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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。

キタさんとミタオくん 2

作者: 灯月 寧
掲載日:2026/02/14

今日はバレンタイン。

川沿いの古いアパートの窓に、薄い冬の光が貼りついています。


ストーブはありません。

やかんを火にかけて、湯気で少しだけ部屋をあたためます。


キタさんは朝から机に向かって真剣な顔をしていました。

広告のチラシを三枚、じっと見比べています。


「……ここが最安値ですね」


メモにはこう書いてあります。

《板チョコ 特売》



帰り道、商店街の端のスーパーに寄りました。

派手な箱のチョコレートは、もちろん見ないふりです。


銀紙に包まれた板チョコを二枚、かごに入れました。


レジで少しだけ迷って、一枚戻しました。


「今日は一枚で十分です。気持ちは二枚分です」


誰にも聞こえない声で言いました。



部屋に戻ると、小さな鍋に湯をわかします。

ボウルはないので、どんぶりで代用です。


チョコを割りながら、つぶやきます。


「均等に割るのは難しいですね」


少し欠けたかけらは、味見ということにしました。


「毒見完了、安全です」


溶けたチョコに、砕いたビスケットを混ぜます。

形は不ぞろいですが、丸めました。


「見た目より、内容です」


アルミホイルに包んで、赤ペンで小さく書きます。


《みたおくんへ》


ひらがなにしました。

やわらかい印象だからです。



夜。

ミタオくんが帰ってきました。

手がかじかんでいます。


「ただいま。今日、風やばいね」


「おかえりなさい、先にお湯どうぞです」


湯のみを渡してから、キタさんは少しだけ背筋を伸ばしました。


「本日、行事があります」


「行事?」


「年に一度の、甘い日です」


包みを差し出します。



「え、チョコ?」


「はい。高級ではありません」


「そんなの関係ないって」


「関係あります。なので先に言いました」


ミタオくんは笑いながら開けます。

形の少しゆがんだチョコのかたまりが三つ。


「手作り?」


「台所作業です」


「ありがとう」


「どういたしましてです」



ラジオから偶然、バレンタインデーのキッスな曲が流れていました。


チョコをひとかじりして、ミタオくんが言います。


「美味しいね。なんか、安心する味」


「原材料が明確ですから」


「それだけじゃないと思う」



その夜は、いつもより少しだけ話しました。

将来のことは話しません。

明日のことを少しだけ。


電気を消すと、窓の外の川の反射が天井で揺れました。


キタさんは小さな声で言いました。


「高いチョコではありませんでしたが、気持ちの温度は高いです」


暗闇の中で、


「それが一番効くんだよ」


と、ミタオくんが答えました。


やかんの余熱だけが、しばらく部屋に残っていました。

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