第三話 小学生的高校生、大人的高校生
第三話
私は呆然としていたが、ふと思った。
……このまま呆然としていたのでは、今までと同じ普通の人間だ。
……ここは一つ、悠然と構えてあたかもこの部屋の住人の一人だったかのように振る舞おう。
それでこそ、「普通」を越えて、ディスティニー(運命)の先にある「何か」に一歩近づくというものだ!
私は、人に聞かれたら「あの人ちょっと一般人という名のレールを踏み外してるんじゃあ……」とか「率直に言うとア○。率直に言わなくても○ホ」と言われてしまいそうなことを考えていた。
それで、私は近くにあったマンガを取って、さも自分の所有物であるかのように読みはじめた。
すると、ガチャリとドアが開く。
さっきの小学生(?)の子が帰ってきたのだろうか。
「あれ、大輝は今日は居ないんですか? 珍しい。いつもなら格闘ゲームで107連敗くらいして怒りを充満させているころだと思って、ミセスドーナットのドーナツを買ってきてあげたのですが」
さっきの小学生の子とは声質が違う。声が低く落ち着いていて、大人びている。
私がマンガから目を離すと、
目の前には長身で、口元に微かな笑みを浮かべている、穏和そうな男性が居た。教育実習の先生と言っても過言ではないかもしれない。
というか、部室でマンガを読みまくっている状況で先生はまずい。
「あ、先生、これは何かの間違いで……マンガを学校で読むなんて、なんてけしからん生徒なんだ。私はそんな生徒を断じてゆるすことは、で、できない……」
私は、手に持ったマンガと自身が無関係であることを必死にアピールしながら思い切り挙動不審な態度でその男性に話すと、その男性はクスっと笑った。
「はは……。私は先生ではありませんよ。よく間違えられるのですが、れっきとした高校3年生です」
え。
私は2度目のびっくりをした。
高校に小学生が居ることといい、成人男性風の高校生が居ることといい。
「ところで、先ほど見た目がまるで小学生のような男子生徒を見ませんでしたか?」
「……え、ひょっとしてあの子……いや、あの人って高校生なんですか?」
私が言うと、その男性は当然のように、
「ええ。高校2年生です。彼は見た目が幼いから女生徒からよくからかわれてしまうんですよね」
その男性は、困った素振りをみせた。
だが、口元に笑みが浮かんでいるあたり本当は面白がっていそうな気もしないでもない。
「では、私はこれから彼を捜しにいかないといけませんので。彼を今日の午後5時までにつかまえないと物損が発生してしまうので。……では」
その男性は言って、部屋を出ていこうとした。
私はその腕をつかんだ。
「……あの、どうしたんですか?」
「私をこの部活に入れて下さい」
私が言うと、彼は優しく微笑んで、でも目つきはやや真剣で、
「……動機はなんですか?」
私は空気を一度深く吸って、そして吐いてから、
「……ふつうから脱却したいからです。ここには、ふつうじゃない何かがある気がしたから。そんな理由じゃだめでしょうか」
私が言うと、その男性は部屋から出ていくのをやめ、
「わかりました。それでは、今日からあなたはこの部活の一員です。私の名前は中村創意治。この部活の部長です。よろしくお願いします」
「……あの、この部活の名前は?」
「名前は……ありません。強いて言うなら、以前数学の先生が、『おまえたちの部活は名前のつけようがない』とおっしゃっていました。なので、設立してから名前はないのです」
それを聞いて私は、とんでもない部活に入ってしまったな、と思った。
後戻りはもう出来ない。
でも、これでいいのだ。
……いいのか?