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ざまぁ系

【SS三作追加】貴方は「なんでもいい」と言うけれど。

作者: しぃ太郎
掲載日:2026/08/02

本編後のSSを三本追加しました。



「別に、なんでもいい」


 そうやって小さな男の子は肩をすくめた。

 え、お友だちを選ぶ場所だよね??

 私は、思わずキョロキョロと辺りを見渡した。

 この場の他の子も、同じように戸惑っているようだ。

 あ、私だけじゃないんだ。

 ホッとしたのも束の間――。


「あ、君。今日誰からも話しかけられてなかったよね?」

「……!そ、そんなことな……」


 何人か話しかけてくれていた。

 しかし、その男の子――ダレンは、私の言葉を力強く遮って言った。


「そんなことない?そう?そんな、いかにも“数合わせ”みたいな君が?……君の名前、なんだっけ」

「……ミリアだよ」


 彼の家はそれなりに有名な一家だ。

 でも、うちだって、周りの子だってみんな同じくらいなのに。

 なんでこんなに、私のことを色々言ってくるの。

 もうやだ、逃げたい。


「うん、ミリア。君はどう思う?僕は、子どもを押しこめてどうぞご勝手に仲良くなってね!って今の場所が大キライだ」

「……すごいね。でも……」


 私は、さっきの子の方が話しやすい。

 なんてさすがに言えないかも。


「だから、何でもいいや」


 ――そうやって、十歳のお茶会で軽く決められた婚約者が私だ。


 それが今も私とダレンを繋いでいる。

 あと半年も経てば学園も卒業し、正式に社交界へ飛び込んでいく。


「ミリア、俺の課題は決めてくれた?」

「……あ、うん。一番効率いいのが自主創作系かなって……」


 試験以外で大きく点数を稼げるため、自主創作は人気がある。


「最近、自分で衣装に手を加えるのが社交界の流行りだし」

「はん!馬鹿馬鹿しい。王族の方々の真似をして、自分まで特別になったつもりか……。素人なんて、二流品しか作れないのにな」


 ダレンはそれを鼻で笑った。


「でも、役に立つよ……。話題が広がるし、交流もできる……」

「交流?そんな奴らと?時間を取られるだけだよ。一流品は元々一流だから価値があるんだろ。もっと他にないのか?」


 課題の提出や、こうした制作物くらいしか、私は彼を手伝えない。

 留年なんて家の恥だ。

 二人でなんとか卒業しなければ、社交界で辛い思いをする。


 あとは試験を受けるしかないけれど――。


「ま、自主創作でもいいや。ミリアに任せた」

「……衣装の一部だけでも、一緒に決めよう?」


 横から大きな溜め息が聞こえ、思わず肩が跳ねた。


「そんな下らないものに時間かけたくない。何でもいいって言っているだろ」

「……うん」


 ダレンは私を置いて、早足に校舎へ向かっていった。

 その背中を見つめる。


 制作課題なら、私一人でも二人分やれるかな。

 うん。二人分でも、なんとか出来るかも……。

 でも、ダレンにまた却下されたら一からやり直しだ――。


 またやり直し――。

 そういえば……。

 ふと思い出し、視線を落とす。

 そこにはいつもよりも膨らんだ鞄が見えた。


 ダレンに突き返された刺繍入りハンカチ。

 私は、彼への“誕生日プレゼント”が入った鞄を抱きしめる。

 あーあ。

 本を見ながら刺繍のデザインにも拘った。

 彼の好きなモチーフやデザイナーを参考に、手作りしてみたけれど。


 ……やっぱり受け取ってもらえなかった。

 慰めにもならないや。


「お母様がラッピングまで選んでくれたからな……。これ、どうしようかな……」


 家族へ報告するのも気が重い。

 何年もダレンの好みが分からない。

 “何でもいい”――。

 それは、なんて難しい言葉だろう……。



 ◇◇◇



 今日もダレンの課題を写していた。

 前にダレンから、私のノートは読みやすいと言われたことがある。

 最初は嬉しくて始めたのにな……。

 ふと、この先四十年以上もダレンと歩むのだと思うと、目の前が真っ暗になる。


 でも、本音を言うと家族をがっかりさせちゃうかな……。


 何でもいい……か。

 ダレンは凄い。私には言えない言葉だ。

 ぼんやりと見上げた先には校舎があり、見慣れた窓に人影が映っている。

 ああ、私のクラスだわ。

 文化祭に向けて、活動的な生徒は今日も話し合っていた。


 ――いいな。私も……。


 その声を聞いて、感情のまま口を開いてみたけれど、その先が続かなかった。

 楽しそうな声だなぁ。


 私が、あの場に入れるわけがない。 

 “ミリアもそう思うよな?”と聞かれるたびに、頷いてしまっていた。

 それは、彼らの時間を馬鹿にしている。

 胸がいつも痛んで、どんどん鈍くなっているみたいだ。


 ダレンは、学園の催しや共同作業をいつも冷ややかに笑う。

 最初はダレンの鋭い発言へ驚き、でも段々と居場所も空気も失っていった。


 ――どこにいても息苦しい。

 もう、今更だわ。

 誰にも興味を持たれない、教室の隅で縮こまっているだけの存在。

 今日だって、一日中声を出せなかった。

 いつから?そんな事も、もう忘れてしまった。

 せっかく話しかけてくれても上手に返せない。

 そんな私が、彼らの中に入れるはずがない。


 ――ミリアは興味ないよな?―― 


 ダレンの声が聞こえた気がした。


 手元に視線を落とす。

 そこには二枚の紙が、本の隙間に挟まっていた。


『辞退書』

『文化祭・申し込み書』


 でも、ダレンも「私に任せる」って言っていたわ。

 一度くらいは参加してみたい。

 どうだろう、やっぱり変かな……。


『でも、みっともないだろう?たかが学生の催しで……』

『みんなよく頑張るよな。なあ、ミリア?ミリアだってそう思うだろ』


 どういう意味なの?

 そんな質問さえ怖いわ……。


『そうだね……。本職に比べたらね……』

『……うん。ダレンの言うとおりだね』 


 思い出すのは、今朝の会話だった。

 また失敗した。

 いつもこうやって答えに詰まり、彼を困らせてばかりいる。

 ダレンの溜め息を聞くのが怖い。

 手元にある紙から視線を外し、もう一枚の紙に目を向ける。


『文化祭――衣装デザイン部門――』






「好きって、なんだっけ……」


 あ、そうだ。街で買ったアヒルの小物。

 幼いころは、かわいくていつも持ち歩いていた。

『アヒルは道化役が多いのに?』 

『そんなものが好きなの?』

 ダレンに言われた翌日、私は引き出しの奥にしまい込んだんだった。


 否定されるくらいなら口に出さなければいい。

 でも、無難にしてもダレンに文句を言われるわ……。


 私って……何が好きだったっけ……。

 遠くから、賑やかな教室をただ眺めた。


 あぁ……そうだ。


「お姉様のベールだ。あれをアレンジしたのが始まりだった……」

 

 だから私は、衣装のデザインに興味を持ったんだった。


 外にいたはずなのに、いつの間にか教室の前に立っていた。

 考え事をしていたせい?

 どうしてここに来たのか、自分でも分からない。


 扉一枚隔たれた向こうでは、賑やかに相談する声が漏れ聞こえる。


 少しだけ覗いてみたい。

 あんなに楽しそうに、意見を言い合えるものなの?

 駄目出しだけじゃないの?


 でも……。

 駄目だ。あと一歩が踏み出せない。

 指が震えてしまい、扉へうまく伸ばせない……。

 数秒間、何度も頑張ってみた。


 ああ、やっぱり無理だ。


 振り向きざまに、逃げるように走り出した。

 散々ダレンに同調して、私もひどい言葉に頷いていたのに。


 都合が良すぎるでしょう?


 だから今さらだ。

 そんな私が、そんな中に入れるはずがない――!


「……きゃ……!」


 その時、目の前の誰かとぶつかった。


「……ミリアさん?」


 あ、この声は、クラスでも目立つ彼女だ。

 いつも自信に満ちて笑っている気がして、私はずっと苦手だった……。


「ごめんなさい……!」


 気まずい空気に負け、その場を立ち去ろうと視線を落とした。

 すると、散らばった紙の束が目に入る。


 あ……!しまった!

 こんな時に、こんな失敗を……。

 デザインノートを落としていることに気づき、慌ててしゃがみ込む。

 恥ずかしい。

 あれには、衣装のラフが挟んであるのに……!


「えっ、いいじゃん!かわいい!」


 彼女が拾い上げたのは、男女で揃える衣装のラフだった。

 “かわいい”

 ――え、聞き間違い……じゃないよね?


「あ、ありがとう。えっと、レイナさん。……でも、男性の衣装はあまり詳しくなくて。そんなに見られると、ちょっと……」


 恥ずかしくて、顔を上げられない。

 見られちゃった。

 でも、褒めてくれた?

 どうしよう、嬉しい……。


「あーー、わかる、わかる!ちょっと待ってね……ケイン!自称新進気鋭のデザイナー!アドバイスしてあげてよ〜!」


 彼女は気軽に教室の中へ声をかけてしまう。

 慌てて止めようとすると、レイナさんと目が合った。


「ミリアさん、いつもうるうるした目でこっちを見てたから。ふふ、一回くらい入ってこない?」


 彼女は悪戯っぽくウィンクした。

 え、本当に……?

 まだ信じられない。


「ったく、レイナはいつも人任せだな。……うーん。揃いの衣装なら、男物は少し引いた方がいいかな。デザイン見せてみて」


 え……。いきなりの事で驚いていたら、いつの間にか手を引かれ、私は教室の敷居を一歩跨いでいた。


 ◇◇◇



 ――本番当日――


「あのね、これ、今日の衣装なんだけど……」


 あれから何度もアドバイスをもらい、ようやく形になった揃いの衣装を手に、ダレンへ話しかけた。


「あぁ……ミリアに任せたんだから、こっちに聞くなよ。しかし学園祭ねぇ。本当、素人臭くてぱっとしないよな」

「あのね……!課題発表会の手順については……」


 彼は私の言葉に、煩わしそうに手を振る。

 毎回最後まで聞いてもらえない……。


「大体はわかってるってば。それに、任せるって言っただろ?しつこいな」


 ダレンはいつも通り、やる気がないらしい。

 それは予想できていたけれど、まだ大事なことを話せていない。

 今回は揃いの衣装を着て、二人でステージに立つことになっている。

 そのために、男性用の衣装も用意してあるのだけれど――。


「先生に着せて見せるんだろ。分かってる、何でもいいよ。どうせ期待もしてないしさ。発表する時に見る」


(違う……。今回は、ペア衣装を着てステージに立つ課題なのに……)


「……うん。わかった」


 結局、衣装のことも伝えられなかった……。

 どうしよう。

 大丈夫かな。

 本番が近づくほど、どんどんと不安が胸を圧迫していった。



 ――発表会直前――


「うわ……。ステージに立つやつだったのか?」


 ダレンは用意した衣装を広げ、舞台へちらりと視線をやった。

 すぐに苦々しく顔を歪める。


「しかも、こんな服を着てあそこへ立てって?俺には無理だ……恥だろ、こんなの」


 溜め息とともに、衣装を私に突き返した。


「これ、二十年前に流行ったやつだろ」


 ……うん。でも、最近流行りだしているの。

 ねえ、これね、実はあなたの瞳を引き立てるように――。


「その色、普通はこの色に合わせる」


 はくはくと口だけ開けても、出てくるのは空気だけだった。

 違うの、ピンポイントで色を置いているのよ……。


「シルエットも最近の流行と真逆だ」


 もう、やめて。

 ごめんなさい。これ以上は聞きたくない。


「なぁ……そう思うよな?」


 ダレンの友人たちがくすくすと声を漏らした。

 彼らはいつも、ダレンに合わせて笑う。

 その笑い声を聞くたび、昔の声まで耳の奥に蘇ってくる。

 今まで彼らの輪に馴染もうと、必死に頑張ってきたけれど……。


 ぎゅっと目を瞑り、守るように衣装を抱きしめた。


 周りから、ダレンの意見に頷く気配がする。

 何人?

 ……そんなことは分からない。

 でも、この場の全員から笑われているような気がしてしまう。


 他の生徒からも、かすかに息が漏れた気配がする。

 嫌だ、笑われたくない。

 そしてそれ以上に、この場で注目を浴びるのが怖かった。


 色が悪かったかな……。

 やっぱりもっと流行を勉強するべきだったかも。

 そもそも似合っていないかも……。


 逃げたい。

 みんなが見ているこの場から、すぐに消え去りたい……!


 それでも。

 僅かな希望にすがって、ダレンを見る。


 ――今だけは、手を伸ばしてくれるかもしれない。


 しかし、彼を見上げると一枚の紙がヒラヒラと舞った。


『辞退書』


「ミリア……。辞退したほうがいいぞ。俺はそんな君と並びたくない」

「……ご、ごめんなさい。いつもこういう時に勝手に動いて……」


 声が震えるのを、ぐっ、と堪えて頭を下げる。


 その途端、周囲がざわめいた。


「……何様?」


 声を上げたのは、舞台袖で出番を待っていた出場者の一人だった。

 あ……。

 私の相談に乗ってくれたクラスの子たちも居たんだ……。


 そう言って、その人はダレンに向かって一歩踏み出した。


「そこまでにしてもらえますか。そのデザイン、みんなで意見を出し合ったものなんですけど?」


 あ……。

 本当だ。彼女とはドレスのシルエットについて話し合った。


「……彼女も一生懸命作っていたのに……」

「あの方、一度も顔を出しませんでしたね……」


 他の人も、お互いの作品について感想を言い合った。

 私も、初めて自分の意見を褒められたんだ。


 ダレンは、顔を引きつらせて視線を泳がせた。

 どちらにしろ、ダレンが出場しないならここまでか――。


「じゃあ、私が着るよ!これ、シルエットが繊細に作ってあるじゃん。背が高い私ならピッタリだよ」


 その時、レイナさんの明るい声が、この重苦しい空気を壊した。


「……え」


 思わず、ポカンと口が開いてしまう。


「はあ?女が着るのか?まったく理解できないな」


 ダレンがまた、嘲るように口を挟んだ。

 しかし、そこにいつもの余裕はなかった。


「……レイナさん、いいの?」

「うん。だって、私が選んだ!気にしないで。それに、レイナって呼んで!今日のパートナーでしょう、ミリア」


 レイナさん……レイナが、私から衣装を受け取り、目の前に広げた。

 それをまじまじと見て笑った。


「うん!着てみたい。私、格好良くなっちゃうかも!」

「……ありがとう」


 その言葉に、思わず視界が滲んだ。

 プロの作品じゃない。

 でも、どうやったら着る人を魅力的にするか一生懸命考えた。

 レイナが着てくれるなら、全部全部無駄じゃない。


「……おい。ミリア、待て」


 ダレンが私の腕を掴んだ。

 久しぶりに、こんな近くで彼の顔を見る。

 いつも自信に溢れていたダレンの瞳は、こんなに忙しなく動いていたっけ?


「……私は辞退しません」

「……なっ!」


 彼の指をそっと引き離していく。

 あれ、思った以上に簡単だ……。

 私は――。

 私は、なぜダレンの意見ばかり聞いていたのかな。


「時間がありません。ここで答えてください」


 ――ぜひ、いつものように。


「……いや、だって。ほら、なあ!?」


 ダレンが、周囲へ助けを求めるように視線を巡らせた。

 でも、誰も彼を見ない。

 俯く人。隣の人と気まずそうに顔を見合わせる人。

 いつも一緒に笑っていた友人たちまで、黙り込んでいた。

 ……誰も、頷いてくれないみたいだ。

 

 そろそろ、順番が回ってきてしまう。


「ミリア!そろそろお互いに着替えないと」

「……うん」


 レイナが声をかけてくれ、私も頷いた――その時。


 ダレンは、ばっ、と地面に伏せた。


 ――え?


 周りを見ても、唖然とした顔で彼を見ている人ばかりだ。

 ダレンは地面に伏せたまま、私ではなく、周囲に向かって声を張り上げた。


「すまなかった、違うんだ……!そんなつもりじゃ……!俺は、みんなの作品を……!」


 ダレンの言葉が、私を素通りしていった。


 ……すまなかった。

 違うのよ、ダレン。

 その言葉で、わかってしまった。

 貴方は最初から、私を見ていなかったんだ。


 それにね、私は謝罪がほしかったわけじゃない。

 さっき周囲に笑われた時に、手を差し伸べてほしかっただけなの。

 背中で庇ってほしかった。

 ううん。

「もうやめろ」って、一言だけ言ってほしかった。


 でも、もう遅いみたい。

 今、私の中に残っているものは何だろう。


 彼への期待?

 ……違う。

 まだ上手く言葉にできない。

 けれど、それはきっと“私自身”の叫びだ。


 結局衣装も着られず、辞退もできなかったダレンを置いて、私は一歩踏み出す。

 目の前で、レイナが手を差し伸べている。


「時間切れです。選ぶって、実はタイムリミットもあるんですよ」


 レイナの手を取る。


「じゃ、行こうか?」

「……うん。レイナは格好いいね」

「あはは! 今日一番の褒め言葉だね」


 ――もう、決めた。

 今の私は、貴方を選びません。


 

 ◇◇◇

 

 おまけ。

 ――後日談SS――


 ☆SS① レイナ&ミリア(本編直後)


 ダレンに用意した衣装なのに、レイナが着るとまた別物だった。


「……う、うわぁ!レイナ、足がすごく長い!スタイルがいい」

「あはは!だよねぇ?私もびっくりしちゃった。……うーん、髪はどうしようかなぁ」


 レイナは自分の明るい金髪を一房つまみ上げた。

 癖もなく艶があり、とても美しい色だ。


「これなら、緩く纏めて垂らしたほうがいいよ!嫌味じゃない色気が出ると思う!」

「……ふふふ。ようやくミリアが笑った。やっぱり、女の子は明るい表情が一番だね」


 レイナが私の頬を軽くつねると、周囲からひときわ高い歓声が上がった。

 その日、誰よりも女生徒たちの黄色い声を浴びていたのはレイナだった。 


「……参ったね?」

「ふふふ。実は予想してたでしょ?」


 レイナは一瞬だけ目を丸くして、破顔した。


「うん!だって格好いいでしょ?」

「うん。格好いい」


 ミリアは思わず吹き出した。


 ◇◇◇


――SS ② ダレン編 隣に話しかける癖は……。――


「なぁ……ダレン。あの時は……」


 いつものメンバーで集まっても、討論も何もなかった。

 今では、“人を貶す集団”だなんて呼ばれている。

 違う。

 俺は、正当な意見を言っていただけなのに。


「うるさい。もう、お前らなんて信用できるわけないだろ」


 友人の一人が話しかけてきたが、もう願い下げだ。

 すげなく断って横を向く。


「よく言うよなぁ!?いつもいつも偉そうに、彼女に頼り切っていた男がさ!」


 俺の言葉に、“元”友人が強く噛みついた。

 そして、それを皮切りに全員の視線が強くなった。


「評判も悪いしな」

「……行こう」


 全員が俺を置いて立ち去っていったが、どうでもいい。

 むしゃくしゃする。

 その背中を一瞥するが、何も感じない。


「あの場で、俺は謝罪したぞ。お前らはただ俺に隠れてただけじゃないか。なぁ……ミリ」


 口癖のように呼びかけそうになって、慌てて口を閉じる。


 いつもの癖で隣に話しかけていた。

 七年以上一緒にいた。

 しかし、それはあっさりと幕が降りてしまった。

 ……今さらどうでもいい。


「くそ……」


 腹立たしい。いつも俺にくっついて回っていたくせに。

 そうだ。あいつのものを全部突き返してやろう。

 そう思い部屋を漁ってみたが――。


「……あれ。何もない」

 確か、あいつは毎回プレゼントを用意していたはずだ。


「ああ……。受け取らなかった」


 そう。

 一度も受け取らず、突き返していた。

 この部屋に、ミリアのものは何もない。

 それどころか……。


 あれ……ミリアは、何が好きだった?

 甘いもの? 花? 色は?

 あれ……。

 これって普通、か?

 七年だぞ。


「……いや、忘れろ」


 むしゃくしゃして、衣装を新調しようと街へ出た。

 ブティックに入ると、店員がお勧めを並べてくる。

 ラッキーだ。

 お気に入りのデザイナーが新作を出していた。


 新調したいと思っていたんだ。

 しかも、色違いだ。選びがいがある。


「お、いいな。なあ、ミリア、どっちが俺に似合う――」

「……お客様?」


 店員が首を傾げ、こちらを窺っている。


「いや……。なあ、俺に似合うのはどっちの柄だ?色は?」

「いえ。お客様なら、なんでも似合いますよ」

「そんなことはわかっている!だからどっちか聞いているんだ!」

 店員は困ったように眉を下げた。


「そうですね、色合いはこちらの商品がよろしいかと……」

「そうか?だが、柄が気に入らないような……。いや、一番人気はどれだ?」


 何故か全てが噛み合わない。

 しっくりこなかった。


「お客様?どういたしましょう?」

「……いや左を……。いや、右。……いや……」


 その日、結局俺は何も買わずに帰った。

 ――あれ?買い物ってこんなにつまらなかったか?


『えっと、ダレンならね……。こっちがいいかな』

「……ミリア」


 振り返っても、そこには誰もいなかった。

 七年だ。

 この染み付いてしまった癖は、どうしたらいいだろう……?


 ◇◇◇


 ☆SS③ ミリアの休日 


 休日に街へ出ると、新しいパン屋がオープンしていた。

 小窓から覗き込む。

 内装も可愛らしく、パンも小ぶりで、食べやすい大きさに焼き上げられていた。


 そっと扉を開いて、店に入ってみる。

 その瞬間に、焼きたての香ばしい香りが漂ってきた。


(あ!これがいいな。美味しそう)


 もう隣から、彼の声は聞こえてこない。

 好きなものから逃げなくてもいい。

 そして今なら、好きなことも言える。


「これください」

「新作なので、今度感想をくれるならお安くしますよ?」


 店員が茶化すように言ったけれど、その瞳は真剣だった。

 うん、私もちゃんと言葉にしなきゃいけないわ。


「見た目がかわいいのは嬉しいです。味は……自信がありそうなので、楽しみにしていますね」

「……それはぜひ、楽しみにしてください」


 店主が笑顔でパンを包んでくれる。

 私も自然と笑っていた。



☆裏話です。


ダレンって、意外と「ミリア」って名前ばかり呼んでるんですよね。 逆にミリアは、ほとんど「ダレン」と呼んでいません。

読み返して作者もびっくりしました(笑)。

理由を考えてみたら、ダレンが毎回最後まで人の話を聞かないからでした。 ミリアは「あのね……」と話し始める前に遮られてしまうので、名前を呼ぶタイミングすらないという……。

キャラの性格って、こういう所にも出るんですね。


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