんですから、これ……」
中村部長はそう言って涙目をしていた。