【詠龍譚】ナマクラの名剣
刀鍛冶は困っていた。まさか自分が天下一の名匠と呼ばれるようになるなんて。
元は戯れにと作った大剣だ。デカすぎて、誰にも振るえるわけがない。そんなだから剣としての作りも甘い。祭りの飾りにと作っただけの、単なる鉄の棒だ。
ところが祭りにフラリと立ち寄ったのは、剛力無双の勇士。彼は祭り屋台に飾られた大剣を一目見るなり
「気に入った、もらってゆくぞ」
と持っていってしまった。
そう、刀鍛冶が冗談で作った大剣を、くだんの勇士は軽々と振るえたのだ。
それからというもの、勇士は西へ東へと、縦横無尽の大活躍。邪竜を退け、囚われの姫を助け出し、とうとう魔王を倒してしまった。
もちろん勇士の傍らには例の大剣がある。剛力の持ち主が剛剣を使うのだ。そりゃ強いに決まっている。
おかげで大剣は魔王を倒した名剣と呼ばれるように。男も名匠と呼ばれるようになってしまった。
男は恥ずかしくて叫びたい。あんなの名匠の仕事なんかじゃない。そもそも俺の鍛刀仕事など、半端もいいところ。大した腕じゃないのは自分でも知っているのに。
というわけで男の元には剣を作ってくれという依頼が殺到しているが、ずっと断り続けている。大した剣を作れないのは自分でわかっているからだ。
おかげで「あの鍛冶屋は認めた者にしか剣を作らない」なんて噂を流され、男はさらに頭を抱えるのだった。




